第4話 広告社会

 悲しい話なので認めたくないが、懐事情と品性は比例の関係にある。

 コンビニやスーパーでクレームを入れるヤツはいても、高級デパートで騒ぐヤツはあまりいない。

 牛丼屋やファーストフード店で飲食店テロするヤツはいても、三ツ星レストランで粗相をするヤツはあまりいない。

 因果関係については深掘りしないが、金を払わないヤツに限ってマナーが悪いという傾向がある。

 となれば、無料サービスならば尚更だろう。無料で提供されているだけでありがたい話だというのに、平気でそれにクレームを入れる輩が一定数存在する。

 当然の話だが、クレームきっかけで無料サービスを改良しようとはならない。廃止する方向でいくのが当然の流れ。

 だが、光明があった。無料を貫きつつも、リターンを得ることができる方法が見つかったのだ。

 そう、広告である。

 広告を見れば無料サービスを受けられるという制度にすれば、継続する価値が生まれる。クレームが悪化する恐れもあるが、そんなものを気にする必要はない。偉人の像が建つことはあっても、クレーマーの像が建つことなんてないのだから。




「スキップ不可のヤツかよ! 早く! 早くしてくれ!」


 顔面蒼白で騒ぐ男。彼が今いるのは、公衆トイレだ。

 無料ゆえに意識していないだろうが、トイレの清掃費とは案外高くつくものだ。

 頻度を下げればいいのだろうが、場所によってはそうもいかない。

 「どうやってらそんなに汚せるの?」と聞きたいくらい、無茶苦茶な使い方をする輩があまりにも多すぎるのだ。これもまた、無料の弊害と言えるだろう。

 解決策として、ありとあらゆるトイレに広告がついた。広告を見なければ扉が開かないというシステムだ。


「れ、連続広告……スキップ不可で三分だと……」


 清掃費を賄うための広告なので、比較的長めの物が多い。

 異常な汚し方をする人間のせいに他ならない。

 コンビニや飲食店のトイレも同様だ。金持ち御用達の店は広告無しでもトイレを利用できるのだが、貧乏人御用達の店は長めの広告を見なければ利用できない。

 これとの因果関係はわからないが、オムツの売り上げが爆発的に上昇したらしい。




「ちょっと! 一刻を争うんだけど!」


 我が子が泣いているにも関わらず、癇癪を起こす女性。彼女が騒いでいるのは、授乳室の前だ。

 条例で授乳室の設置が義務付けられている建物もあるが、基本的には善意によるものだ。

 だが、善意というのは一部の変人に踏みにじられるのが世の常であり、以前も寄贈された段ボール授乳室が一部のパープリンにクレームを入れられた。

 その結果、全ての授乳室に広告制度が導入された。

 善意の設置ならまだしも、条例で義務付けられている建物で広告をつけるのはいかがなものかと騒がれたが、国としても助成金を払いたくないので黙認している。

 これとの因果関係はわからないが、出生率が右肩下がりらしい。




 広告制度はありとあらゆるものに適用された。

 飲食店の水や、備え付けの調味料、ラーメンの替え玉。無料サービスにはもれなく広告が儲けられた。

 喫煙所も公園もフリーWi-Fiも、全て広告ありきだ。

 どのサイトも動画広告を見ないとページが見れないので、気軽にネットサーフィンすることもできない。

 利用者としては不便な制度ばかりだが、パパ活に関しては面白い方向に変革した。

 金銭トラブルや脱税を防ぐ目的で、広告制度が導入されたのだ。

 広告料は言うまでもなく、国とパパ活乞食女で折半。言ってしまえば、合法的パパ活だ。

 乞食女とデートがしたければ、国の公式パパ活アプリでひたすら広告を見たり、アフィリエイト先の商品を購入しなければならない。手間と金は従来よりもかかるが、合法だというのもあり、パパ活おじさんは急増した。噂では、広告ポイントを稼ぐ裏バイトも存在するらしい。




 にわかには信じがたいが、救急車をタクシー感覚で使うバカが存在するらしい。

 どこまで本当かわからないが、蚊に刺されただの、包丁で指を切っただの、家にヘビが出ただの。無料なのをいいことに好き勝手なことをする不心得者がいるらしい。

 これまでの流れで察しているかと思うが、救急車にも広告制度が導入された。

 コール中に音声による広告、救急隊員のヒアリング前に広告、乗る前に広告、搬送中も広告が流れる。意識不明の患者の搬送中でも広告が流れるのは、いかがなものだろうか。

 面白い事例としては、重体の患者の搬送中に葬式所の広告が流れた、街金の社長の搬送中に借金減額の広告が流れたというのがある。

 ちなみに、救急車に乗らないくせに呼んだ輩は無理矢理乗せられ、四十八時間ぶっ続けで広告を見せられる。爆音なので寝ることもできず、結果的に本当の患者となるパターンが多い。




 広告制度の勢いが落ちる気配はまるでない。

 選挙、AED、消火器、警察、役場、ありとあらゆるものに広告制度が導入されつつある。

 因果関係は全くわからないし、ないと思うが、投票率の低下、死亡率の増加、大規模な火災の増加、犯罪率の増加などなど、不運と呼ぶしかない傾向が続いている。

 噂では近々、投げ銭制度を導入するらしいのだが、一体どうなることやら。

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