第63話 主人公⑪ (リリス視点)

10万字超えていました!

・・・まだ10万字でした。


―――



「冗談です!また会いましょう」


私はそう言って青髪の男の子に手を振って会場へと向かう。


[さっきの奴、君の知り合い?]

「そうではないよ。偶々いただけだよ」

[だよな。あいつ、どう考えてもいい身分な奴だよ]

「え!」


私はクロの言葉に驚く。


[リリス、格好やら容姿を見ていなかったのかよ。古びたローブを被っていたから分からなかっただろうけど、高価な衣服と剣を身につけていたぞ。しかも髪の毛はしっかり手入れされていて、どう考えても伯爵以上の貴族だぞ]

「そうだったかな〜?でも、貴族でもいっぱいいると思うけど・・・」

[胸元見たか?自分のは見せてたけど、相手のは見てなかっただろ]

「え、えっと〜」

[見てないな。ちなみに胸元には受験者のプレートが無かった。つまり受験者ではない。ただ、年齢的にリリスと同じくらい。伯爵以上は試験無しで入れるからそう思っただけだ]

「な、なるほど!クロ、名推理!」


私が感心して褒めると、クロは[それほどでもないよ]と照れる。


[ていうか、おい!早く行かないと試験に間に合わないぞ!]


会場に入ったためホッとして話をしながら歩いていたが、時間が無いのを思い出す。


「そうだった!」


方向音痴だったリリスは、学園に入ったはいいものの会場が分からず数時間も迷っていたのだ。


[相変わらずの方向音痴だな]

「それほどでも〜」

[褒めてないよ!って、そこ左!]


話ながら走っていたため、曲がるべきところを通り越してしまった。


[はぁ〜手のかかる]

「ごめんね」

[・・・精霊語で返す癖をつけろ。周りの視線が痛いぞ]

「・・・はぅぅ」

[おい、立ち止まるな!]


私はまたやってしまった恥ずかしさでその場で踞ってしまった。


精霊語を知らない人から見たら変な光景だ。

走っていた少女は一人ぶつぶつと呟いてたかと思うと、突然蹲る。


「受験番号五十番の方!五十番の方!」


[おい、呼ばれているぞ]


競技場へと続く通路からの大人の声で我に返った。


「あ、はい!私です!」


立ち上がり、走って向かう。


「え〜っと、君はリリス・・・チッ」


学園の教師と思しき人が手元の名簿で私の名前を見た途端、ニコニコと笑っていた顔を歪め、露骨な舌打ちをする。


「平民風情が」


小さな声で更にボソリと呟く。


[平民とわかった途端、この態度か]

[まあ、こんなもんだよ]


家族から迫害されていた私の唯一の遊び相手が平民の子たちだった。そして師匠の家に住み始めてからも近所の子たちとよく遊んでいた。


だから、私に平民への差別意識は無い。


でも、今の貴族社会では平民と言うだけでいじめを受ける。


平民の入学が許されているこの学園でさえ、そういう風習があるのだろう。


でも、私は負けない!


家族に捨てられた日に比べれば、耐えられる。


「本日最後は、受験番号四九番、オルナット・デ・グランズ。受験番号五十番、リリス」


アナウンスで紹介されると同時に、入場のドアが開く。


私は緊張してバクバクする心臓を落ち着かせるため深呼吸を一回して、入場した。


足を踏み入れると、先程よりも緊張感を感じる。


円形の競技場。観客席は数メートルの高いところにあり、沢山の受験生達が座っている。


私のいる中央のフィールドの地面は柔らかい砂色の土。


立ち位置は決められているのか中央には向かい合う白線。


[凄いな]


クロはその一言しか言えない。私も人の多さに圧倒された。


「リリスさん、前へ」


私が会場をおろおろと眺めていると、審査員の人が優しく注意してくれる。


「す、すいません」


私は急いで指示された白線へと行く。


相対するように反対の白線にいるのは対戦相手。たしか、オルナット君だったっけ?


高そうな鋼で作られたロングソードを腰にかけている。服装は肩当てと胸当てを付けている動きやすそうなものだ。


「おい、お前は平民か?」


私が観察していると、突然話しかけられる。


「ええ、まあ」

「ふっ、汚らわしい。俺は子爵家だ」

「はぁ〜」

「だから、ここで棄権しろ。命令だ」


[何なんだこいつ?偉そうだな]

[貴族だから、ね]


私はもう逃げない。もう、負けたくない!


「全力でお断りします!」

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