第68話 (後日談1)PCR検査漬けの日々

ロックダウンは2022年6月1日で終了しましたが、「普通の日常」が戻ってきた訳ではありません。


一番の変化は、スマホアプリを使った行動管理が強化されたことです。


ロックダウン前も、スマホの健康コードが陰性を示す緑色であることがチェックされる場所は少なくありませんでしたが、いつ検査を受けたかは問われていませんでした。


長い間検査を受けておらず結果として緑色だったとしても、緑色であれば問題なく殆どの場所に入ることが出来ました。政府・役所や一部病院では、それ以外にも行動履歴コードが直近で感染リスクの高い場所に行っていないことを示す緑色であることの確認を求めていた程度でした。


然しロックダウン以降は、先日も書きました通り、公共交通機関に乗るにも、病院・オフィスビル・スーパーマーケットに入るにも、72時間以内に受けたPCR検査陰性が求められるようになっています。


検査を受けてから結果がスマホに表示されるまで、短くても半日程度、私は最長で1日半掛かったことがあり、万一にもこの陰性証明が72時間を超えてしまうと、何処にも行けず、何処にも入れないことになります。


従って、72時間以内陰性証明を常に保持するには、ほぼ2日に一度はPCR検査を受け続ける必要があります。


尚、当初は自宅やアパートにすら戻れず混乱もありましたが、流石に市政府から「自宅には入って良い」との追加通知を出していました。


これだけでもかなりのストレスなのですが、PCR検査の効率化とコストダウンを目的に、途中から「混管hun guan」と呼ばれる混合検査に切り替わっていきました。


混合検査とは、複数(多くの場所では10人だったようです)の人のPCR検査検体を同じ試験管に入れることで、つまり偶々一緒に受けた10人の中に陽性者が居れば巻き添えを食うということになります。


流石にその10人がそのまま全員を陽性者扱いにするのではなく、再検査して真の陽性者を炙り出すのですが、それでも再検査結果が出るまでは「自分が陽性ではないか」という恐怖の時間を過ごし、仮に陰性でも結果が出るまでは外出禁止となる為、仕事や生活にも影響が出ることになります。


従来通り一人ずつの検査を「単管dan guan」と呼んでいましたが、直近で陽性になった人、海外入国隔離が終わった直後の人のみが「単管」を受けることができるルールで、当初はお金を払えば一部の病院では希望者には「単管」をやってくれたのですが、それも徐々に無くなり、ほぼ全員が強制「混管」になっていきました。


例えば飛行機で出かけようとする人が、直前にこの「混管」で陽性疑いが掛かると当然に空港にも行けず飛行機にも乗れないことになります。


町中には次々に仮設のプレハブPCR検査ボックスが設置され、更にスマホアプリには検査場とその混雑状況まで表示されるようになるなど、IT先進国中国らしい迅速な対応ではありましたが、どうみても「異常な世界」になっていました。


このPCR検査漬けの日々は、2022年12月~2023年1月の感染大爆発終了後に漸く廃止されました。


町中には膨大な検査ボックスが無用のゴミとして放置されていました。


一説には、こうしたPCR検査体制づくりの為に膨大な資金が使われ、少なからぬ地方政府が財政難に陥った、とのことです。

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