第13話:国王は過ちを認めたくない
「魔物が王都に向かって来ています!」
王の執務室へ、ノックも無しに飛び込んで来た伝令が叫んだ。
宰相と大公の三人で聖女問題を話し合っていた国王は、ソファから勢いよく立ち上がる。
「やはりあの女は聖女では無かったな! 魔物を引き寄せているではないか!」
国王が嬉しそうに言うのに、伝令は「は?」と怪訝な声を出す。
今は、聖女の話などしていない。それに魔物が来ているのに、嬉しそうにするなど不謹慎である。
何日も話し合っているのに良い解決策が浮かばない話し合いに、国王は限界を迎えていた。
そもそも聖女になど頼ろうとしたのが間違いだったのだ、という思いから、もしかしたら『愛されるもの』は魔物にも愛されるのではないか? という考えに変わり、聖女が居るせいで王都に魔物が押し寄せたのか! という明後日の方向へ結論付けしてしまったようである。
微妙な空気になった執務室へ、再びノックの音が響いた。
「入れ!」
気分を良くした国王が声高に応答する。
「失礼します。アフェクシオン国の王女殿下ですが、自国の開拓団と合流して、辺境デゼルトに行った事が確認されました」
大公の侍従が淡々と報告する。
その瞬間に、執務室内の空気が固まった。
「辺境?」
「デゼルトとは、あの何も無い荒野?」
「もう、王都には、居ない……?」
再度婚姻の打診に行くにしても、謝りに行くにしても、辺境デゼルトに行かなくてはいけなくなった。
しかし、ある疑問が残る。
辺境に行っても街は無いし、野営するにしても、まともな食べ物が手に入るわけが無い。
デゼルトまで何日も、下手をすれば1ヶ月以上掛かる。
そのような量の食料をアフェクシオンの開拓団は用意してきたのか? と。
「そういえば、アフェクシオン国から、聖女の補佐に、開拓団三百人と騎士団百人が派遣されていましたな。街には近付かない、我が国の住人とは交流しない、という条件で承認しましたが」
宰相が今思い出した、というように手を叩いて言う。
「いや、ちょっとそれは条件厳し過ぎるだろう!? どこで食料を調達させるつもりだ」
大公が異を唱えると、宰相は「しかしもうそれで、あちらからも了承の返事が来ましたし」と言われた。
「そもそも四百人分もの食料など、辺境に行く途中のどこの村でも用意出来るわけが無い。下調べが甘いあちらの失態だな」
国王も、宰相の意見に同意を示した。
「しかし、そう忠告をしてやるくらいの」
「魔物に好かれる外れの王女だぞ!」
大公の言葉を、国王は遮る。
「……王女は辺境に行ったから、魔物が王都に来たのでは?」
大公の侍従の言葉は、主人の意見と同じように無視された。
ミレーヌが辺境の土地を浄化したのに便乗して、周辺に結界を張った人物……いや、神物が居た。
創造神である。
森の中の魔物は騎士団が嬉々として狩っていたので、あえてそのままにしていたが、それ以外の川の源流がある山や、畑にする予定の土地からは魔物を追い出してしまった。
『この国の者達とアフェクシオンの者は交流してはいけないのだったな。アッロガンテの者は、土地に入れるが交流は出来ないようにするか』
ふむ、と頷くと、創造神は結界に手を加えた。
宰相がもう少し思慮深く、アフェクシオンを阻害するような事をしない人物であれば、もしくは、宰相を
妖精王が流した川は、創造神の結界を越えると、蒸発するのか地に染み込むのか、とにかく段々と水量が減り、元の小川と同じになってしまう。
当然のように、精霊が付けた植物を成長させる効能や、魚や蟹などが元気に育つ力も失っている。
神や妖精、それに精霊には、人間の常識や理念など通じない。
好きなものは好き、嫌いなものは嫌い、それだけなのである。
だから、嫌いな魔物が、大好きな人間を虐めた嫌いな人達の所へ行こうが、どうでも良いのだ。
王都を守る自警団や依頼された傭兵、冒険者と呼ばれる者達が、王都に攻めて来た魔物と戦っていた。
剣士や戦士、騎士、弓士に狩人、槍使いに戦槌士。
自分の力で戦う者達は、何も問題無かった。
「清浄なる存在である清き水の精霊よ。悪しき存在を清める力を貸したまえ! ウォーターランス!」
精霊を称える詠唱に決まりは無い。とにかく褒めて褒めて褒め称えて、精霊をその気にさせられれば良いのだ。
水の精霊を褒め称えて、水魔法使いは
魔法使いの前に伸ばした手の前から、勢い良く水が飛び出した。
しかし、それはどう見ても槍には見えなかった。
「何がウォーターランスだ! あれじゃ矢だ矢!!」
一緒に戦っていた戦士が大声で文句を言う。
確かに槍と言うには勢いも水量も足りず、
「今まではこの詠唱でウォーターランスが使えたんだ!」
魔法使いは反論する。
今、アッロガンテ王国では、精霊達の力を借りるのがかなり厳しくなっている。しかも水の精霊は、妖精王に命令され聖泉を作っているので尚更だった。
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