逢魔時

海湖水

逢魔時

 カチカチと時計の針が進んでいく。もうすぐ18時になるだろうか。鬼ヶ崎おにがさき冬華とうかは、ゆっくりと息を吐き出した。

 時計の針が6の数字を差した時、冬華の手は小刻みに震え始めた。先ほどまでついていた明かりが、チカチカと点灯する。耳鳴りと同時に、冬華は頭を抱えた。


 「ッッーーーー‼︎」


 冬華の頭に熱がこもっていく。熱は次第に形を持ち、冬華の頭に生み落とされた。

 冬華の頭に形成されたのは、2本の角であった。牛のような大きな角ではない。だが、スベスベとして傷一つないような、小さな角だった。

 そして、冬華にもう一つ異変が起きた。


 「誰⁉」

 「わしは……、ってわしのことがわかるのか⁉」


 冬華と、投下の中に住む一匹の鬼が、初めて接触した瞬間であった。



 「で、さあ。なんで私なんかの中にいるわけ?」

 「知るか~!!わしだって知りたいのじゃ~!!」


 鬼のくせに、ずいぶんかわいらしいなあ。

 そんなことを思いながら、冬華はジュースを口に流し込んだ。オレンジの爽やかな味が口の中に広がった。

 冬華は一息つくと、前髪を掻き上げた後、自らの額のうつった鏡を覗き込んだ。白色に光り輝く角が、確かに冬華の額に生えている。


 「これじゃ学校にいけないじゃん……。ねえねえ、これって治せないの?」

 

 冬華の中に入り込んだ鬼は、途端に喋るのをやめた。え、なにさ。これ治らないとか言うの?学校行けないんだけど。


 「…………むりじゃ」


 次は冬華の黙る番だった。明日からの学校はどうすればいいのか。というか、学校とかそういうレベルの話なのか?本当は頭がおかしくなっていて、ちょっとかわいらしい鬼が頭の中で喋っているという幻聴と、角が生えているという幻覚が見えているだけではないか?

 そんなことを考えていると、それに気づいたのか、頭の中の鬼が冬華に話しかけてきた。


 「ま、まあ、大丈夫なんじゃないか?多分、お前以外にも角が生えた女子高生なんていくらでも……」

 「いるわけないでしょーーーー!!」


 冬華はすぐさまスマホを叩き出した。今のこの奇怪な状況を説明するようなものが、電子の海に彷徨っていないか、目を凝らして必死に探し出そうとする。探し始めてから約5分。


 「……ない」


 冬華は頭を抱えた。自らのつるつるした角が当たって一瞬驚く。

 

 「どうすればいいの?」

 「ま、まあ、なんとかなるんじゃないか?」


 何故か、この鬼は人間みたいだな……。

 とりあえず、この角をどうするのか考えなければならない。そんなことを見ながら冬華は外を見た。


 「あああああああああ!!もう10時じゃん!!」

 「え?10時とか別に……」

 「明日は早いの!!」


 そう言うと冬華は目に少し涙を浮かべながら、学校の用意をした。明日の学校はどうなるのだろうか?変な組織に売られないよね?


 「まあ、考えても仕方ないか……。私にはどうしようもないし」


 冬華はそう言うと目を閉じた。そのままゆっくりとベッドに倒れこんだところで、冬華の意識は途切れた。




 「あれ?ない」


 翌朝、冬華は自らの額を触ってそうつぶやいた。昨日、確かにあったはずの角に、額の前で手を振っても当たらない。そうとわかれば何も問題はない。


 「よし!!学校行くか!!」


 そう心の中で叫んで家を出てから数分、やけに周りの視線が痛い。何か、変なところがあるのだろうか?さすがに気になったので、手鏡を冬華は取り出した。


 「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 冬華の額にはまだ角が生えていたのだ。額の前で手を振っても角には当たることなく、手は過ぎ去っていく。だが、確かに光り輝く角があるのだ。

 顔を覆いながら道端に座り込んでいると、昨日の鬼の声が聞こえてきた。


 「あ、昨日、迷惑がられたから、触れんようにしておいたぞ。さあ、褒めろ褒め」

 「なんでぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 

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逢魔時 海湖水 @1161222

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