行方不明の姫君
「……この姿絵に間違いはないか? 」
声を殺して会話を再開する。
「ねぇよ。実物も見たことあるからな。誰かさんが行きたがらない狩猟祭で二度。てか、何だってあの子どもが姫と瓜二つなんだよ? 」
「そこはわからない。1週間前に森の中で意識を失っていたのを見つけて保護したんだからな」
「1週間って……姫が誘拐されたくらいじゃねえか」
「誘拐……確かか? 」
「ああ、あっちの国王が取り乱しながら叫んでいたのを見たからな」
「……あちらのことはおまえに任せ切りですまない」
「ホントだよ。有能な弟を
聞きたいことはいくつかある。
情報共有すべきこともある。
「……リカルド、頼みがある」
「はいはい、仰せのままに」
「今日は文句がないな」
「何言われるか分かってるだろうし、時間の無駄だろ」
「確かに」
「リチャード、大きめの紙を」
「それでしたら、引き出しの一番下にございます」
広い引き出しを引いて探ると見つかった。
「敷き紙として何枚かいれておりました」
「流石、だリチャード」
「勿体ないお言葉です」
執務机に広げると姿絵を端に置き図を書き始める。
「まずはここをライナード王国、こっちを我がファナシス帝国として」
左にライナード、右にファナシス。
「1週間前までライナードに王妹がいた。1週間前に両国の間にあるナイシャムの森の奥で5歳児くらいの少女を拾った……」
矢印と文字で書いていく。
「待て、兄貴」
「説明しながら時系列を追う、そう逸るな。彼女は1週間目を覚まさなかったんだ。3日前に様子を見に行くと、眠ったまま10歳くらいになっていた。そして目を覚ましたのは今朝であり、デュビュタントを迎えられるまでになっていた」
「……は? 」
「なんでそうなったのかは聞くな。俺にも分からない。彼女は記憶がないと言っている」
「本当ならーーー真実はわからないな。何かあればな」
「……自分はこんなに年若くないおばさんなんだとそれだけを言っていた。だからーーー」
「!? なら、毒薬か黒魔法で殺されそうになった可能性が出てくるな。副作用で子どもになったり、記憶を無くしたというなら辻褄が合う」
リカエルは頷く。
「頼みというのは他でもない。森へ入り、大きな切り株を見つけ、近くに痕跡がないか調べて欲しい」
「分かった。……兄貴、知りたいんだろ? 国王と王妹の関係。王が妹を王妃よりも大切に溺愛してデビュタントはおろか公式の場にも数える程しか出していない。狩猟祭でも大人気なく優勝をして王妹に誰も近寄らせなかった野郎だぜ」
短く、体感では長く感じる沈黙が流れた。
「じゃ、パパっと行ってきますよ。兄貴が何考えてるか分かり過ぎて嫌だねぇ」
「行く前にリーアに顔を見せていけ」
「なん……」
「レイリス公爵令嬢をいつまでもメイドにしておくなよ? 」
ーーーバン!
リカルドは顔を真っ赤にして荒々しく扉を閉めて行った。
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