第37話 事件発生!
さらに半年。
「後一年ちょっとで入学か」
いつものように孤児院の椅子に座り、本を読んでいた僕は吐くように呟く。
そう、もう後一年。既にこの世界に転生して十一年経とうとしている。
魔法を極め、部下を集め、領地も持った。全てはあの主人公たちを潰すべく。
僕が入学するのは帝国の貴族たちが集まる名門校、フランシーダ帝立学園。小説内では文章で情景されていたため詳しい構造は知らないが、とりあえず大きく設備の整えられたきれいな場所だった事は覚えている。ダンジョンや闘技場など色々とある場所だ。
大体十二歳になると学園に行かされて勉学に励む・・・というのは半分建前。
結局そこでコネなどを作って、後々に繋げようとしているんだ。特に小さい家は、自分よりも位の高い家に媚を売って取り入ろうとする。そのコネが彼らにとって大事なのである。
逆に僕は媚を売られる側。
前世でも売られる側だったので特に変に思ったことはない。
もちろん、お世辞でも褒められたり、常に僕のことを肯定してくれるやつは嫌いではない。が、僕の力を自分の力だと勘違いして他人に振りかざそうとする奴は嫌いだ。
え?僕が親の権力を振りかざしているって?
そんなの知らん。
とりあえず、子供の時から未来を見据えて行くのが学園なのだ。
「アルス、どうした?」
横にいるアルスは意外そうな目でこちらを見てくる。
「いえ、ただルイ兄様が学園への入学を待ち望んでいることに驚いているんです」
「待ち望んでいるんじゃない。思い出したんだ」
「覚えている以上、ルイ兄様にとっては待ち望んでいると同じです」
「・・・いつも僕をどういった目で見ているんだ」
「良き主君、家柄第一の貴族様と見ています」
こいつ!
「お前遠慮なくなったな!数年前より口が悪くなっているぞ」
「そうでしょうか?」
アルスはとぼける。
この無礼な部下を殺していいかな?いや、いいに決まっている。
「ん?ルイ兄様、入り口が騒がしいですね」
僕の決意を他所に、アルスは顔を前方に向ける。
孤児院の入り口が騒がしくなっており、数人の大人が一人の少年に詰め寄っていた。
「何かあったのか。まあ、碌でもない事だろうけど」
「・・・ルイ兄様は興味を持たれないのですか?」
僕は本に目を戻して言う。
「どうせ厄介事だ。すぐに報告が―」
「ルイ様!」
「ほら」
「・・でしたね」
レーナが歳に似合わない大きな胸部を揺らしながらこちらに駆け寄ってくる。
「どうした?」
「はい。実は先程数人の子供たちが森に入ったっきり、戻ってこないらしくて」
時計で時間を確認すると、既に夕方の四時。
「確か、その子たちは一時ぐらいに外へ行っていました。ですが、遊ぶ場所は近くの原っぱでは無かったでしたっけ、レーナ?」
アルスの確認にレーナは答える。
「ええ、そうです。ですが、興味本位で近くの森に入ったようでして・・・今大人たちに囲まれているのは一番歳上の少年で、彼が目を離した隙にいなくなったようです」
なるほど。子供の行動力とは怖いものだ。
「なら、早く探しにいけばいいじゃん」
僕は特に大事だとは思わず、本を読み進める。魔法研究に関する本だ。
「実は、その森が問題でして」
「何だ?」
「魔物が生息している地元の人でも入らない危険な森だったようです」
それは一大事だな。
「そこで生息しているのは、基本的にスライムやアルミラージといった下級以下ばかりなのですが・・・少し深いところに行くだけで上級が出るような場所なのだそうです」
「ふ〜ん」
適当に相槌を打つ。
「あのー、ルイ様、話を聞いていますか」
「半分」
呆れた目で見てくる。
最近、そういう態度多くないか?
「そんな目でこの僕を見るな!一応お前らの主君だぞ」
「「すいません」」
心のこもっていない謝罪。
「ああ。もう分かったよ!助ければ良いんでしょ!騎士は?」
「既に呼びに行っているようです」
「じゃあ、レーナは先行隊としてガキたちを見つけといて。で、見つけたら狼煙でも上げといて」
「分かりました」
僕は本を閉じ、立ち上がる。
「ルイ兄様は?」
「騎士と合流次第、すぐに行く」
指示を終えると、レーナはすぐに駆け出した。
まったく、面倒くさいことになったよ。
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