第7話 生涯の主君 (アルス視点)
ボクは嫌われていた。
だれもボクが生まれてくることを望んでいなかった。
父さんも母さんも誰も。
小さい頃から父さんはいないものだと思っていた。
しかし、実際は違った。
ボクは公爵家、ブルボン家の血が半分入っていた。
ボクの父さんは公爵家の当主だったようで、母さんが亡くなると同時に迎えに来てくれた。
正直公爵という位がどれほど偉いかわからない。
でも、街で一番でかい家を持っていることにはビックリした。
まさかいつも眺めていた家に父さんが居るなんて思わなかった。
ボクは喜んだ。
父さんが迎えに来てくれたこと、これからも一緒に居られることを。
でも、実際は違った。
父さんには別の奥さんがいたようで、その人に怒られていた。
その人のボクを見る目は軽蔑と蔑み。
恐ろしくて堪らなかったけど何とか耐えれた。
新しい生活が始められる!
そう意気込んだけど・・・・・・地獄を見た。
屋敷の人のボクを見る目は父さんのあの奥さんと一緒。
軽蔑と蔑み。
苦しかった、辛かった。
まだ数日しか経っていないのにもう逃げ出したくなった。
ボクに食器洗いや掃除、洗濯。全てを任された。
五歳のボクには辛かった。
ちゃんと出来なければ怒鳴られ叩かれる。
力のないボクは耐えるしか無かった。
父さんはボクを避けて全く会えなかった。
ボクは一人なんだ。
そんなある日。
洗濯を押し付けられ、反抗してしまい、叩かれた時。
「おい、お前ら」
誰かがこちらに声をかけて歩いてくる。
「これはルイ坊ちゃま」
ルイ?ああ、初日に見たあの子。
おそらくこの家の長男で次期当主。ボクの同父異母の兄なんだ。
きっと凄く自尊心が高くて、人を見下すような人なのだと思った。
「私達はですね―」
「言い訳は良い。クビだ」
「そ、そうですよね。こんな汚らわしい―」
「お前らのことを言っているんだ」
「「「・・・はい?」」」
メイドさんたちが首を傾げる。ボクもポカンとする。
「聞こえなかったか?お前らを解雇するって言ったんだ」
「ど、どうしてですか!」
我に返った一人のメイドさんが慌てて聞き返す。
「どうしたもこうしたもあるか。お前らは仕事をサボっていたのだぞ」
「そ、それは」
「言い訳はいい。お前らがサボるために仕事を押し付けていたことは父様に言っておく」
「ま、待ってください」
メイドさんの一人がボクを睨みつけて話し出す。
「どうしてこんな卑しい奴の肩を持つんですか!?」
たしかに・・・そうだ。何故、助けられたんだ?
「たしかに、アルスとは同じ父でも、母の身分は違う。僕は公爵令嬢、そいつは娼婦」
「ですから―」
「勘違いするな。僕のような家柄がしっかりした高貴なものにとって、平民は平民でしか無い。お前らメイドは家で働いて何か思い上がっているようだが、所詮平民の血筋に過ぎない」
「う、うう・・・」
「しかも、仮にも僕の弟だ。これから僕の為に働いてくれる将来の部下だ。だから、手を出したら承知しない」
そう言い放たれるとメイドさんたちは悔しそうな表情を浮かべた。
何かぶつぶつと言いながらその場を去っていった。
後にボクとルイさんが残された。
「あ、あの〜」
「お前も勘違いするな。あくまでお前の将来を見込んで助けたんだ。僕を主君として崇めない言うならこの家から追い出す」
厳しい目で見つめられる。でも、
「いいえ、ボクは貴方様にお仕えしていきます」
一人だったボクに手を差し伸べてくれた、守ってくれた人。
どんな理由があろうと、助けてくれた人。
ボクをどんなふうに見てようが救ってくれた人。
ボクに選択なんて無い。
きっとこの人は良い人だ。
子供のボクには見極める力は無いけど、仕えてもきっと後悔しない。
そうボクは感じた。
家臣になるには臣下の礼をやるらしいが分からない。
だから自分なりにやった。
膝を付き、頭を下げて言う。
「ボクは、え〜っと貴方様に剣?を捧げます」
剣は持ってないけど、昔物語に出てきた礼の仕方を真似する。
「うむ、その剣僕のためにだけ使え」
「は、はい、え〜っと」
「・・・僕のことは様を付けて呼べ」
「はい、ルイ兄様」
「!!!・・・まあ、いい」
多くの人々に嫌われたボクは、生涯の主君を見つけた。
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