第64話 受験者50番


「本日最後は、受験番号四九番、オルナット・デ・グランズ。受験番号五十番、リリス」


そうアナウンスが流れると僕はアルスたちとの話をやめ、フィールドの方に全神経を向ける。


「ルイ兄様?」


話を途中で切り上げたことを訝しむアルスがこちらの顔を覗き込んでくるが、気にせずに試合を眺めることにする。


「さて、どんな戦いをするのかな?」


僕の知っている限り、今の時点でリリスが持っているスキルは三つ。

【ストップ】、【グラビティー】、【ライツ】

ストップは時を止め、グラビティーは重力を操作し、ライツは空気を操る。


聞くだけだと、何だ?と思ってしまうが侮ってはいけない。


何しろ小説の中とは言え、作中最強になるのだ。


今はまだ、精霊のクロノスとしか契約をしていない。だが、これから色々な精霊たちと契約を交わしていき、どんどん強くなっていく。


その前に潰したいが・・・小説内と現実はまた違う。

知識だけでは不安要素が残る。


まあ、勝てないことは無いと思うけど。



ちなみに小説では、リリスと戦うことになるのは僕、ルイとなっている。


目立ちたがりのルイは試験を受けなくても良いにも関わらず、出場。


散々リリスを煽った結果、瞬殺されるというオチになっている。


それを逆恨みして、学園入学後に色々な嫌がらせをしていくのだ。


こういう物語の流れはよく出来ていると思う。


煽り方も、読者がイライラするような最低な言葉だらけ。苛つかせるために、お膳立てとして周囲のリリス、つまり平民を見る目がどういうものなのかを細かく書かれている。


そんなお膳立てとルイの発言で、苛つきがマックスになった読者の目に、その後現れるのがリリスの強さ。


暴言にも屈せず、自分の実力で相手を黙らせる。


やられた後のルイの言葉も、いかにも小者のような発言をして読者はニヤニヤが止まらない。


しかも、物語を通してルイを悪役ボジションに定着までさせる。


しっかりと構成されている作りに、読んだ当初は感心した。


だが、今はそのルイになっている。



負けるとは思っていないが、僕は目立ちたがりでは無い。(アルスとレーナは否定するが)


だから、今回の試験には参加していない。


リリスを潰すべく、しっかりと観察をしておくのだ!



「平民風情が!俺様の言うことを聞け!」


そんな叫びが会場中に響く。


「お断りします。正々堂々とやらせていただきます!」

「黙れ!俺は貴族だぞ!」


会場、そして審査員もざわざわしだす。


この会場において、レーナを除いて唯一の平民であるリリス。


そんな彼女にはやはりキツイ目線が送られる。


段々と会場は男子の方に賛同する声がチラホラと上がる。


「そうだそうだ!」

「平民が出しゃばるな!」

「帰れー!帰れー!」


「せ、静粛に!」


堪らず審査員がアナウンスするが、罵声は止まらない。


「酷いですね」


アルスはそう呟く。


「まあ、普通だろ。僕だって身分の低い奴は好きではないね」


家柄こそ一番!


「それにしても、あの偉そうな男子は誰だ?アナウンスを聞いていなかったが・・・」

「ルイ様、彼はグランズ家の次男です」


グランズ家?聞き覚えがあるような・・・


「ああ、成り上がりの子爵家か」


思い出した。確か、グランズ家はおよそ百年前に南部での戦争で活躍して騎士爵から子爵に上がった家。


所謂新興貴族だ。


「成り上がりのくせに偉そうだな」

「ルイ兄様・・・」

「事実だろ。僕みたいな古くからの貴族にとって、奴らも平民とそう変わらない」


リリスよりもあいつの方に腹が立ってきた。


「あいつの家、潰していい―」

「「駄目です!」」

「チッ」


まあ、それは後でにして。


「小説と似た展開だな」


貴族がリリスを見下す。その後は―


まあ、勝敗は置いておいて、早く実力を見てみたいな。


「本当に俺と戦うつもりか?」

「ええ、これは試験ですから」

「吠え面を書くんじゃねえぞ、汚らわしい平民が!」

「精一杯、頑張ります」


こうして見ていると―


「ルイ様。これは見世物ではありません。入学試験です。ですからその楽しそうな顔はおやめください」

「い、いいだろ!」


受けない僕からしたら、見世物以外の無いものでもない。前世で言うと映画だ!


「は、始め!」


そんなこんなでしびれを切らした審査員が大きな声で強引に始めを宣言する。


「ふっ、平民なんか俺が―」


その瞬間、会場中が唖然とした。


相対していたオルナットはもちろん、僕も思わず声を上げるほどに。


始めの合図が言われた瞬間、先程までいた場所からリリスが消え、オルナットの前に一瞬で現れたのだ。

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