第38話 森 (レーナ視点)

私は命令を受けるとすぐに駆け出した。


身体強化を掛けて猛スピードで森へと向かう。


アンナちゃん、ライス君、ミレーヌちゃん・・・


いなくなった子たちの顔を思い浮かべる。


青年の話では、全部で八人いなくなった。


魔物は人を襲う性質があるため、子供たちは格好の獲物になってしまう。


そう考えるとスピードを上げる。


森の中に入るとすぐにサーチを発動させ、周囲の魔力の流れから見つけ出す。


走りながら探していると大きな魔力の流れを見つける。


まずい。大きな魔力の流れ、最低でも上級以上の魔物を見つけた。そいつはゆっくりと何処かへと向かっていく。


そちらの方へ集中すると、小さな流れが八つ。子供たちだった。


私はさらにスピードを上げて魔物と鉢合うのを避けるように迂回しながら向かう。


時折下級の魔物たちが襲ってくるが、相手をせずに子供たちと合流することを優先する。


暫く進んでいると、子供たちの反応が近くなる。


開けた所に出て辺りを探すと、


「レーナちゃん!」

「お、おい」


男の子の制止を振り切って、アンナちゃんが手を振って駆け寄ってくる。


「みんな無事?」

「うん、怪我はしていないよ!」


笑顔でアンナちゃんは答える。後ろの草むらで隠れていた他の子たちもぞろぞろと出てくる。

全員目立った怪我はないが、皆が恐怖でいっぱいな目をしている。


「もう大丈夫だよ。大人たちが騎士様を呼びに行っているからもうすぐで助けに来てくれる」


私が言うと、安心したようにほっとため息をつく。


「でも、帰ったらシスターさん達に謝らないと駄目だよ!みんな心配してたし」


少しキツく言うとしゅんとなる。


「それにしても、どうし―」


 グァアアァァァァ!!!!


私の話を遮るように大きな雄叫びが上がる。


私は咄嗟にそちらの方を向き、子供たちに指示を出す。


「みんな、近くの草むらに隠れて!」


どんどん、魔物が近づいてくる。


だが、子供たちは恐怖で動けないのか、立ち尽くしていたが、私がもう一度言うと、我に返ったように動き出す。ただ、アリスちゃんだけが私の側に来て服を掴む。


「レーナちゃんも逃げようよ!」

「大丈夫、私があいつを倒すから」

「でも、」

「心配しないで。また一緒に遊ぼうね」


不服そうにしながらも指示に従って草むらに隠れてくれたのを見届けて、私は目の前に集中する。


魔物が開けた場所に来た時、その姿が露わになる。


見た目は単純、鶏の首から胴体に尻尾は大蛇。大きさは五メートルで、足には鋭い鉤爪。


「コカトリス」


魔物の名前を口に出し、私は顔を顰める。


上級、いや上上級はあるコカトリスは、毒を吐く危険な魔物。鋭い鉤爪で大地を走って攻撃、口からは人の皮膚を溶かすほどの毒。一人では倒せない相手だ。でも―


「後ろにみんながいる。守らなくちゃ」


命令だからではない。


伯爵令嬢時代の時には作ることが出来なかった友達が後ろにいる。

一緒に遊んで、話して、食べて。それだけで私は幸せだった。初めてルイ様の部下で良かったと心から感じた。


「絶対に通さない」


コカトリスが先に動く。

鋭く大きな足で地面に踏み込み、空高く飛び上がる。下にいる小さな獲物へと狙いを定めて鉤爪を立てる。


だが、相手は小さな獲物ではない。魔法を使える人間だ。


「壁になれ、【トリプルシールド】!」


詠唱すると三つのシールドが頭上に展開される。そこへ来た鉤爪が二つを貫くが、最後の一つで何とか防ぐ。


防がれたことに驚き、コカトリスは後ろに下がる。そこへ、魔法が放たれた。


「我が元に集い、関を超え、大河と成れ、【ウォール・ホリー・グラン】」


大きな魔法陣に集まった魔力が水流の槍へと変化する。その槍がコカトリスへと行く。


グアアアア、コケーーーー!!


持ち前の瞬発力で既のところで横へと飛ぶが、横っ腹にかすり傷を負わせられた。痛みと憎しみで、その図体とは似合わない鶏の鳴き声と奇声を発した。


「まだまだよ―」


次の魔法を詠唱しようと口を開いた瞬間、コカトリスが視界から消えた。いや、実際には突然砂埃が起こり、見えなくなったと行ったほうが正しい。


「どこに?見せろ、【」


サーチを言う前に、横から何かが来るのを感じた。


一瞬の判断だった。


レーナはずっと練習してきた無詠唱で、シールドを咄嗟に展開させた。


「きゃぁぁ、」


大きな爪が張られたシールドを貫き、レーナの体へと当たる。

幸いだったのは、軌道がズレたおかげで爪の付け根が勢いよく体に当たった。


だが、それでも勢いよくレーナは横に吹っ飛ぶ。


地面へと転がったレーナの口から血が出る。


「誰、か・・・」


そう呟き、意識は途切れた。

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