第57話 主人公⑨ (リリス視点)

「帝立学園に入学、ですか」


師匠の家に来てから早数年。


訓練をしていた私を呼び出して突然告げた。


「あ、そうだ。いつまでもここにいてはお前の成長の妨げになる。だから、入学しろ」

「ですが、あそこは貴族しか入れません。私は元貴族で、今の戸籍は平民ですよ」

「安心しろ。数年前からあそこは平民の受け入れを始めている。試験にさえ受かれば入れる。ああ、ちなみに入学費などは我が負担するから心配するな。お小遣いなども帝都の古い友人に預けている。そいつを頼るといい」

「え、いや、」


師匠は一気に話を進める。


[なあ、入学って何だ?]


クロの場違いな問いを無視して、私は師匠に質問する。


「急に言われましても。どうして突然言われるのですか」


突然過ぎた。昨日まで普通の日常だったというのに。


「・・・我に旅にでなければいけない理由が出来たからだ」

「だったら私も―」

「無理だ!まだ十二のお前に旅は無理だ。まず、自分自身の能力を高めろ。そして、魔法社会で生き抜け」


師匠は悲しい表情を浮かべ、私の頭を撫でた。






それから数日後。


私は今、帝都にいる。


[わぁ〜人がたくさんいるな]

「ええ、そうだね!」


突然行かされた帝都。師匠に告げられたその日には既にマーセルを出発した。


師匠と離れ離れとなった一人旅。色々会ったが無事に着くことが出来た。



・・・・・・というか試験内容、私知らないけど大丈夫なのかな!明日だよ!



[うるさいな!君の心の声はある程度こちらに聞こえるんだよ!]

「あ、ごめん。でも!」

[待て!まず精霊語で話せ]


人が行き交う道の真ん中。精霊語の聞こえない周囲から見ると、少女が叫んでいるようにしか見えない。


「はぅ」

[何羞恥で悶えているんだよ。ここ数日はずっとそうだったぞ]

「はぅぅぅぅぅ」


クロからの衝撃の告白に私はその場にヘナヘナと倒れ込んでしまった。


[おい、しっかりしろ。早くあのババアが言っていた宿に行くぞ]

[・・・・・・はっ!そうだった!]


悶えていた私は正気に戻り、顔を上げる。


私は人混みをかき分けながら進むのだった。



「それにしても帝都は凄いな〜」

[そうだな。マーセルと違って道路も舗装されて屋台も多く、家も綺麗。ゴミは落ちてないし人も多い]


私は田舎者のように辺りをキョロキョロと見渡す。


[凄い。貴族の家とか大きいな]

「そうだね。何か長蛇の列が出来ているところもある。貴族・・・・・・」

[あ、ごめん。地雷だった]


そんな会話をクロとしながら目的地の宿屋へと着く。


『宿屋 スピリット』


二階建てで少し古びた看板の掛けられた場所。年季の入ったレンガは所々にヒビが入っていて、何回も修理した後が見える。


「こんにちは〜〜」


恐る恐る中へ入っていると、外見よりも落ち着いた宿屋。ホコリ臭さはなく、しっかりと清掃が行き届いていると分かる。


「ん?ああ、お前さんかね」


中にいたのはがっしりとした体つきの大柄の女性。歳は五十ぐらいで低い張りのある声をしている。


「どうも、リリスと申します」

「何畏まっているんだよ。これから五年間ここで暮らすんだ。私のことはナルガと呼んでおくれ、リリス」


私に近づき、大きな笑みを浮かべる。接し方が分からない私は苦笑いを浮かべる。


「あいつからここの宿泊費とあんたの毎月のお小遣いは貰っている。気軽に暮らすといいよ」

「わ、分かりました。ありがとうございます」


既に師匠が話を付けているっぽい。そういえば―


「ナルガさんは師匠のお知り合いですか?」

「そうだよ。まあ、私が助けられただけだけど」

「?!そのこと、ぜひ聞きたいです!師匠ってあまり自分のこと話さないので」

「そうか。でも、それは今度ね。今はとりあえず試験について説明するよ」


言われて私は我に返る。謎の多い師匠のことが気になりすぎて、ナルガさんに詰め寄ってしまった。


「す、すいません」

「いいって、いいって。旅で疲れているだろうけど、試験は明日だからな」


そう、試験日はもう明日に迫っている。私は試験内容はおろか、試験を受けることすら数日前に知ったばかり。


急遽ここにいるのだ。


私は今の状況に色々と疑問に思いながら話を聞いた。



入学試験は二つ。記述試験と実践試験。

記述試験は主に、国の歴史、計算、政治、外交、作法、魔法学、騎士学の七科。一試験百点満点での計七百点満点。合格は大体五百点以上らしい。


実践試験は記述試験を合格した人が集められて、一対一で行われる。勝敗よりも戦いの技術などを見られるらしい。その中から四百名ほどが選ばれる。


「まあ、こんなところかな」


話を終えたナルガさんが大きなのびをする。


私は聞いた内容を整理する。


[何か、ここ数年で君がやっていた勉強の試験内容だね]


クロが言うことに私は同意する。


そう、


師匠は私をどうして入学させようとしているのか?


そんな疑問を強めながら、私は次の日を迎えたのだった。

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