第26話 私のお風呂

「せっかく、お部屋のお掃除をしたのに……」


 和博の部屋を掃除したのに、泊まることなく帰って来てしまった。

 あんな居心地の悪い家に長居をせずに済んだけど、結構一生懸命掃除をしたせいで汗だくの埃まみれ。これはすぐにでもお風呂に入らないと。

 そろそろ日が変わりそうな深夜だけど、今は家に一人きりだからお気楽。

 ああ、もう一羽いたっけ……。

 和博の入った鳥かごをベッド脇のハンガーに掛けて、私はお風呂場へと向かった。




「うーん……困ったわね……」


 お風呂に入って十五分。体を洗っている最中に異変に気付いた。

 こんなの……私、どうしたらいいのよ……。

 とてもじゃないけど、これは私の手には負えない。

 やむを得ずお風呂を中断した私は、部屋に戻って和博に相談を持ち掛ける。


「あ、あの……ちょっと、相談があるのだけど……」

『どうしたの? 服も着ないで、赤い顔して』


 体をろくに拭かずに部屋にもどったから、周囲は落ちた水滴で水浸し。

 バスタオルを体に巻いただけの姿の私を、和博が茶化す。文鳥のくせに……。


『美和はやっぱり女の子だよね。バスタオルを胸まで巻くなんて』


 確かにマンガやドラマでは、男の人はタオルを腰に巻いていたかも……。

 だけど今は緊急事態、そんなところにこだわってる場合じゃない。

 私は恥ずかしさを押し殺しながら、言葉を選んで状況説明をしてみせる。


「その、あなたの体をお風呂で洗ってたら、その……なんだか上手くいかなくて」

『何が上手く行かないの? 別に普通に洗えばいいと思うけど』

「と、とにかく上手くいかないのよ!」

『それじゃ僕にもわかんないよ』


 やっぱり言葉じゃ上手く説明ができない。

 仕方なく体に巻いていたバスタオルを取り去って、私は体の異変を和博に伝える。赤黒く腫れ上がってしまった、下半身の一部を指し示しながら……。


「これよ、これ。洗ってたらこれが……その、こんなことになってしまって……」

『はっはっは、そいつは大変だ』

「ちょっと、何がおかしいのよ。私は困ってるんだから、真面目に答えなさいよ」

『美和は保健の授業で習わなかったの?』

「あんな恥ずかしい授業、真面目に受けられるわけないでしょ」


 私は保健の授業を、きちんと受けなかったことを後悔した。

 もちろん女性に関することはしっかりと聞いた。でも男性のことなんて知る必要もないと思って、ほとんど耳を塞いでた。

 まさか自分が男性の体になるなんて、考えてもみなかったから……。


『いやぁ、僕は慣れっこだから笑っちゃったけど、美和は女の子だから驚いたよね。ごめん、ごめん』

「じゃぁ、放っておいても大丈夫なの? これは」

『いや、まずいよ、これはかなり……。放っておくと大変なことになる』


 深刻そうな声で和博が考え込むから、私は不安になる。

 和博に体を返せば問題は一発で解決するはずだけど、それだと私の計画が水の泡。和博が博美に全部話して、私はますます嫌われちゃう……。

 私はプライドをかなぐり捨てて、和博に教えを乞うことにした。


「ねぇ、どうしたらいいの? お願いだから対処方法を教えて」

『そもそも美和は何をして、そんな風になっちゃったの?』

「だから言ったじゃない、お風呂場で体を洗ってたんだって」

『どんな風に洗ったのか、やってみせてよ』

「ここで!? むぅ……仕方ないわね……」


 自分の体じゃないけど、全裸を晒しているのはやっぱり恥ずかしい。

 それなのにこの男は、まだ私に恥ずかしいことをさせるつもりなの……?

 だけどこれを放置して和博の体に問題が起こったら、それこそ申し訳が立たない。いくら憎らしいと言っても、体にまで危害を及ぼすつもりはないのだから……。


「こ、こんな感じで洗ってたんだけど……問題あったかしら?」


 私は、お風呂場でその部分を洗った時の再現をしてみせる。

 右手でそっと包み込むように握ると、その手をゆっくり擦るように上下に動かす。

 やっぱり洗い方がまずかったのかもしれない。こんなことならお風呂に入る前に、和博に注意点を聞いておくんだった……。


「ねえ、もういい? 私、恥かしいんだけど……」

『いやダメだよ、続けて。それよりもっと近くに来てくれないかな、そこだと遠くてよく見えないよ』

「見なくていいわよ! わ、私が男の人の、その……こんな部分をいじってるなんて、それだけでも恥ずかしくて死にそうなのに!」

『でも、対処を誤ると大変なことになっちゃうから……』

「もう……わかったわよ、そっちに行けばいいんでしょ!」


 なんだか、さっきよりも硬くなってない……?

 このまま擦り続けて、本当に大丈夫なの……?

 でもこんな相談ができる相手は和博だけだから、私は言いなりになるしかない。

 鳥かごの目の前に立った私は、和博に向かって丸出しの下半身を突き出す。


『時々先の方を摘まんだり、くびれてるところをなぞったりした方がいいね』

「は、はい……」

『根本でブラブラしてるところも撫でてみて?』

「こ、こうかしら……」

『そうそう、上手だよ』


 和博の言う通りにすると、さらに体調が悪化していく気がする。

 私は不安になって、和博に今の状況を詳細に伝えた。


「本当に大丈夫? さっきよりもカチンコチンになってない? それに、私の意志に反してピクピク動くし、なんだかくすぐったくて、その……ムズムズするのよ」

『どこが?』


 角度も変えられないほど硬くなってしまった、柔らかい棒状のモノ。

 私はそれを右手でしごくように擦りながら、左手で指し示す。


「それは、オチ……いえ、この辺りよ」

『ムズムズしてきたなら、もう少しで治るよ。頑張って』

「本当に? わかったわ……やってみる」

『ああ、ちょっと横からも見たいから、ベッドの方を向いてみて』


 すぐ横にあるのは、ベッドに横たわっている私の体。

 ベッドの方を向いたら、私自身に見せつけているみたいじゃない……。

 和博にそんな意図はないのかもしれないけれど、私は羞恥心が刺激されておかしくなっちゃいそう。


「うぅ……わかったわ。これでいい?」

『うん、うん、もう少し強く握って、スピードを速めてみようか』

「はぁっ、はぁっ……はい」


 私は和博の言う通りに、右手の動きを速めてみた。

 目の前には自分の体。すぐ横で見ているのは、文鳥になっているけど和博。

 この私が、男の人の大事な部分を弄ってるところを見られてる……。

 そう思ったら、今までとは桁違いのむず痒さが私の下腹部を襲ってきた。

 得体の知れない底知れぬ恐怖に、思わず私の右手の動きが止まる。


『どうしたの? ほら、続けて?』

「怖いのよ。なんだかとんでもないことが起こりそうで、怖くて続けられない」

『大丈夫だよ、それを乗り越えた先にゴールがあるんだ』

「そうなの? 本当に大丈夫?」


 手を触れると敏感になっているのか、いちいちビクンビクンと反応を示す。そして今度は、すぐにムズムズし始めた。

 このまま続けたらどうなってしまうんだろうと、私は不安でたまらない。

 恐怖心のせい?

 緊張感のせい?

 激しい鼓動が収まらず、荒ぶる息遣い。全身もプルプル震えてきた。

 私は泣きべそをかきながらも、全てを払拭するために一心不乱に右手を動かす。


『もうちょっとだ、頑張れ』

「怖いのよ。おかしくなりそうで」

『大丈夫だよ、僕がついてる』

「本当に大丈夫? 最後までちゃんと見守っててよね?」

『もちろん、ちゃんと見届けてあげるよ』


 和博の言葉を信じて、焼けるように熱い棒をしごき続ける私。くすぐったいような不思議な感覚が、さらに強烈に湧き上がっていく。

 私の頭の中は真っ白で、もう何も考えられない。

 和博の励ましの言葉にも、なんて答えているのかよくわからない。

 パンパンに腫れ上がった棒はピクピクうごめいて、すぐにでも爆発しそう……。


 ――そして私の頭の中で何かがはじけた。


「あふぅぅっっ! んふっ、んふっ、んふぁあぅぅん…………」


 二度、三度と、痙攣でもしたかのように身体が跳ねる。

 私には何が起こったのか理解できない……。

 ただ、得も言われぬ快感が私の身体中を駆け巡ったのだけは確か。

 そしてその直後、ほとばしったモノがビチャビチャと音を立てて、横たわっている【谷川美和】の顔に降り注いだ……。


「はぁっ、はぁっ……」


 少し落ち着きを取り戻すと、定まっていなかった焦点が周囲を捉え始めた。

 私が下を向くと、張り詰めていたモノは急速に普段の形へと戻っていく……。


「これって、ひょっとして……射――」

『お疲れ様、これでしばらくはもう大丈夫だよ』

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