第35話 鬼ごっこ

孤児院を初めて訪れてから一ヶ月。


一週間に一度は必ず見学をしに行っていた。


一緒に遊ぶ・・ということは流石にしなかったが、孤児たちの様子を遠目から見ていた。


アルスとレーナはやはり根はまだ子供だからか、楽しそうに同年代の子供たちと友だちになって遊んでいる。


し、嫉妬はしてない!


見てくれはともかく、これでも心は大人だし。


「ねえ、なんでお前は遊ばないの?」


ベンチで本を読んでいた僕に話しかける馬鹿者。


「またお前か」


一ヶ月前よりは健康状態が良くなっている、赤髪の男子。


初めてここを訪れた時に僕の服を汚した奴だ。


「どこか病気なのか?」

「ガキのお前には分からないよ」

「ガキって、お前も同い年じゃないか」

「そういうことじゃない」


説明するだけ無駄だ。


「なあ、子分。遊ぼうぜ!」

「嫌だ。それに子分ではない」

「いいだろ!なぁー遊ぼうぜ!」


読書に集中できない。


「僕を怒らせる前にどっか行け!」

「やだ」


クソガキめ。


「・・・そうか、わかったぞ!お前友達のいない可哀想な奴だからここにいるんだな」

「はあ!!?」


おう、ガキよ。今なんて言った!


「そうなら最初から言ってくれよ!俺がお前の初めての友達になってやる。どうだ、嬉しいだろ?」

「おい、クソガキ!」

「?」


自分の失言を理解していないのかウザったらしく首を傾げる。


「三秒やる。死ぬ準備はできたか?」


僕は近くにあった剣に手をのばす。


だが、クソガキは嬉しそうな表情を浮かべる。


「お!鬼ごっこか。俺得意なんだ!」


そう言って楽しそうに逃げ始める。


「待てぇぇーーー!!!」



数分後。


「ルイ兄様、落ち着いてください」

「ハァハァハァ、どけ、アルス。この無礼者を成敗してやる!」


剣でクソガキを斬ろうとする僕をアルスは全力で止めに入る。


一方で追われていたクソガキは楽しそうに地面に仰向けになる。


「そんなに俺に追いつけなかったのが悔しかったのか?」

「殺す!」

「兄様!ダメです!それと、君は煽らない!」

「?」


全てを本心で言っているようで、本気でなぜ僕が怒っているのか分からないらしい。


それにしてもこのクソガキは思った以上に体力もスピードもあった。


身体能力はアルスと同じぐらいで、僕は一回も追いつけなかった。


「はぁ〜疲れた!久しぶりに楽しめたぜ!」


僕は体力を消耗し肩で息をしているが、クソガキは元気な顔をしている。


「子分、もう息切れか?情けないぞ」

「はぁー黙れ!」


糞、このうざくて馬鹿なクソガキをここで成敗したいが・・いいや、それは大人げないな。


「今日のところは許してやるが、次は無礼を働かないように」


忠告するが、クソガキはまたも煽ってくる。


「おい、負けたのに偉そうだな。知っているか?そういう奴を大人は、え〜っと、負け犬って言うらしいぞ」


どこまでも苛つかせる。


だが、そろそろ帰る時間だ。


「ふん、次は覚えていろ」


そう捨て台詞を吐いて馬車へと戻った。




「糞、あのガキ。よくも煽ってくれたな」

「兄様もガキに入りますけど、世間的には・・・」


アルスの不敬な言葉は無視してあいつに勝つ方法を模索する。


体力では勝てない。だったら・・・


「ルイ様。魔法の使用は駄目です」

「チッ」


レーナから釘を刺され思わず舌打ちをする。


「だったらどうすれば・・・・勉強か?いや、あんな馬鹿に勝ったところで」


思案していると突然アルスがボソリという。


「ルイ兄様も子供ですね」

「あ”?」

「いえ、いつも冷静沈着で『身分絶対!』と仰っている方が、同年代一人相手にこんなにムキになられていて。やはり子供だな〜と」

「僕は十歳だぞ」

「まあ、そうなのですが・・・」


何故困ったような表情をするのか分からない。


とりあえず、勝つ方法を考えねば。

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