覚めない夢は甘過ぎる

姫宮未調

目覚めたらお姫様でした

ーーーいつも不思議に思っていた。

「おじさん」や「おばさん」と言われるキャラクターが若いことに。

自分が年を重ねる度にその年齢すら越してしまって何とも複雑な気持ちになる。

仕組みは分かっている、分かってはいるけど……認めたくない。

自分がその「おばさん」なんだとーーー。


٭•。❁。.*・゚ .゚・*.❁。.*・٭•。


フワフワとした空間、まるで宇宙にいるような無重力状態。でも苦しくない。

私は

そこにはがいることを。

フワフワした空間で懇々と眠り続けている。

私は無意識にその瞳が開かれるのを待っている。

一心で……。


٭•。❁。.*・゚ .゚・*.❁。.*・٭•。


ふと目を覚ますと見たこともない豪奢な部屋だった。

(夢? )

いつも夢を見ると大体序盤から夢とわかってしまうので色々楽しめない体質だ。

だが、違和感が襲う。

起きなくてはと必死になる度に夢の中で目が覚める夢は大体頭や体が異常に重い。

しかしどうだろう?

今の私は非常に軽い。何ならいつもよりも軽い……。

手が綺麗……?

ふと見つめた手が薄暗い中でも分かるほどいつも見ている手と違う。非常に滑らかで浮腫がなく、マメもなくて爪も綺麗に整っている。


ーーーコンコン


しげしげと眺め続けている中、ドアが叩かれる。

「は、はい」

無意識に返事をした。……声も幼い?

「失礼します。おはようございます、

恭しくクラシカルなメイドが現れた。

(ひめ、さま?? )

されるがままに顔を洗い、ドレスを着せられ、現在髪を梳かされている。

鏡を正面にした瞬間固まった。叫ばなかっただけえらい。

見たこともないようなキラキラした美少女が映っている。

……流されるまま考えた。これはなんだろうと。

(今流行りの異世界転生? いやいやそんなそんな……)

あまりにも現実味があり、目覚めるどころが目覚めている感覚だ。

なら次に考えることは……。

(私は誰か……)


ーーー・・・。


(? ? ……?! )

思い出せないが、こんなに若くはないと言う謎の確信はあった。

(しっかし、サーモンピンクかローズピンクあたりがヒロインの定番でしょうに、ピーチピンクってピンクと黄色混ぜた色とは……。ピンクなの? 金髪なの? どっち? )

はたとなる。

(……私なんでカラーに詳しいの? いや、これくらい知ってても不思議はないか)

問題は……。


ーーーワタシハダレ?


鏡の中にいるのは見知らぬ美少女のお姫様。

「……では姫様。陛下がお待ちですので参りましょう」

促されるままに廊下に出た。

彫刻の施された縁、縁、縁。ここで語彙力が迷子になりそうになる。

芸術には疎い頭が細かさに目をしばしばさせる。

ここは博物館か何かなのか。

クラシカルメイドについて行きながら、目だけで周りを見渡す。

汚れが目立ちそうな白やアイボリーの配色が目立つが全て人が生活しているのにも関わらず、綺麗だった。

完璧なメイドさんがいっぱい居るのかもしれない。1人くらいドジっ子がいた方が安心するくらい……一歩一歩歩くのも申し訳なくなる。

足元すらも真っ赤な絨毯が輝かんばかりに新品ばりに毛が生え揃っているから……。

気楽さを下さい……。

しかしーーー。


「どうぞお入りください」

案内された部屋の扉の高さはゆうに私の背丈の3倍はあり、横幅は10人近く並べる程。

更に彫刻がライオンやら豹やら虎やら……。

金色が迫ってくる。芸術品の圧で胃を痛めそう……。

中に開かれた扉。あまりの眩しさに心まで無言になる。

豪華過ぎて帰りたい……どこに? ここじゃないどこかに!

目が慣れると、とてつもなく長いテーブルの奥側1メートルくらいに所狭しと豪華な食事と2人分の配膳がなされ、最奥には男性が座っている。この位置からでは顔など確認出来ない。

「……姫様、ご挨拶を」

「え、あ、お、おはようございます……」

広いのだから大きな声を出さねばと思いながらも強ばってしまう。

しかしーーー。

見えないはずの男性の口角が上がった気がした。

「おはよう、。早く来て食べよう。はもう腹ぺこだぞ」

「は、はい」

パタパタと近寄った。

(ミレーヌ……パパ……。いや、パパっていうには甘くてイケボ過ぎる……。なんだこの生殺し感)

異世界転生に在り来りな設定ばかり飛び交う中、自分が誰かも分からないままで混乱しながらも、元来のオタク脳が動き出す。現金なものだ。


……食べきれなかった。食べ切れるはずがなかった。捨てるくらいなら別の料理に生まれ変わってきて!

「どうした? 」

「……食材が可哀想で」

ポロっと零してからハッとなる。

「そうか。……おい! 私とミレーヌの食べ残しで悪いが残りは厨房で皆で処理しろ。残すなよ? 」

「え……」

「「「はい! 畏まりました! 」」」

「あまり話さないおまえからの願いだ。欲がないよい娘に育っているな。嬉しいぞ」

パパと言うよりまだイケメン皇太子ですって言えそうなくらい若々しくて、殺人級の笑顔で娘を見るのを辞めていただきたい。しかも周りに怯える使用人がいない。完璧超人……。ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!

胃がキリキリする。胃の中は幸せ。なんだこれ。

優しくてイケメンで破壊力しかないけど、これが溺愛というものか……。メンタルが持たないので難易度下げて頂けますか。贅沢だけどこの贅沢に

耐えられるだけのバイタリティを持ち合わせていない。

「……どうした? 」

「な、何でもありません! ありがとうございました! 戻ります! 」

それっぽいお辞儀をしてこれ以上の直視が耐えられないのでぐりんと後ろを向き、扉に駆け寄った。

だがーーー。

後ろから抱きすくめられた。

(ヒィィィィィィィィィィィィィィィィィィ)

「……お茶の時間も忘れずに来い」

「はい」

秒で離れていったが、破壊力は健在。

扉は開かれ、(自動ではなく、騎士さん二人だった)クラシカルメイドと共に部屋に向かう。

周りを眺める余裕など、足元を気にする余裕などもう無かった。

小説みたいな、漫画みたいなイケメンを拝めただけで終了してください。きっと夢だから思い出せないだけで目覚めたらこっちを忘れるんだ。

余韻だけ残る、それでいい。濃い展開なんていらない。夢オチどんとこい超常現象。

「本日は陛下とのご用事以外ご予定がありませんので、お時間までお寛ぎくださいませ。失礼します」


ーーーバフン


扉が閉まると同時にベッドにダイブした。

寝れば帰れる、そう信じて……。

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