第41話 勇気
「【リミット・ブースト】」
地面を蹴ってコカトリスとクソガキの間に割って入る。
コケーーーー!!
大きな前足で僕を踏み潰そうとするが、僕はそれをシールドで防ぐ。弾かれた前足を引き戻そうとするコカトリスの隙をついて、剣を引き抜き懐へと入る。
切れ味抜群な剣でコカトリスの左羽を狙うように振り切ろうとするが、既のところで邪魔される。大蛇が読んでいたようにこちらの方を向いて口を開け、毒を噴射する。
「【シールド】」
咄嗟にシールドで防いだ僕は距離を取ったコカトリスに剣を構えて相対する。右羽を失った体のためか、不自然に左側に傾いている。だが、隙は殆どなくこちらを睨んでくる。
「【スモーフォグ】」
先に僕が動いた。霧魔法でコカトリスの視界を奪い、サーチでこちらは相手を見えるようにする。
だが、コカトリスの視界を奪うことは出来ない。何しろ尾っぽが蛇の頭のため熱センサーで簡単に知られてしまう。だから―
「レーナ!」
「はい!」
コカトリスが背を向けている方向に呼びかける。既に治癒を終えたレーナが思いっきり魔法を放った。
「我が元に集い、関を越え、大河と成れ、【ウォール・ホリー・グラン】!」
水流の槍が一直線にコカトリスめがけて行く。完全に不意をつかれたコカトリスは避けることも出来ず、ただ、どうにか本体である鶏部分を守ろうと咄嗟に大蛇が動いた。水流の槍を一身に受け止めて勢いを殺す。
「糞、賢い」
僕とレーナの息のあった完全な不意をつく奇襲。僕の作戦にはなかったが、視界の端に立ち上がったレーナを見つけたため咄嗟にやった事だ。
ココココケケケーーーーーー!
勢いを殺したものの槍を受けて左羽も失い、大蛇も死んだコカトリスは大きく咆哮する。
こちらを睨んでくるが死ねないと思ったのか急に背を向けて逃げ出す。
血だらけになりながらも僕らから逃げるコカトリスを眺めていると腰を先程まで抜かして涙目になっているクソガキが大きな声で言う。
「お、おい、止め刺さないのかよ」
僕はその質問に簡潔に答えた。
「ああ、優秀な配下がいるからな」
コカトリスが逃げた先。
その方向か一人の少年がコカトリスの前に現れた。小さい体の人間と思い前足で踏みつけようととした瞬間、急にその足が無くなりバランスを崩した。
コ、コケーー―
最後までは鳴かされなかった。
斬った主は高く飛び上がってコカトリスの心臓めがけて剣を突き刺した。正確に刺された剣は血を噴き出させることなく綺麗に命を奪った。
「あ、あれは」
「ああ、敵じゃない。アルスだよ」
トドメを刺し終えたアルスはこちらに気づいて笑顔で手を振ってくる。
少しして後ろから複数の騎士が現れた。
彼らに指示を終えたアルスは駆け足でこちらに駆け寄ってくる。
「ずいぶん早いじゃないか」
僕が不思議がると教えてくれる。
「ルイ兄様が急いでおられたので騎士を急かしまして。ただ、少し遅かったので先に来てみたらコカトリスとばったり会ったんですよ」
「そういうことか」
僕は目の前の惨状を見る。コカトリスの血溜まりと吐かれた毒によって腐った木々。
「まあ、死者ゼロだし良かったのかな?」
「はい。そうですね」
「ち、ちょっと待ってよ!何でそんなにお前らは強いんだよ!」
僕らが話しているのを訳が分からず聞いていたクソガキが言う。
「孤児院ではそんな実力見てないぞ!」
「当たり前だろ。魔法とかを孤児院で使おうと思わないし」
「・・・・ずるい」
おいおい、嫉妬かよ。
「俺は魔法の才能なんて無いし、剣だってそこの子分の子分みたいに出来ない。今だって、ただ怖がっていることしか出来なかった」
なるほど、僕らの実力を見て自分が情けなく見えた、と。
「おい、クソガキ。それは違うぞ」
「?何が?事実俺は弱いし」
「弱くはないぞ。さっき、もしお前がコカトリスの大蛇に枝を投げて注意をひいてくれなかったら僕は死んでたかもしれん。お前は・・・まあ僕の恩人でもある」
「子分・・・」
ああ、もう恥ずかしい!!
「と、とりあえず、自分が弱いとか実力ないとか思うな!これからつければ良い。お前はコカトリスに立ち向かった、それは誇って良いことだ。絶対に騎士になれる」
僕が言うと、クソガキは俯く。
「ありがとう、子分」
見ると目には涙を浮かべて笑いかけてくる。
こいつも怖かったのだろう。次元が違いすぎる強さの魔物と相対して、何も出来なくて。その気持ち、理解はしないが分かっている。
「お前、名前は何ていうんだ?」
僕は咄嗟に聞いた。
「マルク。マルクっていうんだ。子分は?」
「ルイだ」
僕らは握手をした。のだが、
「わ、眠い」
僕はそのまま気を失った。
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