第11話:聖女とその周辺の本気




 何も無い大地。岩と乾いた土の荒れ果てた不毛の地。広くて平坦な土地なのに人が住んでいないのは、悪環境のせいだろう。

 荒れ果てた土の先にあるのは、鬱蒼うっそうとした森。しかも魔物が住んでいる。

 川はあるが歩いて渡れる程度の小川で、ここに住む理由に成る程の魅力は無い。


「この土地があるから、まだ魔物の被害が少ないのだろうな」

 副団長の視線が、遠くに見える……気がする街へと向けられる。

「元は森とか豊かな土地だったのを、長年の魔物との戦闘で荒れ地にしちゃったのかもしれないっすよ」

 カラカラの土を手に取った補佐官は、手からこぼれ落ちて戻って行く砂のような土を眺めた。



「浄化は誰がする?」

「あ~俺がやっても良いけど、範囲狭いよ」

「私もそれなりに出来ますよ」

「補助くらいなら」

 開拓団として来た住人達が何やら話し合いを始める。

 アフェクシオンとは違い何があるか判らない土地なので、まずは浄化をする事にしたようである。


「それならば私が」

 少し離れた所から声がしたな、と思ったら、既に地面が光っていた。

 ミレーヌである。

「皆様のお手伝いに来ましたの」

 うふふ、と悪戯いたずらが成功したみたいに嬉しそうに笑う。



「あ~今ので森の中のアンデッド系が死滅しましたね~」

 補佐官が呟く。

「アンデッドなのだから、既に死んでいるので消滅が正しい表現ですね」

 騎士団長の補佐官が近付いて来ながら話し掛けてくる。


「ここは大丈夫そうですし、今ので弱ってる魔獣狩りといきますか」

 副団長が森へと歩き出す。

「そうですね。ここは団長に任せましょう」

 団長補佐も、歩き出す。

「え? こういうのに1番行きたがるの団長っすよね? 良いんすか?」

 二人に遅れまいと小走りで追い掛ける補佐官の質問は、華麗に無視された。




 これは、神殿かな?

 出来上がった建物を見て、ミレーヌは首を傾げた。

 確か自分の家を建ててくれるという話だったのだが、予定が変わったのだろうか? 思わずそう思ってしまったのは当然である。

 真っ白な壁に、素晴らしい飾り彫りのしてある窓。入口の彫刻も芸術的で、この国アッロガンテの神殿よりも遥かに立派な建物だった。


「後は森から木を伐採してきて、扉を付けたら完成ですよ」

 建設を担当していた住人達が、満足そうに建物を見上げる。

「これは、神殿かしら?」

 ミレーヌが責任者の男に問うと、キョトンとした顔の後に豪快に笑われた。

「いやいや。先程も言いましたが、これはミレーヌ様の家ですよ」

 やはりミレーヌの家だったようだ。


「立派なお家ですね」

 ミレーヌは素直に厚意を受け入れた。

 その瞬間、建物がフワリと温かな光に包まれる。

「シャッフェン様が加護を付けてくださったようですね」

 ミレーヌが自分の家だと認識したからか、建物に創造神の加護が付き、強固な結界に包まれた。


「おぉ! シャッフェン様に認められたぞ!」

「それならば次は、神殿を建てるか」

「神殿を建てる組と、風呂屋を建てる組に分かれよう」

 責任者の提案に、皆が「あぁ~」と納得する。

 旅の間は、ゆっくりと風呂に入る事が出来なかった。浄化の魔法で清潔は保たれていたが、それと風呂はまた別の話である。



「お~い! 建物出来たなら、家具を設置して良いか?」

 土魔法で建物を建てていた建設組に、木魔法で調度品を作成していた組の責任者が声を掛けた。

「おぉ! 頼んだ!」

 手を上げて了承の意を示した建設責任者に、調度品責任者は親指を立ててサムズアップで応えた。


「厨房の確認をするので、誰か一緒にお願いします」

 料理人が一人、手を上げながら声をあげる。

「それなら私が」

 建設組の中から女性が手を上げた。

「では、水回りは俺が」

 魔石を手に、水魔法使いが寄って来る。

「火もいるだろ?」

 今度は火魔法使いである。



 その光景を、ミレーヌは優雅にお茶をしながら眺めていた。テーブルと椅子は、調度品組が作ったばかりの物である。

 屋敷の東屋に設置する予定の品の、使用感を確かめる仕事を頼まれたのだ。


 これでは馬車の中と変わらない……と少しだけ不満に思ったミレーヌだったが、ニノンの「ミレーヌ様が居るだけで、結界石と同じ効果が有ります」と言う言葉に、大人しくお茶をしている。


 嘘では無い。嘘では無いが、本当はアフェクシオンの国民は、全員妖精に守られているので結界石など必要無い。

 アフェクシオン国の産業として、結界石は作られているのだ。


 他国では、旅に持って行く必需品である結界石。

 悪意有るもの……盗賊や海賊、果ては中程度の魔物も弾く結界を、持っているだけで自然展開する。

 発展途上の国や、危険な場所へ行く事のある商人には、必須の旅道具である。




 森の中では騎士団の7割が魔物を討伐していた。残り3割は、一応警備として建設中の街の所へ残っている。

 この数時間で、アッロガンテ王国を苦しめていた魔物達の2割が討伐されていた。


 そしてまだ誰も気付いていないが、街を作る場所を決めた妖精王は、川の源流へ来ていた。

 その場所の精霊に命じて、聖域のような泉を作っていたのである。


 アッロガンテ王国の辺境であり、魔物が跋扈ばっこする荒野だった場所は、1日経たずにアッロガンテで1番安全な場所に様変わりしていた。



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