第14話:変化は突然に




「まぁ! 川が出来ましたのね!」

 街を囲うように流れる川を見て、ミレーヌが感動した声を出す。

 流れは緩やかだが深さはかなりある川で、農地の水を確保する為もあるが、防衛の役目も担っていた。

 相手は主に、人間である。


『この川があれば、外からの侵入はほぼ不可能になるだろう』

 妖精王が得意気に説明をする。

「攻撃されたらどうすんですか?」

 少し呆れ気味に質問したのは、騎士団副団長の補佐官である。相手が妖精王でも空気を読まないとは、逆に尊敬してしまいそうな豪胆さである。


「矢なら街まで届かないだろ?」

 側に居た農夫が補佐官に意見する。

「確かに普通の矢なら、畑の中に落下するくらいで街まで届かないっすね~」

 補佐官が川向うを指差し、矢が飛ぶ時に描く放物線を指で表し、最後に落下地点を予測して地面を指差した。


「でも身体強化で筋力増加したら、街まで簡単に届くじゃないっすか」

 補佐官がニヤリと意地悪く笑う。その頭を、副団長がはたいた。



「ミレーヌ様が居る街を攻撃するのに、精霊が力を貸すわけ無いでしょうね」

 そうでしょう? と副団長が視線を送ると、妖精王は当然とばかりに頷く。


 身体強化も魔法なので、詠唱せず自分の魔力だけのように見えるが、実は多少なりとも精霊の力が働いている。

 魔力の多い者ならばそれなりに筋力強化されるかもしれないが、街に届くほどにはならないだろう。


「それでも一応の安全策っていうか、安心感が欲しいじゃん」

 叩かれた頭をさすりながら、補佐官は少しふて気味に言う。

「渡れない川の向こう側にとても豊かな土地があったら、それだけで嫌がらせになるだろう?」

 騎士団長の補佐官が、副団長補佐官の頭を抱き込み、耳元で囁く。


「え、性格悪っ」

 思わず呟いた副団長補佐官の頭に、極小さな雷が落ちた。

 強めの静電気程度だが、本人はかなり痛かったようで、悲鳴をあげた後にしゃがみこんだ。



「えぇと、シャッフェン様が『当然の行いだ』とおっしゃってます」

 ミレーヌが苦笑しながら、副団長補佐官へ神託を伝える。

「え? なんで? 攻撃される意味が解んないんだけど?!」

 嘆く補佐官は気付いていなかった。


 更に性格の悪い結界を、創造神が既に張っていた事に。


 アッロガンテの国民は、豊かな街を見せられ、たとえ苦労して川を渡ったとしても、アフェクシオンの国民とは交流出来ず、野菜等を買う事も、ましてや盗む事も出来ないのだ。


 地上の楽園、美しい、幻の都である。




 常に魔物の脅威にさらされる事になった王都で、国民も兵士も疲弊していた。

 今までは辺境が魔物の被害にあっていて、食料や税収に影響はあったが、王都の住人は本当の意味での魔物の恐怖を知らなかった。

 それが今では、王都の防壁の外では常に魔物が彷徨うろついている。


 商人は護衛を今までの倍以上雇わなければいけなくなったし、その費用は商品に反映される。

 王都まで野菜を売りに来ていた農家は、護衛を雇う金が無いと諦める者も多かった。元々畑仕事よりも魔物討伐に男手を取られていた農家は、畑の規模を縮小して自分の村の中だけで細々と商売をする選択をしたのだ。


 当然、王都の住民の不満は王家に向けられた。




 王都とは別の意味で、今まで1番魔物の恩恵が多かった街に異変が起きていた。

 辺境デゼルトに1番近いこの街は、定住者は少なく、主に魔物の討伐を生業なりわいにしている傭兵か、素材採取目当ての冒険者が多い。

 宿屋を営む者は脛に傷持つ輩がほとんどであり、荒くれ者の客が相手でも一切ひるまない。

 そして店は個人商店ではなく大手商会の支店で、店員は左遷されたのか皆どこか覇気が無い。


「魔物の素材が足りない」

 最初に異変に気付いたのは、本店から素材の回収に来た商会の人間だった。

 いつもなら嫌と言うほど溢れている魔物のが、半分も無いのだ。


「おい! 何だこの量は!」

 店員を怒鳴りつけるが、暖簾のれんに腕押し。まるで堪えていない店員はヘラリと笑う。

「俺が取りに行ってるわけじゃないですからねぇ。持ち込まれた物を買ってるだけなんで、文句は持って来ない客に言ってくださいよ」


 店員の言葉にイライラしながらも、本店の職員は深呼吸で怒りを鎮める。

 そして店の外へと確認の為に出た。競合店でも出来たのかと思い、他の店を見ようとしたのだ。

 しかし新しい店など出来ておらず、持ち込まれる素材自体が減っているのだと気付いた。


「魔物自体が減っている?」

 嬉しそうに呟く本店所属の職員は知らなかった。

 王都が魔物に襲われている事を。

 王都から辺境まで、通常は点在する村を経由しながら旅をする。

 魔物達は直線的に王都を目指したので、途中で遭遇する事は無かった。

 職員が王都を出た頃には、まだ魔物は辺境付近に居たのだ。


「魔物の数自体が減っているのならば、国が平和になる! 俺は危険な仕事だからと、彼女の親に結婚に反対ざれる事も無くなる!」

 少ない魔物の素材を馬車に積み、男は本店へと帰って行った。




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すみません。昨日は更新できませんでした。

以下、言い訳です(読まなくて大丈夫w)


一昨日、カップ焼きそばに熱湯を入れた時に、太腿にこぼすという愚行をやらかしまして……範囲は狭いのですが、1日中冷やしてないといけないほど痛くて、しかも水ぶくれになり大騒ぎでした(-_-;)

もう1作品の「封印された王子~」はストックが有ったので更新できましたが、こちらは前日(もしくはギリギリ)まで書いているので、更新できませんでした。

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