第70話 主人公① (リリス視点)


[さっきの奴、何だったんだ?]


クロが不機嫌そうな声で言う。


「さぁ?でもどこかの貴族の子息なんじゃない?」


私は歩きながら答えた。


[リリスは気にしていないのか?さっきの事]


さっきの事とは曲がり角で私が男子とぶつかった事だ。


「いや、だってあれは完全に私の方が悪いじゃん。走っていたし」

[まあ、そうだが・・・でも、だからといって、あんな上から目線に『これからは気をつけるように』って、なんだあの言い草!前方不注意はお互い様だろうに]

「クロ、そんな怒らない。貴族なんてあんなもんだよ。慣れているから私は平気よ」


どうやらクロは、あの態度に怒っているらしい。でも、あれは私からぶつかったんだし、貴族なんてあんなもん。横柄な態度は、当たり前。そんなの、いちいち気にしていられない。


「それにしても、ここさっきも来たような・・・?」


クロと話しながら歩いているが、向かうべき校舎に一向に着かない。


[ん?ああ、確かにそうだな。さっきから、ずっと同じ所をグルグルしているぞ]

「え!早く言ってよ」

[ごめん、ごめん]


そう謝るクロ。


「ここからの行き方、分かる?」


私は時計を確認して、クロに地図を渡す。


後十分で教室に行かなければいけないのに、道が全くわからない。似たような建物がいくつもあり、迷ってしまう。


[僕にはさっぱりだよ]

「え〜クロ!役に立たない!」

[うるさい!僕はガイドじゃないんだ!]

「はぁ〜〜どうしたらいいんだろう」


私が本気で困っていると突然後ろから話しかけられた。


「君、大丈夫か?道に迷っているのか」


声のした方を振り向くと、そこには三人の男子がいた。


私に声をかけた青髪の男子を先頭に、後ろに緑髪と赤髪の男子。


「あ、君は試験の時の!」


声を掛けてきた青髪の男子が私の顔を見るなり、思い出したかのように声を上げる。


「どこかで会いましたっけ?」


私の記憶の中に、こんな顔立ちの良い人はいないけど。


[たぶん、あの時、フードを被った人だったんじゃ?]


「フード・・・?」

「そうだ。あの時、君に道を教えた」


!!!


「ああ!『騙されさん』ね!」


「「「は!??」」」


[おい、リリス。なに、初対面の相手に変なあだ名を付けているんだよ!前も言ったと思うが、この男子、まあまあいい所のボンボン貴族だぞ]

「そうだっけ?」


私は自分の記憶を思い出そうとするが・・・って、相手の振る舞いやら行動を見れば一発で分かるわ。


背筋をピンと伸ばして立ち、制服を品良く着こなす。私と違い髪に上品な艶があり、僅かに香水の香りもする。


「貴様!この方を誰だと思っている」


赤髪が私を凄い形相で睨んで、声を荒げる。


「誰ですか?」


私は本気で分からず首を傾げた。


まだ二回しか会っていないよね?


「入学式の新入生代表挨拶を聞いていないのか!」

「すいません。遅刻して。道に迷っておりまして」


後半からしか入学式に参加できなかった。大失態!


それにしても、この人、新入生代表に選ばれるぐらい優秀な人なんだ!


[リリス、そう言う事じゃないと思うぞ]


???


「この方を見たことがないのか?」

「すいません、私、平民なので」

「なっ!だとしてもだ」


本当に記憶にございません。


私と赤髪、緑髪の会話のやり取りを聞いていた青髪の男子が、突然笑い出した。


「ぷっ、ははははは。まさか本当に俺を知らないだなんて!」


え!そんなに有名人なの?


「殿下、少し下品な笑いですよ」

「いいじゃないか。俺はあくまで学園の生徒だ」


殿下?


「それにしても、この無礼な女子生徒はどちら様ですか?会ったことがあるのですか」

「ああ、入学試験の会場近くでな。道を突然聞かれて、別れ際に俺に意地悪をして去っていったんだ」


あ、そうだった。


「その節は、すいませんでした」

「いや、俺は気にしていない」


なら良かったけど・・・本当に誰だ?


「あの〜お名前を伺っても」

「ああ、そうだった、自己紹介がまだだった。俺はアレックス・ド・フランシーダ。一応この国の第三皇子だ」


へ〜アレックスくんって言うんだ・・・・・はっ!


「皇子!本当に!」

「ああ、そうだ。あまり好きでは無い地位だが」

「そうなんですか・・・・!!!そんなことより、私、不敬罪に当たらないかな?お願いします!減刑をしてください」

「え、あ、おお。罪には問わんが」


よし、勢いで何とか罪を無くせた。


[リリス・・・]


「では、五年間よろしくお願いします」

「ああ。で、君の名前は何ていうんだ?」

「私?私の名前はリリスと言います。ただの平民ですが、よろしくお願いします」


私はペコリとお辞儀をする。


「差別はしないが・・・ところでどうして俺が皇子だって知っても態度を変えないんだ?」

「?一応言葉には配慮しています!ただ―」

「ただ?」

「ここでは対等な生徒同士ですから。全員が普通の生徒・・・・・ですから!」


私の言葉に何故か驚く三人。


そんなに変かな?


[おい、時間がないぞ!]

「あ!そうだ!早く行かないと!すいません、また道に迷っていて。一年S組への行き方、教えてくれませんか?」

「!S組だったら俺ら三人と同じだよ。一緒にどうぞ」

「そうなんですか!ありがとうございます!」


私はニッコリと微笑んだ。


これが、彼らとリリスの物語の始まりだった。

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