第62話 出会い (アレックス視点)


「し、勝者、レーナ!」


審査員の終了の合図が響く。


その声を只々唖然とした表情で眺めている三人の姿が会場にあった。


「何なんだ!どう考えても聖級はあるぞ!」

「ぼくも見たことがない物ですよ!」

「やばすぎだろ!」


三人は各々驚きの声を上げる。


「流石は公爵令息の従者ですね、殿下」

「ああ・・・」


驚きとショックで一言しか喋ることが出来ないアレックス。


目の前の光景を信じることが出来ずにいた。


レーナが聖級魔法を使ったことにそこまで驚いたのではない。


アルスとレーナを配下に持つルイに驚いた―いや、恐怖を感じたのだった。


自分を馬鹿にした相手、ノホホンと生きてきたであろう相手を何処かで馬鹿にしていた。


自分はこんなに努力したのだ!誰にも愛されなくとも、見てくれなくても一生懸命努力してきた。


「ルイ様と比べるまでもありませんね」


レーナの言葉に更に顔を強張らせる。


ルイの実力がどれぐらいなのか分からない。


ただ、自分よりは確実に上なのは理解した。


「見返すとかできるのかよ・・・」


弱音を思わず吐いてしまう。


それだけアルスとレーナの実力に圧倒され、実力差を感じさせられた。


「殿下?どうされたのですか?」

「その呼称で呼ぶな!バレるだろう!」


声を小さくしながらハンネスを叱る。


仮にも皇子だ。バレたら人だかりが出来てしまうのを知っているため、フードを被って顔を見えなくしている。


「すいません」


フレッドの応援のために来たはいいが、偶々ルイと同じ会場になってしまっていた。


来なければ良かったと少し後悔している。


「ごめん、ちょっと歩いてくる」


アレックスは徐ろに立ち上がる。二人は付いてこようとするが、それを拒否して席を立った。



誰かにバレるのではないかと思い、足早に会場から出て近くのベンチに座ってフードを外した。


「何であいつと俺に差があるんだよ!」


先程までは会場の雰囲気に飲み込まれたか弱音を吐いていたアレックスだが、外に出て少し大きな声で苛立ちを露わにする。


「どうしてどうしてどうして!」


僕が信頼を寄せれるのはあの二人の友人しかいない。


だが、奴には優秀な従者がいて、周りからも認められて、実力を持っていて・・・


「何嫉妬しているんだろう」


自分の感情がどんどん複雑になっていくのを感じる。


俺はこの学園に何で入ったんだ?何がしたいんだ?


ますます感情、思いが混乱していく。


どうすれば―


「あの〜すいません。第一会場ってここで合っていましたっけ?」


頭を抱えていた俺に一人の少女が話しかけてくる。


思わずそちらを向いてしまったが、すぐに後悔した。


また騒がれる。そう思ったが、


「あ、すいません。もしかして体調不良でしたか?」


目が合っているにも関わらず、俺の顔を見ても何も言わず、逆に何故か心配された。


「え、あ、いや大丈夫、です」


どうしてだか敬語になる。


「そうですか!それで、先程の質問なのですか」

「合ってるぞ。ここが第一会場だ」

「そうですか!良かった!」


よほど嬉しかったんか、ぴょんぴょんと飛び跳ねる。


「君も受験者か」

「ええ、一応」


胸元のプレートには五十番と書かれている。


「そうか」

「ええ!あ、もう行かなきゃ!教えていただきありがとうございました」


出場が近いためか足踏みを初めて会場へと入ろうとする。


アレックスは咄嗟に質問した。


「お、おい!俺の顔を見て何も思わないのか?」


その質問に訳が分からず首を傾げた少女だが、不意にニヤッと笑って返答する。


「右頬に汚れが付いていますよ」

「え!」

「冗談です!また会いましょう!」


本当に皇子と認識されていないらしく、しょうもない引掛けをされてしまう。


「何だったんだ?」


自分を知らない奇妙な少女。不敬ともとれる行動。


でも、心はの渦巻いていた感情が綺麗に流される感覚になった。




彼らの物語は始まったばかり。

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