第3話 自由度が高すぎるSLG

 俺は里中、どこにでもいる日本人男性だ。本当にどこにでもいる。この前も道端で俺を見かけた。この前なんか、一日で五人ぐらい見かけた。まあ、普通のことなので深掘りする気はない。本題に移ろう。

 俺の家は厳しく、ゲームを一切買ってもらえなかった。周りがゲームの話で盛り上がってる中、寝たふりを決め込んでいた学生時代を思い出すだけで吐きそうになる。

 なんならもう吐いてるし、パンツも使い物にならなくなった。

 嘔吐と失禁は日常茶飯事なので置いておくとして、社会人になり自由になった俺はゲームに手を出した。

 だが、ろくにゲームをしたことない人間が、レースゲームやアクションゲームを上手くできるはずもなく、どれも長続きしなかった。

 そんな俺に、小学生からの友人であり生粋のゲーマーでもある池田が、新作のSLGを一緒にやろうと誘ってきた。よくわからないが、シンプルな戦争のゲームらしい。

 戦争ゲームというジャンルは初めてなので、恥ずかしながら少しワクワクしている。この歳でゲームに興奮するなんて、失禁よりもよっぽど恥ずかしいな。


「よし、招待を送るぞ」

「ちょっと待ってくれ、池田。説明書が分厚すぎて全然読めてないんだ」


 通話をしながらゲームというのも初めてだし、戦争SLGとやらも初めてなんだ。少しくらい待ってくれよ。初心者をいたぶって楽しいのか? カメラ繋げて失禁してもいいんだぞ?


「こういうのはやりながら覚えればいいんだよ。俺も初見だし、説明書なんて読んでないぜ?」

「なるほど、軽く読みながら試行錯誤する感じか?」

「そゆこと、ほら、招待送ったぞ」


 習うより慣れろということか。まあ、お互い初見ならそれぐらいがちょうどいいのかもな。ゲーム有識者に従っておこう。


「一応俺も概要だけ読むな。えーっと、今時ターン制か。長くなりそうだな」


 よくわからないが、ターン制というのは今時珍しいらしい。まあ、暇だから長くなってもいいか。


「相手の部隊を全滅させるか、基地を占領で勝利か。懐かしいな」

「へぇ、昔のSLG寄りなんだ」

「建物を占領すれば収入増えるのか。じゃあまずは占領できる歩兵部隊を量産してみるか。序盤は金も無いしな」


 初見なのに手慣れた感じで歩兵を量産する。ゲーム有識者が先行でプレイしてくれるのはありがたいな。

 お互い最初のターンは歩兵の製造だけで終わった。あれ、明らかに先行有利では?


「よし、近くの建物を占領してみるか」


 池田が歩兵ユニットを近くのビルみたいな建物に移動させる。


「あれ、なんか民間人がいるぞ」

「命乞いしてるな。戦争ゲームってこんな感じなの?」

「いや、どうなんだろ。とりあえず占領っと……」


 困惑したまま占領コマンドを選択する。これで、池田の毎ターンの収益が上がるのかな?


『兵士が嫌がってます』

「はぁ?」


 謎のメッセージにより、占領が上手くいかなかった。池田の反応を見た感じ、この手のゲームに無い要素なのか?

 池田に助け舟を出すべく、説明書を確認する。


「池田、兵士の感情が成功率に関係するらしいぞ」

「感情だぁ? なんだそりゃ」


 納得がいってない池田が、兵士のステータス画面を確認する。

 そこには『戦争反対派』の文字が書かれていた。なんだそりゃ。


「なんだよ! 賛成してなくても占領ぐらいしろよ!」


 他の兵士ユニットも確認するが、同じことが書かれていた。愛国心がないのか?


「ええい! 占領しろ!」


 未行動の兵士ユニットを別の建物に向かわせ、占領コマンドを選択する。


『兵士が嫌がってます。五人離脱しました』

「はぁ!?」


 一ユニットにつき十体いるのだが五体減って、灰色の歩兵部隊がマップに出現する。ちなみに池田が赤の部隊で俺が青の部隊。灰色はフリーか? 建物も灰色だし。


「なんだこのゲーム? よくわからんがターン終了だ」


 新たな歩兵を生産することなく、ターンを終了する。

 俺はどうすればいいんだ? あんなの見せられちゃ占領なんて選べないぞ。

 とりあえずユニットを動かす前に説明書を軽く読む。


「なになに、自軍の建物では宴ができる?」


 未行動状態の歩兵を確認すると『宴を開く』というコマンドが出てきた。なるほどな、占領した建物に限らず、生産するために初期からある建物も自軍の建物って扱いなのか。


「やってみるか」


 宴コマンドを選ぶと『普通の宴:千G』『コンパニオンを呼ぶ:五千G』と出てきた。よくわからんが、収入少ないから安いほうにしとくか。


『兵士のやる気が十ポイント上がりました』

「おっ?」


 ステータスを確認すると、やる気が十になっていた。今までゼロだったのかよ。

 しかも宴を開くと行動済み扱いかよ。とりあえずもう一体の歩兵にも宴を開いてあげた。多分、これが占領に関わるし。


「宴に金いるし、生産はやめとくよ」


 まあ生産工場にユニットがあるから、どっちにしろ生産できないんだろうけどな。

 ターンを終了して、池田に手番を……。


『第三勢力のターン開始』

「は?」


 池田の番が始まらず、何者かのターンが始まる。


「おいおいおい!」


 池田が取り乱すのも無理はない。先ほどの池田のターンで分離した、灰色の歩兵が池田の基地に向かっているのだから。


『占領ゲージが二十五溜まりました』

「なんで自分の基地を攻撃してんだ!?」


 なるほど、敵にまわすとこういうことになるんだな。おそらく占領ゲージが百になると、負けなんだろう。

 ん? 灰色軍が占領した場合、どうなるんだ? 池田の負けだけど、俺の勝ちでもないよな?


「で、俺の番か。裏切り者を始末せねば」


 怒り心頭の池田が、五人に減った部隊を基地まで戻す。


「攻撃……あれ?」


 『攻撃』のコマンドとは別に『説得』のコマンドが出る。なるほど、説得すれば自軍に戻すこともできるというわけか。


「しょうがねぇ、ウチの歩兵で説得してみるか」

『説得することを拒否されました』

「なんでだよ!」


 失敗ではなく拒否。お前の部隊、どんだけ忠誠心ないんだよ。これ、攻撃選んでもダメだったんじゃ?


「池田、説明書を読んだところ、自軍の建物の上にいる敵ユニットに接待できるらしいぞ」

「なんだそりゃ?」


 こいつ本当に有識者か? SLGについて、なんも知らんじゃないか。


「お、ホントだ」


 接待コマンドを選択する池田。すると『普通に接待:五千G』『コンパニオンを呼ぶ:一万G』と出てきた。あれ、俺の時の宴より高くね?


「ふざけんな!」


 接待コマンドをキャンセルして、分離していない部隊を基地に戻す。


「よし! 攻撃だ! やっちまえ!」

『命令を拒否されました』

「なんでだよ!」


 何かを叩く音が聞こえた。台パンってやつか? こわっ。


『歩兵が寝返りました』


 灰色の歩兵と、分離していない部隊が青色に変わる。え? 俺の部隊になった?


「え? これやばくね?」


 生産工場の上にユニットがいるため、何もできずにターンを終了する。

 正直展開についていけてないが、五体しかいない部隊をどけて、十体の部隊で占領コマンドを選んでみる。


『占領ゲージが五十溜まりました』


 合計七十五。これ、次のターンで勝ちでは?

 とりあえず、自陣にいるユニットのやる気を宴で上げてからターンを終わる。


「よくわからんがまずい! 接待だ!」


 俺の青軍というか、俺の青軍になった元赤軍に接待コマンドを選ぶ。

 二ターン目と三ターン目に金を使っていないので、コンパニオンを呼べるくらいのお金はあるようだ。


『一ターンの間、攻撃と占領をやめてくれるそうです』

「ただの延命措置!」


 嫌われすぎだろ、帰ってこないのかよ。

 資金が底を尽きた池田は俺にターンを回す。

 俺は十体の部隊をどかせて、五体の部隊で占領コマンドを選び、勝利した。


「今のゲーム熟練者っぽくない? なあ? 凄くない?」

「うるさい!」


 負けたのが悔しいのか、そのまま通話を切る池田。

 即座にフォローしてやらなきゃいけないところだが、SLGにハマった俺は池田そっちのけで一人プレイに勤しんだ。




 かれこれ百時間以上やってるが、やればやるほど味のあるゲームだ。

 忠誠度が低いと、歩兵で戦車を攻撃しようとしても拒否するが、高ければ負けるの確定でも立ち向かってくれる。

 一番弱いユニットで相手に弾薬を消費させるのは正解なのだろうが、忠誠度を上げる手間とコストを考えると美味しくないかもしれない。

 だが、俺は気付いた。

 ユニット生産前に、兵士の教育ができるのだ。

 色々な教育方針があるのだが、体感としては洗脳が強い。死ねば神になれると教え込めば、無茶な戦闘を重ねても決して裏切らない。

 十体いる歩兵を一体ずつにわけて死ぬ前提で突っ込ませ、弾薬を消費させるなんてこともできる。民間人を他国に売り飛ばして金に換えたり、薬の治験に利用して科学力を向上させることもできる。

 兵士以外に、自国民を洗脳することもできる。洗脳済みの女性を人権ごと他国に売り飛ばして資金に換える戦法はまさに定石だ。

 最初の頃は、兵士の裏切りや国民のクーデターなんかが多発したけど、今ではオンライン対戦でも常勝できるほど極めた。案外、才能があるのかもしれないな。




 SLGを極めた俺は、無人島を購入して国を立ち上げた。無論、国民は、洗脳して連れてきた日本人だ。

 産めよ増やせよという教えどおり、限界まで子供を産ませたのちに、好みじゃない女性は外国に売り飛ばす。資金も生産力も文明も何から何まで向上した。

 かつて友達だった池田も今では家臣だ。俺の命令一つで自害も辞さないだろう。

 俺の国は、繁栄し続けた。自衛隊が攻め込んでくるまでは。

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