第60話 負けろ!
アルスの試合が終わってしばらくして、本人が帰ってきた。
「ルイ兄様。しっかりと勝利してきました」
「チッ」
自信ありの顔で戦いに行って、ちゃんと勝利してくる。
「チッ」
もう一度舌打ちが漏れる。
「何で負けなかったんだよ!」
悪態をつくが、アルスはニコニコのまま答える。
「すいません」
あんな他とは頭一つ抜けた戦いをしたら流石に合格に決まっている。
心の何処かではこいつは仮にも自分の弟だ、と言う信頼があったのは置いといて、僕にとったら確定的に一人の監視がついたことになる。
「・・・そう言えば、ナータリ令嬢と何やら話していたが、あれは何だ?」
「いいえ、ただ引き抜きに会っただけです」
な、何だと!
「そのまま抜かれれば良かったのに」
小さく、だが聞かれるようにボソリと呟くが、アルスは気にしない。
「なので勝者がそれぞれの言うことを聞くという約束をしまして」
「で?お前が勝ったら何を要求したのだ」
「ルイ兄様の配下につくことです」
・・・優秀な奴め。
「いいえ、それほどでもありません。ブルボン家の為にです」
また心を読むな!
「はぁ〜〜、僕の配下は何でこんなに心を読んでくるんだ・・・・」
アルスとの話が終わったので目の前の試合に視線を戻す。
「やぁあぁぁ」
「いけぇぇえ」
「「「うぉおぉぉぉぉ」」」
受験者たちの雄叫び、会場の声援などなどの声が響き合う。
受験会場は今僕がいる場所の他にも他二つでも行われている。
一日に大体五十組行われ、数日間で試験は終わる。
「レーナ、お前は―」
「しっかり勝ってきます」
負けろよ、言おうとしたが言葉を被せられる。
「お前らは!」
僕の怒りを他所に、二人は飄々と表情をする。
「受験番号二十九番―」
「そろそろ私の番ですね」
審査員のアナウンスを聞いて、レーナが立ち上がる。
その顔はいつも通り、ただ仕事をしてくるようなすました(ルイ目線で)表情だった。
レーナが席を立って十五分後。
三十三番と三四番の試験が終わり、遂に彼女の番となる。
「アルス、レーナは勝つと思うか」
「愚問ですよ、ルイ兄様。勝てなければルイ兄様の面汚しですよ」
褒めているのか辛辣なのか分からない表現をする。
「続いては、受験番号三五番、レーナと―」
レーナは奴隷のため家名は無い。そのままレーナと言われる。
「―受験番号三六番、ダン・デ・アルマー」
その名前が呼ばれると、この会場の中で僕とアルス、レーナだけが驚愕した。
「何故あいつが!」
出てきた男子の方はサラサラの茶髪で高身長。装飾品は減ったものの派手な剣を腰に掛けている。
そう、数年前に愚かにも僕に決闘を申し込み、惨敗した元アルマー侯爵家の長男その人だ。
アルマー家は既に子爵となっており、ダン自身もあの事件を起こしたため通っていた学園を退学にされていた。
「何故出れる!?」
年齢で言うと、どう考えても僕より二〜三歳年上のはず
「・・・もしかしますと、誰かの従者として出た可能性も」
「なるほど!」
アルスは一歳下、レーナは一歳上の年齢。本来は今年は受けられない。
だが、つい最近出来たルールで、従者は五歳上又は二歳下まで実力があれば入学可能なのだ。
「だけど、従者を入学させれるぐらいの実力者なんて・・・最低でも伯爵以上だぞ」
僕が入学すると分かっていてやったのか?それともただの偶然か?
どちらとも判断付かない。
それよりも―
「レーナは勝てると思うか?」
「?実力的でしたら大丈夫ですよ」
「いいや、精神的にだ」
「ああ、でしたら大丈夫かと。ああ言うタイプは彼女が一番嫌いなタイプだと思います。なんとなく」
「そうか・・・」
なら大丈夫か。
「どうして気になさるのですか?先程まで負けろと仰っていたのに?まさか、好―」
「当たり前だろ!ここで負けたら体裁が無いだろ!」
潰しておいて、数年後負ける。そんなの恥でしか無い!
「だから、負けるなんて許されない!だが、僕のために負けて欲しい!」
「ルイ兄様ですね」
一人アルスは納得する。
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