第59話 受験者10番


「あいつ、いつの間に席外したのかよ」


先程考えていたこともあり、悪態をつく。


「受験番号九番、ナータリ・デ・フットナ。受験番号十番、アルス・デ・ブルボン」


アナウンスで言われると、二人の男女が現れる。


僕から見て右側から出てきたのは、茶髪で縦髪ロール少女。気の強そうな傲慢な顔立ちで、運動服には動きにくそうな宝石の装飾品が散りばめられている。



二人が相対した時点で開始の合図が出る。


二人はしばし見つめ合っており、何かを話している。


ルイには内容は分からないが、その場ではこんな会話がされていた。



「貴方、アルスって言うのね。確か、あのルイ・デ・ブルボンの腹違いの弟だったかしら」

「ええ、まあ」


アルスは簡潔に答える。


「ふふふ。私好みの顔をしているわね。ここで負けを認めて私の使用人にならない?」


アルスを変な目で見るナータリ。だが、アルスは意に返さない。


「いいえ、結構です。今の地位には満足しているので」

「そうなの?あんな傲慢そうな貴族の下にいて、きっと酷いことをされているんでしょうね」

「余計なお世話です」


アルスは剣に手を掛け、抜く。


「あら?本当にやる気?大好きなご主人様と同じ学校に入りたいのね。でも、残念。私は強いわ。貴方が勝てるわけ無いわ」


無言で構えの姿勢に入るアルスだが、反対にナータリは余裕な表情を浮かべる。


「私は魔法の名家、フットナ侯爵家の長女ですわ。妾の子である貴方になんて負けません」

「勝手に言っててください」


アルスは丁寧な言葉で返しながらも、声色には苛立ちを含んませている。


「ふふふ。威勢のいい男子は好きよ。いいわ、決めた。貴方が負けたら私の使用人、いえ愛人になりなさい」


歳に似合わぬ発言をする。


「たくさん可愛がってあげるわ」

「・・・ちなみに自分が勝ちましたらどうなるのですか?」

「勝つつもりなのね。可愛いわ」

「・・・では、こちらから提案です。ルイ兄様の配下になってください」

「いいわ、何でもして上げる」

「その言葉、お忘れのならないように」


そこで会話は途切れ、戦いの火蓋が切って落とされた。



何を話していたのかは知らないが、とりあえず戦いが始まった。


最初に先手を取ったのがアルス。


この会場内では一番のスピードでナータリへと詰め寄る。


「防げ、【シールド】」


その速さに驚愕しながらも、咄嗟にシールド展開させた。


剣が振られると、シールドを切り裂く。が、威力が少し弱かったのか、ナータリまでは届かない。


ちなみに、この会場では人が切られても死なずに気絶する魔法が掛けられている。


だから、アルスが本気で斬っても問題ない。


「なっ、早いわね!でも―」


何やら叫んだナータリだが、言葉を続けることが出来ない。


アルスは攻撃する手を止めず、何回もナータリへと斬りかかる。


その度にシールドが張られ、それをアルスが切り裂く。


それが何回も続く。


「あいつ、魔力切れを起こさせるのか?」


人が一日に使える魔力量は、個人差はあるが決められている。


使いすぎると魔力切れが起こり、体が動かなくなる。


「あ、あんた、ふ、防げ、【シールド】、攻撃の、ふ、防げ、【シールド】、はぁはぁ」


喋ろうとする相手に間髪を入れずに剣を振るう。


明らかに疲労が見えるナータリとは対称的に、アルスは息切れを一つも起こさない。


流石に魔力の限界が来そうなのか、ナータリが後ろへと思いっきり下がる。


「こ、これでも喰らいなさい!大いなる、風を起こし、雨を降らせ、【ウィンド・グラン・フレイン】!」


アルスの素早い攻撃を警戒してか、やや雑な魔法を瞬時に放つ。


「なるほど、魔法の名門家なだけはある。威力も上級か。だが―」


「「甘い」」


僕と観戦していたレーナの声が被る。


アルスは仮にも聖級を使える僕ら相手の練習をしている。


放たれた魔法は大きな風の槍(文字通り)となり、物凄いスピードでアルスに向かう。


アルスは身体強化、リミットブーストを使い、魔法を避ける。


「なっ!」


ナータリは驚愕の表情を浮かべ、固まってしまう。


その為、次の対応が遅れた。


アルスは距離を先程の数倍の速さで詰め寄り、剣を上から下へと上げるように振り切る。


「ふ、防―あはっ」


シールドは間に合わず、アルスの剣がナータリの首に届く。


「そ、そんあ、私が」


流石に侯爵令嬢を斬れなかったのか、首元で寸止めをする。


一方のナータリは、訳の分からないスピードに一瞬でやられたことへのショックと恐怖でその場にヘナヘナと倒れ込む。


「しゅ、終了!勝者、アルス・デ・ブルボン!」


審査員も、その圧倒的な速さの試合を前に終始唖然としていた。




「先程の約束、お願いします」


アルスは一言、そう呟いてその場を後にした。

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