第18話 裏切りの恋人
博美のことが気になりながらも、結局美和の家についてきてしまった僕。
相変わらず中身の正体に気づいていない美和は、無警戒に僕を自室に招き入れる。
上品なオレンジペコの香りが漂う部屋の中、美和はさっそく僕に擦り寄りながら、艶っぽい上目遣いで甘い声を響かせた。
「ねぇ、博美。お風呂? DVD? それともエッチなことしちゃう? ふふふっ」
それって……どれを選んでも、最終的には全部エッチなことになるやつじゃん。
こうなることは予想したけど、そんな猛獣の檻の中にノコノコと飛び込んだのは、一刻も早く美和に頼みごとをするため。
きっと僕からの頼みなら、美和も噂は誤解だと口添えしてくれるはず。そうすれば【久山和博】に対するいじめも、少しずつ収まっていくに違いない。
だけど、頼み方を間違えたら逆効果。僕はどんな風に話を切り出そうかと、美和の様子を慎重にうかがう。
『美和の誘惑には負けるなよ、僕。貞操は絶対守るって、博美と約束したからな!』
その決心は、美和がブラウスを脱ぎ捨てた瞬間にあっさり揺らいだ。
だって、美和の大きな乳房はエメラルドグリーンのブラジャーに収まり切れずに、薄茶色い乳輪をはみ出させているんだもの……。
ライオンがシマウマを狙うように、四つん這いで迫ってくる美和。ゆさりゆさりと左右に揺れる大きなおっぱいが、次第次第にブラジャーのカップから滑り出る。
もはやおっぱいは、先端の突起物がかろうじて引っかかっているだけ。
それでも美和は、一歩、また一歩と、僕を追い詰めるようににじり寄る……。
――にゅるるんっ……。
顔を出す美和の薄茶色の乳首。と同時に、堰き止めていたダムが決壊するように、ニュルニュルっと乳房が姿を現していく。
すると、美和はおっぱいをしまうどころか、逆に存在意義をなくしたブラジャーを取り去ってしまった……。
「あ、あはっ……美和、目が怖いよ……?」
「ごめんね、博美。私、もう我慢できないの」
上半身裸になった美和が、四つん這いのままでさらに迫り来る。
床に向かって垂れ下がる、少し伸びたおっぱい。それを、柱時計の振り子のようにフルンフルンと揺らしながら、美和は僕の目の前までやってきた。
ああ……この豊満な乳房を、下から支え上げながら揉みしだきたい……。
「ふふふっ、捕まえた」
「あっ!」
しまった……。魅惑のおっぱいに目が釘付けになった隙に、美和に押し倒された。
お腹の辺りに跨られて、逃げられなくなってしまった僕。
僕を見下ろすおっぱい丸出しの美和は、今度はスカートのファスナーを下ろす。
「ねぇ、博美。あさってから夏休みじゃない? うちは家族で旅行に行くんだけど、博美も一緒に行かない?」
スカートを脱ぎながら、僕を旅行に誘い始めた美和。
もう僕が逃げられないと見て、美和はゆとりの表情だ。
「えっ、旅行……? あたしがそんなにお金を持ってるとは思えないし、親も簡単に旅費を出してくれるほど、あたしには優しくないと思うんだよね……」
「なんで自分のことなのに、そんなに憶測なの?」
「あぁ、いや……ない、ないない、全然お金ないよ」
「博美はお金のことは気にしなくていいのよ。私の大切なお友達って言えば、一人分ぐらい出してもらえるはずだから。ねっ? 一緒に行きましょ?」
「家族旅行なんでしょ? 気にするよ。そこまでしてもらうわけにいかないって」
思った以上に美和の家はお金持ちだ。友達の旅費まで出してくれるなんて……。
だけどラッキーと割り切って話に乗っかれるほど、いくら僕でも図々しくはない。僕は苦笑いを浮かべて、美和の誘いを丁重にお断りした。
すると美和は少し不満そうにしながらも、代案を出してきた。
「博美が行かないなら、私も旅行には行かない。だから夏休みは毎日、二人で一緒に過ごしましょう?」
そう言って美和は僕に覆い被さると、左耳の裏側をペロリと舐めた。
「うひゃぁ……」
背筋がゾクゾクして、思わず変な声が出てしまった僕。
このままじゃ、博美と約束した貞操を奪われてしまう……。
僕はとりあえず美和に質問して、なんとか時間を稼ぐ。
「そ、そういえば美和って、どうしてあたしのことを好きになったの?」
「女の子で博美に憧れない子はいないわよ。スポーツは万能だし、男の子相手にも堂々としてるし、それだけでも魅力的なのに誰にでも優しいし」
「でも頭は和博の方がよっぽどいいし、色気がないから男には全然モテてないよ?」
「そんなことないわ。博美はとっても可愛いのに、男子がその魅力に気付いていないだけよ。でも、私にはその方が好都合だけれどもね」
美和は少し体を起こすと、真上から僕のことをジッと見つめる。
至近距離で目を合わせるのが照れ臭い僕は、美和からスッと視線を逸らす。
でもそこにあるのは、ド迫力で垂れ下がる美和の乳房。こんな目の前で乳首を見せびらかされたら、しゃぶりつきたくなっちゃうじゃないか……。
思わず唾を呑み込んだ僕に、美和がグッと顔を寄せて迫ってきた。
「ち、近いよ?」
顔を引きつらせながら、身構える僕。
美和の指先が、僕の唇をそっと撫でる。
「博美の唇って……とっても柔らかそうね」
ウットリとした目つきで、僕の唇に目を向ける美和。美術品を鑑賞でもするように見つめていた美和が、少しずつ唇を寄せ始める。
間違いない、これはキスをするつもりだ。
キスはまずい。今キスをしたら、きっと体が入れ替わる。そんなことになったら、博美に申し訳が立たない……。
「ない、ない、そんなことない。きっと硬いよ、カチンコチンだよ」
「それならそれでもいいわ。とっても美味しそう、博美のくちびる」
構わず迫って来る美和の唇。僕の否定なんて無意味だった。
そりゃそうだ、美和は柔らかいからキスをしたいわけじゃない。今の言葉はキスをするための口実、和歌の枕詞のようなもの……。
美和とはキスしたい、それも濃厚な奴を。だけど今はダメだ!
僕は唇の前で人差し指を交差させてバッテンを作り、最後の抵抗を試みる。
これでもダメなら仕方ないと、覚悟を決めて目を閉じた……。
だけどいつまで経っても、僕の手はそのまま。
その代わりに、僕の頬にポトリと水滴が落ちる。
僕はなにごとだろうと、恐る恐る目を開いた。
「博美……どうして、キスさせてくれないの……?」
「えー、それは……」
「なんで? なんで私はダメなの? 博美、久山とキスしてたじゃない」
普段は表情を表に出さない美和が、僕の目の前で泣いている。
二滴、三滴……次々と
それでも本当の理由を話せない僕は、適当な言い訳でごまかすことしかできない。
「えっと、和博とのあれは事故っていうか……」
「事故でもいい。口と口がぶつかるだけでもいいから、私も博美とキスしたい」
「ほら、その、女の子同士……だし?」
「博美は久山とはキスできても、私とはできないんだね。わかった、じゃぁ、もっともっと噂を広めて、あの男が学校にいられないようにしてあげるわ!」
「えっ!?」
感情的になった美和が、強い口調で言い放つ。
その言葉に僕が眉を
「ひょっとして、和博の噂を流してたのって……美和?」
「…………」
おかしいとは思ってた。僕と博美のキスを目撃したのは美和だけ。それに、確かに僕と博美はキスをしたはずなのに、噂では未遂になっていた。
話を盛り上げるために誇張するならわかるけど、控えめに噂を流すなんて不自然。
きっと美和は、博美がキスをした事実は公にしたくなかったんだろう。
他の噂だって僕は身に覚えがないし、今の【久山和博】の中身は博美なんだから、美和の着替えを覗いたり女の子を襲うはずがない。
そして具体的な名前が出たのは、美和と博美だけっていうのも妙な話だ。
でも噂の出所が美和なら全部納得できる。そして今、その動機も明らかになった。
「ごめんね、美和。今日はもう、帰るね……」
僕がそうつぶやくと、美和は涙の理由を変えてさめざめと泣きだした。
拘束から逃れようとすると、自ら無抵抗で僕の体から退いた美和。
嗚咽を漏らす彼女を残して、僕はいい匂いの漂う部屋を後にした……。
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