第17話

「ここが……資材館」


 詐欺師を撃退し、次に向かったのはDIY用の物が買えるお店。その名も、資材館。


 外観こそ西洋風の大きな建物だが、中に入ると元の世界でも見覚えのあるようなどこか懐かしさを感じる商品がずらり。

 価格帯も似たような金額だった。


 一言で言うなら違和感。それしかない。

 何故なら貴族、ナーロッパ、モンスター、ホームセンター。これらが同じ世界に同列しているからだ。カジノですら違和感があったというのに、ホームセンターまで登場してはもはやカオスというほかない。


 恐らく、神野さん的にもホームセンターは欠かせなかったのだろう。

 それにしても……。

 

 ちなみにシオンは食料を買いに行っている。

 詐欺師のせいで余計な時間をくってしまったので、必要な物を手分けして買うことになった。


 私はというと、久々のホームセンターの空気を楽しみながらも、とある商品の前で立ち止まっていた。


「これって、どう見てもマキタだよね……」


 見覚えのある電動工具。青いケースには『MAKI-TA』と書かれていた。


 ……何だよ、マキータって。っていうか電動工具あるなら車も作ってよ。


 馬車で移動とか時間かかるしお尻痛いし、結構辛かったりする。


 でも使い慣れた工具があるのは正直ありがたい。

 正直、異世界に来て一番頼りになる存在かもしれない。


 とりあえず工具類は買えるだけ買った。

 マキータがあれば大体のことは出来るからね。


 あとはDIYに必要な物も買い込んでいく。

 合板、角材、ビス、石膏ボード、クロス、電灯、配管類……もはや馬車に積み切れる量ではないので、馬車に詰みきれなかった分は配送をお願いした。


「配送先はどちらまでですか?」

「ラピテルまでお願いします」

「え!? ラピテルって……あの?」

「はい、あのラピテルです」


 そう、あの何もない、誰もいない荒廃したラピテルである。


 配送先を伝えると驚かれたが、私を見て納得した様子だった。

 アクノ家、その末妹。そして追放劇まで知れ渡っているのだろう。


 店員はちょっとお待ちくださいと言って、奥へと引っ込んでいった。


 さすがに量が多かったか? いや、それよりも距離だろうか?


 そしてすぐに、小走りで戻ってきた。

 

「大丈夫です、運べます。ただ……護衛を付ける必要がある為、送料が高くなってしまいますが宜しいでしょうか?」

「はい、全然構わないので、どうかよろしくお願いします!」


 まさか護衛が必要になるとは思わなかったが、まぁ物騒な世の中なので仕方ないのだろう。

 明日にでも運び始めてくれるそうだ。

 

 時計を確認すると、もうすぐ正午を迎えるところだった。

 すでにシオンが馬車に食料を積み込んでくれていた。


「それにしても、本当にシオンも来るの?」

「もちろん、可愛いリリを一人にはしておけないからね」


 むしろ放っといてくれても構わないのだが、まぁ作業するのに人手は一人でも多い方がいい。

 ならばここはありがたくこき使わせてもらおう。何故なら、私はラピテルの領主様だからね。ふふふ……。

 

 そして私たちはラピテルへと向かった。


♢♦♢


 ラピテルの自分の家に付いた頃には深夜だった。

 流石に眠い。


「ねぇ、リリ……この家、何で電気付くの?」

「え? だって電気スライムがいるし……ほら、お湯だって出るよ?」

「スライム!? ここ、魔物がいるの?」

「魔物って言ってもスライムだよ? ほら、この箱を持ち上げたら上水スライムがいるんだよ」


 箱を持ち上げると、上水スライムは目を見開き「見つかってしまった!」という顔をする。何回やっても同じ反応をするので、とてもめんこい。


 しかし、予想外だったのはミラ姉の反応だった。


「リリ……下がれ! 家の中にスライムがいる!!」


 ミラ姉は椅子を持ち上げ構えると、上水スライムへ向けた。


「ちょっと待って!! このスライムは特に危害を加えたりしないから!!」


 私はすぐに上水スライムへ駆け寄り、ミラ姉との間に割って入った。


 安全であることを証明するため、上水スライムに抱き着いて見せた。

 スライムの柔らかいボディをムニムニと揉み、ぺちぺちと軽く叩くとぷるるんと揺れた。


 それでも上水スライムは攻撃してくることもなく、むしろ怖がっているのか「ひぇ~」という顔で私を見ていた。


 そこがまた可愛くて、何度も抱き着いてしまうのだ。

 たまにその顔が見たくて、何度もムニムニと触ることもある。


 今にして思う。嫌がる私にスリスリするミラ姉も、もしかしたらこんな気持ちだったのかもしれない。

 嗜虐心をくすぐられるという感覚だ。


 何んとなく嫌がっているのはわかるのにやめられない。

 もしかしたらアクノ家の血がそうさせるのかもしれない。なんて都合のいいことを考えてみる。


「嘘だろ!? 魔物が人間を襲わないだなんて……」

「むしろ魔物って、人間を襲うの?」

「そりゃそうだよ、スライムがいくら弱いからって、攻撃されたら怪我だってするんだから……」


 え? マジで? それを早く言ってよ。

 暇さえあれば抱き着いてペチペチしてたわ……無知って怖い。


 どうやら人間と魔物は対立関係にあったらしい。

 その防波堤になっていたのがラピテルであり、アクノ家が魔王と不可侵条約を結んだことで功績が認められ、魔王領から近いこの辺の領地一帯を任されることになった歴史があるのだとか。


 我がアクノ家の繁栄の歴史ながら、全く知らなかった。

 何故なら、昔のリリージュはお勉強が嫌いだったからだ。


 だがそれも昔の話。今ではただ形骸化した習わしに従い、ラピテルは魔王領からも人間領からも放置され続けていた。


 しかし、魔物が家に住み着いていたとは、ミラ姉も知らなかったようだ。


 だとしても光熱スライム達は攻撃してこないのだから、結果オーライではないだろうか。


 不可侵条約の賜物である。

 いや、でも違うのか。


 ミラ姉はすぐに魔物を倒そうとしていたし、魔物も人間を襲うようだ。その関係は今も変わっていないということだ。


 不可侵条約はあくまでも、互いにむやみに近づかないようにしましょうというだけの内容に過ぎないのだ。


 ……じゃあ何で私は襲われなかったんだろう?


 それにしてもホームセンターの次は魔王か。

 遂に出てきちゃったよ。


 聞きたくなかったなぁ……その単語。












  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る