第56話 仕事

久しぶりの帝都だった為、僕は浮かれていた。


外でぶらりと買い物(アンナのために)しようと思っていたのだが―



「ルイ公爵令息様、今年は我が子も入学するのでどうぞよろしくお願いします」


「我が娘は絶世の美女です。今度ぜひ会ってください」


「これ、つまらないお菓子・・・ですが・・・」


「どうか、どうか我が子の入学へのご助力を!ほら、お前も頭を下げろ!」


僕の部屋に、ひっきりなしに人々が出入りする。


僕が今いるのは、帝都の中でも最も大きい屋敷。公爵家所有の帝都用邸宅だ。


王城のある丘と堀を挟んだすぐ側にあるここには、朝から長蛇の列が出来ている。


「ルイ兄様、シルエット伯爵よりお菓子が」

「第七接客室に置いておけ。これからもお菓子は全てそこに置け」


「ルイ様、本当のお菓子は」

「はぁ!!お菓子はお菓子でなくては駄目だ。お菓子がお菓子である理由はお菓子だからであって、お菓子だったら―!」

「それよりどうすれば・・・」

「使用人たちに勝手に食べさせろ」


「ルイ様」

「何だ、元凶のセバス!」

「変なあだ名を―いいえ、それより、皇家よりお手紙が」

「あ”あ”、もう!こんな忙しい時に!」



公爵邸はここ二日間、どこよりも慌ただしかった。理由は―



「おい、セバス。僕を騙したよな」


忙しい一日が終わった夕食時。隣に控えていたセバスの方を睨んで言う。


「ルイ様。お食事の時はお話をなさらないのがマナーですよ」

「うるへぇ、もぐもぐ、はぁ〜美味い!」


注意をされて悪態をつきながらも体の疲労のため、食べる手を止められない。


全てを食べ終わったところで、改めてセバスの方を睨む。


「三つ言いたいことがある。何故お前がいる?何故あんなに人が来る?嘘をついたよな!」


僕の叫びに意も介さず、セバスが答える。


「全て答えましょう。私がいるのは当主様の名によるルイ様の監視兼世話役です。あれほど人が来るのは我々が帝国随一の公爵家だからこそ、貴族たちがすり寄ってくるからです。嘘、についてですが、もしかして初日のことですか?」


ああ、そうだ。二日前セバスは、『少しお仕事をしてから外で遊んできてください。簡単なお仕事です。人と話すだけの』 そう言われてから二日間。ずっと貴族や商人などと話しっぱなしだ!


「ルイ様、私は嘘を申しておりません。ただ、仕事が終われば遊びに行けるだけです。まあ、まさかあんなに面会を求める貴族やらが多いとは思いませんでしたが」


こいつ、僕を嵌めやがった。


「それと、だ。何でアルスもレーナも文句言わずに働いてんだ!」


今度はセバスの後ろに控えている二人を見て言う。


「我々の仕事はルイ様のサポートですから」

「そういうことではない!お前ら、試験勉強しなくてもいいのかよ!」

「!!!ルイ兄様が自分らの心配を!感動です!明日には魔物が空から降ってくるでしょう!」


あ”あ”こいつらもうざくて面倒くさい!


「おい、オールド!」

「はい」


主人を馬鹿にしている二人を置いておいて、扉の前で警備をしているオールドを呼ぶ。


「お前は何で・・・いや、当たり前か」


監視兼護衛だろう。


どうしてだ!何か監視されるようなことをしたか!


「おい、アルスとレーナ」


僕は再び二人の方を見る。


「お前ら、そんなにのんびりしていて試験受かるのか」


早く僕から離れろ!落ちろ!そう思いながら言うが。


「「安心してください。受かるんで」」


自信満々にハモりながら言う。


二人の目からも自信度がありありと分かる。


こうなったら仕方が無い。最終奥義!


「おい、主人命令だ!お前らは今すぐ帰―」

「ルイ様、それは無理です」


最後まで僕の言葉を言わせず口を挟むセバス。


「どうしてだ!僕の命令は絶対だぞ!」

「・・・・・・・ルイ様は家柄絶対、身分絶対主義ですよね」


突然何を言う?


「さて、では問題です。ブルボン公爵家の中で、最も偉いのは?」

「・・・父上」

「そうです。最も・・偉い当主様の命令で二人は入学するのです」

「チッ」


僕の主義で言う所がウザい。何も言い返せない。


「「ルイ(兄)様。五年間、よろしくお願いします」」


・・・僕にとったら自由に出来ない日々になるんだよ!


もうやだ!初めて今の身分が嫌いになった。捨てる気はないけど。


「それではそろそろご就寝のお時間です」

「あ、明日もあるのか?」

「ええ。学園に入学前日までは仕事をしてください」


そ、そんな馬鹿な!!!

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