第42話 終了

「―――ですからね!奴隷としての意識が足りないのでは?」

「黙りなさい。たまたま実力が出せなかっただけよ。貴方こそもう少し早く来れなかったの?」

「仕方なかったんだよ!あの騎士共、対応が遅すぎる!」

「そこをどうにかするのが貴方でしょ!」

「だったらそっちこそ兄様に迷惑を掛けて!」

「歳下のくせに生意気ね!」

「僕は一応ブルボン公爵家の一員だぞ!」

「だったら私だって正当なアルダリース伯爵家の娘よ!」

「落ちぶれただろう!」

「そっちも妾の子じゃない!」

「黙れ、胸デカ女!」

「な、気にしていることを!チビ!」

「うるさい!」


気を失って目を覚ましたら馬車の中、アルスとレーナが喧嘩をしている状態だった。


近くにいたクソガキ―改めマルクに状況を聞く。


「お、子分起きたのかよ。だったらあいつらを止めてくれないか?うるさいんだよ」

「その前に状況を教えてくれないか?」

「いいぜ。子分が急に倒れたから急いで馬車が用意されたんだ。それで今孤児院まで向かっている。ちなみに今は朝だぜ」


外を見てみると、日が昇り始めており掛けられていた毛布をどかすと肌寒く感じる。


「なるほど、分かった。他の奴らは無事か?」

「うん、前の馬車でぐっすり寝ているよ」

「そうか。で、あいつらは何で喧嘩している?」


「何で貴方がルイ様の部下なの?」

「お前こそ、兄様に買われなければ良かったんだ」


僕が起きたことには気づかず、罵倒し合う。何かすごい言い合いだな。


「さっきからずっとあんな感じだぜ。うるさいんだよ。子分止めてくれ」

「子分って・・・。まあ、いい。おい、お前らうるさいぞ!」


僕が声を掛けるとこちらに気づいて姿勢を正す。


「「おはようございますルイ(兄)様」」

「お、おう」


先程の喧嘩は嘘のように綺麗にハモる。


「お前ら、何で喧嘩していたんだ」

「それはですね、」

「ルイ兄様、こいつがですね、」

「貴方でしょ」

「お前だろ」

「いいや、絶対違います」

「いや、自分は何も―」


「お前ら、うるさいぞ!」

「「はい、すいません」」


また綺麗にハモる。流石元主人公とヒロインだが・・・二人が喧嘩していると小説を知っている僕からしてシュールすぎる。


「で、何で喧嘩していたんだ?一人ずつ話せ」


僕はレーナから順にそれぞれの言い分を聞いた。




「つまり、僕が気絶したのはどっちがのせいかを喧嘩していたと」

「「はい」」


何でそんな事をするんだ?どう考えてもどちらも責任あるぞ。


「結論から言うと両方責任がある」

「「・・・分かりました」」


僕の結論に納得する二人だが、隣で聞いていたマルクが口を出してきた。


「なあ、子分。何で二人が悪いって事になってんだ?自己責任だろ」

「「このクソガキ」」


剣に手を掛けた二人を宥め、答える。


「簡単なことだ。主君が部下に責任を押し付けるのは当たり前だからだ」

「・・・答えになってないし」


反論は一切受け付けません!


「あ、そうだ子分。改めて礼を言うぜ、ありがとう」

「・・・・・・クソガキが礼を言うなんて。明日には雨が降るぞ」

「いえ、ルイ兄様。氷が降りますよ」

「いいえ、ルイ様。魔物が降ってきますよ」


「お前ら俺を何だと思っているんだ!!!」

「クソガキ」

「バカ」

「脳筋」


僕らがそう言うと拗ねたようにそっぽを向く。


「そう怒るなよマルク。半分冗談だ」

「半分かよ!」


ツッコミを入れられる。


「だから、怒るなって。僕も一応感謝はしている。褒めてつかわす」

「上から目線だろ」


色々と騒がしくなった馬車だが、関係なく孤児院へと進むのだった。




孤児院に帰った僕らはそのままブルボン公爵家の邸宅に呼び出された。


「「誠に申し訳ありませんでした」」

「諌めなかったのはいけないことだが、二人は仕方無いとしよう」


本がたくさん置かれた綺麗な書斎。高価な机に手を置いてフカフカの椅子に座った父上がこちらをキリッと睨んでくる。


「ルイ。君は謝るべきだぞ」

「すいません」

「本当に思っているか?」

「いいえ、全く」

「はぁ〜〜〜〜」


父上が長い溜息をつく。


「お前はどうしてそんなふうに育った?私が怒っているのは二つ。孤児院の事を隠していたのと魔物のいる森に単独で入ったことだ」

「まあ、森に入ったことは謝ります。迷惑をかけて申し訳ありませんでした」


僕は素直に頭を下げる。


「孤児院については?」

「何か悪いことでしょうか?」


僕が首を傾げると怒気をはらんでいってくる。


「公爵であり、父親である私に隠し事をすると?!」

「父上もしますよね?」

「何のことだ」

「アルスの生母についての事を母上に話しますよ」


そう強請ると今までの形相が嘘のように慌てた顔をする。


「お、お願いだ。ヨーハナにだけは言わないでくる!おい、アルス、何故言った」

「主人の命に従ったまでです」


飄々というアルスを睨む父上。


父上は母上に頭が上がらない。そこを突いた。


「今回のことを不問にしていただけるなら話しませんよ」

「わ、分かった不問にする!するから言わないでくれ!」


親を強請る。案外楽しいな。




それにしても、入学まであと一年か・・・。

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