第36話 夢
「はい、これで終わりだ」
「ぐ、ぐぬぬぬぬ」
「まあ、お前は善戦した。記録はさっきよりも数手延びたな」
「ま、まだ負けては―」
「終わりだ。二十一手目っと」
僕は満足気に笑みを浮かべると悔しそうにクソガキは地団駄を踏む。
「ずるしただろ!ずるを!」
「ほぉ〜負け惜しみか。孤児の分際で生意気だな、まけいぬ」
「うるさい!もう一回勝負しろ!」
「こんなに負けてもまだ傷を作ろうとするのか?よろしい、ズタボロにしてやる」
そう言って僕らは駒を―チェスの駒を並べ直す。
この世界にも存在するチェス。
僕はクソガキを潰すために色々なことで勝負した。
残念ながら体を動かす系は野生児に叶わなかったが、頭を使うものだったら圧勝する。
このチェスも三十回やって、僕の三十連勝。
「ルイ兄様は大人気ありません」
アルスが何やボソリと言ったが無視だ無視。
同じ年齢の奴と勝負しているだけだ。
「お、そこのお前!見てねえでやろうぜ!」
駒を並べ終えたクソガキは、側に控えていたアルスを見て言う。
「自分、ですか?」
「ああ、お前なら俺が勝てるかも!」
煽られてアルスは目を細める。
「・・・良いでしょう」
アルス対クソガキの戦いが始まった。
「な、何でだよ!」
「終わりです。十二手です」
結果から言うと瞬殺。
「アルス、手加減とかしないのかよ」
「ルイ兄様の騎士として主人の名声を傷つける訳にはいきませんから」
「お、おう・・」
こいつ本当に一歳歳下か?
「糞!もう一回、もう一回だ!」
負けたクソガキは負けず嫌いでまた勝負を挑んでくる。
僕らは呆れながらも付き合うのだった。
「糞ーーー!一度も勝てないよ!!」
「当たり前だ」
孤児と貴族では教育のされ方が違う。
「はぁ〜やっぱ俺に頭を使うことは向いていないな〜」
「当たり前だ?逆にどうして何回も挑んでくる?」
「こ、子分には負けたくないんだよ!」
「ふん、お前のほうが子分だな」
「うるせい!」
大きな声で否定してくる。
「体力だったら俺は誰にま負けないんだよ!」
「確かにそうですね」
アルスが肯定する。
「だろ?俺な将来なりたいものがあるんだ!何だと思う?」
問いかけてきたので僕は素っ気なく答える。
「知らん。興味もない」
返事を聞いてがっかりとした表情を浮かべる。
聞かれたらしかったらしいが、何故そんな回りくどいことをするのか?言いたいなら普通に言えよ。
僕は空気を読まなかったが、アルスは仕方なさそうに質問する。
「何になりたいんですか?」
聞かれて嬉しいのか満面の笑みを浮かべた。
「聞きたいだろ。俺の将来の夢は騎士になることだ!」
「・・・・・・」
「子分、何故驚かない?」
子分じゃねえし。
「いや、大体予想はできたぞ」
またがっかりした表情を浮かべた。
「ルイ兄様」
ああ、ガキは面倒くさい。
「何でなろうと思ったんだ?」
「!よくぞ聞いてくれた!」
クソガキはケロッと表情を変える。
「俺が小さい頃、洪水が起きて家と父さん母さんをなくしたんだ。泣きながら彷徨っていたら偶然魔物と出会ったんだよ。死ぬって思った時、町の騎士が現れて魔物をスパッと斬ったんだよ!あれはすごかったぜ!それから騎士に憧れたんだ!いつか俺も領主様の騎士になって多くの人を救ってやるんだ・・・って聞いているか!」
あくびをしていたらキレられた。
「ん?まあ、一応聞いてたよ」
「ここは涙を流すところだろ!」
何を言っているんだ。
「と、とりあえず俺はいつか騎士になって町の人々を守るんだ!」
能天気で羨ましい限りだ。
「その為に毎日剣を振っているんだ!どうだ、凄いだろ!」
「わぁ〜凄いねぇ〜。でも騎士になるためには読み書きが必須だぞ」
「・・・そうなのか!こ、これから頑張る!」
僕としても騎士が将来一人増えるのは嬉しい限りだ。
「で、子分の夢は何だ?」
「夢?」
クソガキが聞いてくる。
アルスも興味津々に耳を傾けてくる。
そうだな、 僕の夢か・・・
「権力を使って成り上がり共を潰すことだな」
「?」
「はぁ〜」
クソガキは頭に?を浮かべ、アルスはため息をつく。
呆れられようが関係ない!
家柄こそ全てなのだから!
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