第40話 コカトリス


コカトリスと相対した僕は、一度周囲を確認する。


後ろで気を失っているレーナ、目の前に大きな鶏の尾に蛇がくっついたコカトリス。コカトリスの後方の茂みには八人の子供たち。


僕一人でこの鶏を相手取るのは少し難しい。


負けることは無いが、戦闘できない九人を抱えては難しい。


 コケーーーー!!


コカトリスの方が先に動き出した。


大きな体を俊敏に動かしこちらに走ってくる。


僕は嫌がらせ程度の下級氷魔法を連射して時間を稼ぐ。


「我が元で、大河と成れ、【ウォール・ホリー・グラン】!」


聖級魔法を詠唱して、コカトリスへと放つが避けられる。


 クカァァァ!!


避けたコカトリスはチャンスとばかりに距離を詰めてくる。僕が魔法をもう一度詠唱しようとした瞬間、鶏の口から毒を吐き出した。

毒々しい色をした液が僕の方に放たれ、咄嗟に右に避ける。


毒は真っ直ぐ飛び、後方の木へと当たる。すると、木に大きな穴を開けて蒸発する。


「やべ、レーナが後ろにいるの忘れてた」


毒が飛んでいった木のすぐ前に気を失っているレーナがいた。

まあ、結果何も起きていない。


気を取り直してコカトリスを見る。


魔法を警戒するように距離を少しずつ詰め、詠唱させないような動きをする。


先に僕が動く。


地面に手を付けて詠唱をし始める。


「土よ、盛り上がり、」


し始めたと同時にコカトリスは地面からの急襲を警戒して飛び上がり、僕へ向けてまた毒を飛ばす。詠唱しているので防御できない。そう思っているだろうが、


「壁となれ、【ソイル・ホリー・シールド】!騙されたな!」


詠唱し終えると同時に周囲の土が盛り上がって僕を覆うように土の盾を創り出す。毒はその盾に当たって溶かし、穴を開けて蒸発する。その穴から僕はコカトリスに向けてさらに魔法を放つ。


「死を超え、光となり、駆逐しろ、【デス・ホリー・ライト】」


黒いモヤが目にも止まらぬ速さでコカトリスの右羽を切り落とす。


グアァッ、ゴゲーーー!!!


何が起こったか最初は分からなかったコカトリス。地面に降りて自分の右羽を失ったことを視覚と痛みで理解した瞬間、コカトリスは耳を塞ぎたくなるような雄叫びをあげる。

キリッとした鋭い目で憎むようにこちらを睨む。


「怒らせちゃったか。まあ、それでも僕が勝つがな」


バランスが取れないものの憎しみだけでスピードを上げてこちらに向かってくるコカトリス。

ただ、一直線に向かってきたため簡単に避けられた。


「甘い――!」


避けた瞬間、横から何やら長いものがこちらに向かって襲ってくる。横目でチラリと見えたのは大きな大蛇の顔。


まずい、と理解したときには既に避けきれる体勢では無かった。

死を覚悟した瞬間、横から木が飛んできた。


「子分!」


僕に噛みつこうとした大蛇の目に、あのクソガキが投げた木が当たる。

草むらから出てきていたクソガキは足を震わせ涙目になりながらも勇猛にまた一本、近くの木を拾って大蛇に投げた。


そのおかげで大蛇の注意はそちらに行き、すぐに僕は距離を取る。


 シャァァァ


「ヒッ!」


威嚇をするように口を開けると、クソガキを腰を抜かす。


動けなくなったクソガキはコカトリスを挟んで僕の向かい側。


いつクソガキが攻撃されるかもわからないから守りに行きたいが・・僕の近くには気絶しているレーナもいる。


糞、どうすれば・・・


「ルイ、様」


レーナの声が聞こえたため周囲を見渡すと、近くの木にもたれかかって自分を治癒している姿を見つけた。


「おい、大丈夫か?」

「はい、何とか」


まだ傷は治っておらず、苦しそうに答える。


「私のことは良いので、彼らを」


痛みを堪えながら言う。


「・・・分かった。お前を信じよう」

「はい、すいません」


レーナは謝ってくる。


ボロボロになりながらも人助けをする。流石元ヒロインだ。


「ああそうだ、これをお前にやる」


僕は徐ろにポケットからペンダントを取り出してレーナに渡す。


「これは?」

「そのペンダントをしていると魔法を強化してくれる。威力は大体1.2倍だ」


レーナはシルバーに光り輝くそれを珍しそうに眺める。


「どうして、私に?」

「そ、それは、僕の趣味に合わない地味なやつだったからだ!偶には労いも兼ねて配下に物を与えるのは貴族の役目だし。それに・・・お前の誕生日が近いし」


最後の方は小さく呟く。


「と、とりあえず褒美だ!」


誤魔化すように言うと嬉しそうに笑う。


「ありがとうございます!」


不覚にも僕はそう言われて嬉しく感じてしまった。


「じゃあ、僕は行く」

「ご武運を」


クソガキの方へと向かっていくコカトリスに追いつくようにリミット・ブーストを唱えた。


―――

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