第71話 リーダー


「それではホームルームを始めたいと思う」


ナータリを馬鹿にしたりしていたら、チャイムが鳴り、生徒が席につく。


好きな席でいいらしく、僕は一番後ろの真ん中、両隣にアルスとレーナが座る。


ナータリは少し離れたところ、皇子三人組は一番前。リリスは皇子の隣に座っている。


Sクラスの全員が教室の席に着いた後。


メガネをかけた陰湿な顔をした一人の男性が教室に入ってくる。


着ている服から察するに、このクラスの担任だろう。


「私の名前はアリオスだ。このSクラスの担任だ。よろしく」


教壇に立つなり、いきなり簡潔な自己紹介をする。


「ここに入学した君たちは誰よりも優秀で強くなくてはならない。明日から本格的な授業が始まる。だから今日、君たちには、このクラスのリーダーを決めてもらう」


リーダー?


「一年を通してのクラスの責任者だ。先生の伝言を伝えたり、集団戦における司令塔だったり、多くの事をこなす役目だ。一クラス各一名。選ばれた生徒はサブリーダーを指名できる」


なるほど、所謂前世で言うところの学級委員か。


他の委員は・・・いるわけ無いか。


掃除も行事も全て学園が請け負うから、クラス代表以外の委員はいらない。


「リーダーは基本的に立候補制。手を挙げる生徒が誰もいなかった場合は、くじ引きで決める。何か質問はあるか?」


生徒を見回しながら先生は言う。


それにしても、入学初日でリーダーを決めなければいけないのか。まだお互いの名前さえ知らないというのに。


最近の学校ってこうなのか?


まあ、いい。


「あ、言い忘れたが推薦もありだぞ。ただし、もし立候補者が二人以上になった場合は、演説、決闘、話し合い、などなど、好きなように決めてくれ」


ほ〜さすが、剣と魔法の世界だ。


決闘が存在するのか、面白い。


「ねぇ〜〜、これってもう、アレックス殿下で決まりじゃん?!」


先生が話し終えると、一人の生徒が発言をした。


金髪に焦げたような茶色の肌。制服の着こなしは、決していいとは言えないスラッとした女子だ。


「誰だよ!偉そうに!」

「え?あーしはミナス。マレック子爵家の長女よ」


誰かの野次に答えたミナスは、そのまま話を続ける。


「どう考えてもこの中で偉くて強くて優秀なのは、殿下以外ありえないじゃん」


「確かに」

「そうだよな、殿下以外ありえない」

「何より、かっこいいわ」


「みんなもそう思うでしょ。じゃあ決まり。いいでしょうか、殿下?」


周囲の反応を見ながらミナスはアレックスに尋ねる。


「うん、まあ。皆が言うなら」


どこか自信なさげに答えるアレックス。


もうこれで決まりそうだ。


特に何事も起こらずに。



はぁ〜〜見ていられない!


偉くて強くて優秀なやつなら、ここにいるじゃないか!


「はいは〜い。僕も立候補します!」


僕が手を挙げると全員がこちらを向いた。もちろんアルス、レーナたちも。


「だ、誰よ、貴方!今、せっかく決まりそうになっていたのに」


ミナスが目を吊り上げて俺を睨む。


「僕?僕はルイ。ブルボン公爵家の嫡男だが・・・文句ある?君たちよりずっと偉いだろ」


家名を出した途端、何か言いたそうだった全員が黙る。


これが僕の(家の)力だ。


全員逆らえない。


だが勇敢にも、いや愚かにもミナスは口を閉じない。


「み、身分だったらアレックス殿下の方が上でしょ?」

「はぁ?たかだか第三皇子でしょ?」


僕の発言にクラスが凍りつく。


「ル、ルイ兄様!その発言はいけません!」

「アルス、僕何か変なこと言ったか?」

「・・・・・・言いましたよ!」


耳元でアルスが怒鳴る。


だってそうじゃん!


皇子と言っても皇帝になるわけじゃないし、第三だから公爵家より発言力は小さいし。


「ルイ、それは不敬罪になるわよ!」

「公爵令息と敬称をつけろ!子爵家ごときが」

「うっ、でも、」


「はいはい、そこまでだ」


一向に食い下がらないミナスと僕の言い争いを、先生が止めに入る。


「双方言い分があると思うが、あまり過激になるな。ルイ、ここは学園だ。学園内では生徒は対等だ。今後、身分の話は持ち込まないように」

「チッ、は〜い」


素直にここは従う。


「で、本題の方だが。アレックスはどう思っている?」


・・・この人凄いな。仮にも皇子に向かって学園とはいえ敬称を付けないなんて。


まあ、僕も似たようなもんだが。


「俺、ですか?ルイが立候補してやろうとしているのなら、それでいいと思います」


「きゃー謙虚!」

「かっこいいわ!」

「声も素敵!」


アレックスが発言すると女子共が騒ぎ出す。


「じゃあ、他に立候補はいないな?だったら、このクラスのリーダーはルイで決定だ」


かくして入学初日から僕は、クラスのリーダー(実質、王)になったのだ!!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る