第6話 卑しい子
「よ、よろしく、お、お願いします」
茶髪で背の低い、可愛らしい男の子が頭を深々と下げる。
「アルス、今日からはしっかり家の為に励めよ」
「は、はい、父上・・・?」
「私のことは・・・まあそのままでいい」
父が母を気にしながら言う。
母はそんな父と茶髪の男の子を睨みつける。
「汚らわしい」
ボソリという母の声が男の子の耳に入ったらしい。悲しい表情を浮かべて縮こまる。
「あなた、どういうことなのか説明してもらうわ。ルイ、貴方は下がっていなさい。そこのお前は・・・自分の部屋に行きなさい。私の視界に入らないで」
いつもとは違う荒々しい言葉遣いで言う母。
僕はそんな地獄の雰囲気な部屋からそそくさと立ち去った。
僕の誕生日の次の日。
突然父が子供を連れてきた。
茶髪のその男の子の名前はアルス。父の隠し子だった子だ。
どこぞの娼婦との間に生まれたようで、最近母親が死んだらしい。
そのため父が引き取った。
そんなアルス・デ・ブルボンは僕の家族となった。一歳年下だ。
実は僕はこいつの存在を知っていた。
前世の記憶内にしっかりあった。
僕の天敵、蹴落とす一人として。
小説内でのアルスはあまり登場しない。
名前がチラッと出るぐらい。
しかし、系列作品いわゆるスピンオフ作品の主人公として出てきた。
不幸な生まれのアルスは最初、家の中で虐げられていた。
しかし、段々と剣の才能に目覚めていき、ある女性に出会うことで魔法の力も付けていく。
だんだん強くなっていき、父、そして義母(ヨーハナ)にも気に入られていく。
ルイ(僕)はそんなアルスを目の敵にして嫌がらせをしようとするが、それを物ともせず成長していく。
物語は本編ともかぶる。
本編での終盤、ルイは自分を認めない公爵家を乗っ取ろうと反乱を起こして失敗したと書かれていた。
そして、その立役者がアルス。詳細はスピンオフで語られた。
ルイがごろつきや傭兵を雇って公爵家を乗っ取ろうとしたが、規格外の力でアルスが退け、敗退。
そのままアルスが次期当主となった・・・というわけだ。
つまり、僕の天敵の身分が低いが成り上がっていくやつだ。
身分は卑しい娼婦の生まれ。前世の時代でも差別されるぐらいだ。
この世界での差別は計り知れない。
僕自身血筋がよろしく無い奴は嫌いだ。
さて、この後のことを考えよう。
このままあいつをいじめ倒しても最悪の未来しか無い。
何か、無いか・・・
そんな事を数日間考えていたある日。
いつものように魔法の練習を終わらせて、歩いていた。
中庭を通り抜けようとした時、誰かの罵声が聞こえた。
「卑しい身分の生まれが、何もできないじゃない!」
「ご、ごめんなさい・・・」
「謝って済む問題ではないわ!あんたは奴隷も同然よ!」
「す、すいません・・・」
「ふん、汚らわしい」
覗き見てみると、複数のメイドがアルスをいじめていた。
地面に転がっていたアルスを軽蔑した目で見て罵倒している。
メイドからもいじめられるとは。
「早く私達の分もしっかり洗うこと」
そう言って洗濯物をアルスに渡す。
なるほど、やりたくないから押し付けようとして、拒否されて怒っているわけか。
「しかし・・」
「口答えするんじゃないの!」
バチッン
強烈なビンタがアルスに飛ぶ。
わぁ〜お、痛そう。
「すいません、すいません・・・」
何度もアルスは謝る。
そこは従わないと。
さて、どうしよう。
これからの行動で未来が変わってくる。
・・・・・・引き込むか。
手元においていたほうが安心できるし、味方にいれば心強いやつだ。
専属護衛騎士にでも仕立て上げるか。
僕は意を決して中庭へと歩く。
「おい、お前ら」
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