終わらぬ夢と
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フワフワとした空間、まるで宇宙にいるような無重力状態。でも苦しくない。
ああ、また同じ夢。
彼も変わらずそこで懇々と眠り続けている。
ひたすら彼の瞳が開かれるのを見つめる。
(……ん? 何だか……陛下に似てる? )
こんな美形は2つもあったら胸焼けをしそうだ。
いやいや、きっと混合して脳内融合してそう見えている可能性も……。
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ハッと目が覚めた。
大の字のまま寝ていた。
直視した顔にすり変わるなんて夢あるあるだ。
きっとそうに決まっている。
ガバッと起きた。
そういえばお茶会がどうとか言われた。
記憶がない話をしてどうにか過ごし易い環境にしてもらおう、そうしよう。出来る出来ないの前に言ってみよう。
ーーーコンコン
しばらくすると控えめに扉をノックする音が聞こえる。
「はい」
「失礼します。お茶会の準備に参りました」
おなじクラシカルメイドが手際よく着替えをしてくれる。
(そもそも一々着替えなきゃならないのがめんどくさいな)
「それでは庭園にお連れします」
言われるがまま食事の時とは逆、左側の通路を進み、正面と左の分かれ道を左に曲がると先が異様に明るい。視界に入る距離まで来ると天井以外が吹き抜けになっていた。天井もしたから見なければガラス張りになっていることに気が付かないほど磨かれていた。
その吹き抜け、基、急な左右の開放感ある場所から右に出る。左右とも庭園でちらりと見た左側は高い生垣が続いていた。
(これはまさか……かの有名な庭園迷路というやつでは)
少し興味が沸いたけれど、迷子になるデジャヴしか感じないので瞬で切り替えた。
(……陛下が主人公ばりに助けに来てくれる既視感。イケメンしんどい)
そして向かう先には、綺麗な正方形の花畑かと見紛うくらいの広大な花壇が広がっており、その先にある東屋では、宝石のようなケーキやクッキーなどの甘味と共に向かいに座っている
(眩しい。何なら乙女の夢のアフタヌーンティーのお菓子たちより甘くて眩しい。……しんどい)
何度しんどいを真顔で思ったことだろう。毒より毒じゃないかと思う。
そんな優しい彼に今から私は現実を突きつけることになる。
大体がただの記憶喪失と扱われて信じてもらえないだろう。最悪、目覚めないまま放り出されるか。
ん? 思い出せないのは確かだ。夢だからモヤがかかっているなんてあるあるだし。でも何か引っ掛かる。それがなんなのか全くわからないけれど。
……クラシカルメイドが一歩下がる音がしてハッとする。
なんと言っていいか分からないのでドレスをつまみ、お辞儀した。
「……よく来たな。座れ」
「はい」
座り目の前をしっかり見ると……視界いっぱいに宝石かと思えるほど煌びやかなお菓子たちが並んでいる。お決まりのケーキスタンドがミニ博物館並に並んでいた。
シンプルで奇抜な造りの5段がひとつ。定番の3段はアンティークのような外巻きくるんとした足つきやアーチ型含め3つ。中の受け皿がトレイだったりお皿だったり、周りがまるで庭の一部かのような蔓薔薇がついてたり……。
カラフルマカロン、クッキー、スコーン、ミニケーキ、通常サイズのケーキ……。
(……待って、燕尾服の男性がキラキラカート押しながらとんでもないもの運んできたぞ)
それは、どんな仕組みになっているかわからないチョコレートマウンテンだった。まるで噴水のように地下水を掘り当てたが如く止めどなく流れ、溢れない。……魔法(* ᐕ)?
(……学習能力はないの? )
明らかに食べきれない量が展開されていた。
「食べないのか? 」
「……見ただけでお腹いっぱいになりそうなので次回から食べ切れる量でお願いします」
すんっという表現がピッタリな気持ちだ。
「食べきれない……朝もだが、食べきる前提で話をするのだな。残りはまた皆に食べてもらおう」
不思議そうな顔から目を細め、優しく笑う。
もうイケメンもお腹いっぱいになるよ……。
(いや、そうじゃない! )
なんでもないかのようにクラシカルメイドと燕尾服が紅茶を注いでいく。実にスマートだ。
(だからそうじゃない! )
頭を振り、正面を再度見据える。
「……お話があります」
陛下は金糸のまつ毛をゆっくり閉じ、開いた。
「話してみろ」
「はい、私はあなたの娘ではありません」
・ ・ ・ ・ ・ ・ 。
沈黙が流れたが、陛下の顔に変化はなかった。
「……順応していくものだと思ったが、そうか」
「え……? 」
「ああ、悪い。どこから説明しようか。ふむ……」
予想外の展開に私の思考回路は停止してしまった。
「そもそも君が森の中で意識を失っていた。そのままにしておく訳には行かず、城に連れてきた。ミレーヌは俺が勝手に名づけた」
……きっと今私は鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしている。たぶん、きっと、めいびー。
「え……? 」
何を言われているかの理解が全くもって追いつかない。
「……髪の色がおなじだったから、な」
「……」
「あの時は小さな……5歳児程度だったのだが、連れてきてまだ1週間程度だ。この1週間、目を覚まさず流石に心配になってはいた。目覚めた嬉しさから皆で張り切り過ぎたとは思う。しかし問題はそこではなく……」
私を見据えた。綺麗な顔で、綺麗な瞳で見つめるな。
「……デビュタントを迎えられるくらいの年齢に成長しているのは不可思議でしかない。リーアに様々な年齢のドレスを準備させていてよかった」
(……森で意識のない幼女をかどかわして育てようとした事実はまさにロリコンを疑われても仕方がない。1週間目覚めずに10歳近く成長して真顔で動揺している? どこから突っ込めばいいか分からないんだけど……、やっぱりロリコン? あとメイドさんはリーアさん……)
混乱しか出来ない現状だ。頭にはこの皇帝=ロリコン=やばいやつの構図になっている。
「色々考えて皆で娘として育てようと話していたのだが、このまま急成長するのなら妹か? いつ成長が止まるんだ? と会議が白熱しているところだ。異世界人は稀だが少なくは無い。理由はわからないが」
(私の知らないところで政治並みに話し合いしないでほしい。あ、いるんだ。異世界人)
本気で異世界転生したと思ってもおかしくない状況であるのは確か。
……優しい。放っておけばいいのに彼らはお人好しだ。右も左も分からないだろうと不自由しない場所に連れてきてくれたんだ。
本気でそれだけ……? 裏はないの?
「私は……私には記憶がありません」
きっと……きっと帰った異世界人はいないのだろう。
「ふむ、それは更に珍しいな。何か、些細でもいいから思い出せることはないか? 名前は? 」
些細なこと……。
「名前もわかりません。よく、わからないですけど私、ざっくり話すと、子どもではなかった気がします。むしろ、おばさんの部類……」
自分で口にしても嫌な気分だ。
「ん? 姪や甥がいたのか? 」
「分かりませんが、世間一般的な感覚で……」
「そうか。なら、元の年齢に到達したら何か起こるかもしれない。ありがとう。心配しなくていい。俺がいる限り不自由はさせないからな。君の言う世間一般的の意味合いも正直まだ理解ができないでいるが」
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