第8話

「ーーってな感じで守三は運転してるのかもしれませんよ」


 安藤のことばに吉田は何も言わず、静かに助手席の窓を全開にした。

 そして夜の山に向かって思いっきり叫んだ。


「なっがぁぁぁーーい!」


 そして次に安藤の方に向き直り「話長すぎだろ! 予約してる新幹線もう出ちまったよ、完全に間に合わなくなっちまったじゃねぇか!」と怒鳴った。


「仕方ないですよ、守三さんのためですもん。普通席で帰りましょう」

「くそー! 何なんだよ守三! そんな奴いるわけねぇだろ!」


 吉田が憤っていると、前の軽自動車はセルフのガソリンスタンドに入った。

 安藤もその後を追うようにして曲がる。

 

「おいなんで俺らも寄るんだよ」

「レンタカーって借りた店から一番近いスタンドで満タンにして返さなきゃいけないんですよ」


 安藤が車を止めると吉田は舌打ちをして電子たばこを握りしめ、車のドアをいきおいよく開けた。


「どんな顔してるか見てやる」


 肩をいからせて出て行く吉田をよそに、車から降りた安藤はガソリンタンクの蓋を開けた。

「お願いですから、事件は起こさないでくださいよー」


 それに返事をせずに吉田はさっきの軽自動車の脇へ行った。

 ガソリンを入れていたのはジャケットを羽織った老人だった。よく見れば80代に見えなくもない。


 なんだババアじゃねぇのか。これじゃ安藤の妄想通りじゃないか。


「おい、じいさん」

 吉田が文句を言おうと話しかけた時、老人の肩越しに後部座席に載せられた物がちらりと見えた。


 それは布団に包まれていたが、運転時の振動のせいか顔の部分だけが少しめくれて老婆の顔が半分覗いていた。

 痩せこけていて、生気のない、一見すると死体のように見えた。

 

 それを見た吉田は一気に動転した。

 なぜだ。あれは安藤の与太話で、勝手な妄想のはずだ。じゃああそこに横になってるのはなんだ。なんであのばあさん布団でぐるぐる巻きになってんだ。


「あ、あんた……まさか、も……もりぞう……?」

 

 それを聞いた老人は目を見開き、そして膝から崩れ落ちて言った。


「自首します」


「えっ?」


 老人が何を言ったのかわからず、吉田は耳を疑った。

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