第61話 受験者35番、36番
向かい合った二人。
レーナはいつもの無表情をするが、ダンは徐ろに口を開ける。
「これはこれは、囚われの姫じゃないか!遂に出会えたよ」
僕のところまで聞こえるやや大きな声で話しかける。
「レーナ令嬢よ、この気持ちを君に伝える日が遂に来た!俺と結婚してくれ!」
・・・・・・は!?!?
突然の公開告白。
え?まじで、何で?ギャグ?
「ダン君。ここはそのような場ではありません」
唐突な発言を審査員が注意をするが、特に気にすること無く話を続ける。
「ふっ、どこまでも世界が俺らの邪魔をする!だが、必ず道を切り開いて見せる!」
「・・・・・・」
「黙っている姿。それも可愛い。まるで気品高い猫のようだ。猫ちゃん♡」
(((((キツイ!!!!)))))
この場の会場にいる全ての人が思った。
ロマンチックを女子は求めるというが、あれはちょっと気持ち悪い。
格好つけすぎていて、あれが所謂痛い奴なのだろう。
「どうした?今、ここで返答してくれ、マイプリンセス。敵から、特に君を縛り付けている暴虐の公爵令息から守って上げる」
おい、数年前にお前は負けているんだぞ!
ていうか、本人がここにいるんだが。
「さあ、早く!」
全員の注目がレーナに集まる。
「・・・貴方はルイ様よりも強いのですか?」
「ああ、そうだ。君を守るために、この日まで頑張った。あの日の敗北を糧にして、今日まで努力をしてきた!そう、まるで物語の主人公のように」
自分で主人公と言ったぞ!
「そうですか。ちなみに私の何処が好きなのです?」
ど直球な質問をするレーナ。
「そうだな、話し始めたら時間が掛かるけど、言おうではないか!そう、あれはある晴れた日だった。いつものように―」
「早く始めなさい!」
長々しい話に入りそうなのを感じ取って、審査員が遮るように大声で言う。
「チッ、また邪魔をしてきた。まあ、いい。俺が伝えたいのはただ一つ。愛している、それだけだ」
凄いストレートで、文学っぽい感じだが・・・あいつが言うと気持ち悪く聞こえる。
「さあ、答えてくれ!」
再びレーナに視線が集まる。
告白された本人は表情を変えずダンを見つめる。
少ししてレーナはチラリと審査員の方を見て、答える。
「気持ち悪いです」
心底嫌なのか、顔を歪めて言う。
小さな呟きだが、静まり返っていたためか会場内の全員が聞こえた。
「は、始め!」
目線で合図をしたのか(どうやったかは分からない)レーナが返答したと同時に始まりの合図が出される。
「な、な、なんで・・・」
レーナの答えが自分の思っていたものと違ったためか、その返答に驚いてしまったためか、唖然とした表情を浮かべる。
そのため、合図が合ったにも関わらず、剣を抜かない。
「【エアー・スピア】!」
レーナが中級魔法を詠文無しで放つ。
「なっ、ぐはっ―」
無防備なその体に風の槍が放たれる。しかし、中級のためかナータリの放ったものよりは威力は無い。
当たってダンは後ろに吹っ飛ばされるが、少しして起き上がる。
「な、恥ずかりがり屋さんだ―」
「【エアー・スピア】!」
「ぐはっ」
もう一度レーナは放つ。
「ふっ、照れ屋さ―ぐはっ」
何度も吹っ飛ばされては立って、吹っ飛ばされては立ってと、見ていておかしな光景が幾度も続く。
体中が傷だらけになりながらも、格好をつけ続けるダンは何とも滑稽に見える。
一方で、無表情で魔法を放ち続けるレーナはどこか恐怖を感じる。
「あいつ、中々しぶといな」
「はい、そうですね」
僕はダンがやられる姿を嬉々とした目で見ていた。
「長いな。だが、もう終わりでいいだろう」
レーナも同じことを感じたのだろう。
吹っ飛ばされてもまた立ち上がるダンに向けて、聖級魔法を放つ。
「風の神々よ、我に力の風を、敵を倒さんとす、【エアスト・ホリー・スピルアー】!」
周囲の魔力がもの凄い勢いでレーナへと集まる。
巨大な水色魔法陣から空気が勢いよく漏れ出し、少しずつ人の数倍はある巨大な槍へと変化していく。
「な、それはやめ―」
審査員の声は届くこと無く、レーナはダンへと放つ。
ふらふらなダンは逃げることも出来ず、声すら上げれず正面から喰らう。
そのまま立ち上がらなくなる
「し、勝者、レーナ!」
あまりにも凄い魔法に呆けてしまう審査員だが、我に返ってすぐに告げた。
レーナはダンを一瞥して一言。
「ルイ様と比べるまでもありませんでしたね」
この出来事のせいか分からないが、翌年から男子が試験中に女子に告白するという風習が何故か生まれた。
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