第14話 僕にも彼女が出来ました。
谷川さんの家のお風呂は、脱衣所が広くてビックリした。
僕の家も博美の家も一人で満員なのに、ここは三人並んで着替えられそう。
そして谷川さんがお風呂場の戸を開くと、中から暖かい空気が流れ出てきた。僕はシャワーのつもりだったけど、なんで浴槽にお湯が張ってあるんだ……?
「ひょっとして……谷川さんの家って、常にお風呂沸いてるの?」
「まさか。こんなこともあるかもって、お紅茶を淹れるときに用意しておいたのよ」
どんなことを想定したら、湯船に浸かる必要に迫られるんだよ……。
やっぱり、谷川さんの行動が不穏すぎる。今だって僕が服を脱ごうとしてるのに、彼女は出て行く気配がない。それどころか、こっちをジッと凝視している様子。
まさか……油断させておいて、無防備になったところを襲撃!?
さすがにこんな雰囲気じゃ、服を脱ぐ気にはなれない。
「あのー、谷川さん。お風呂に入りたいんだけど……」
「あ、そうだったわね。ごめんなさい」
谷川さんは謝罪をすると、スカートのホックを外してスルリと足元に落とした。
――えっ!? なんで谷川さんが脱ぎだすの!?
僕が呆気に取られていると、ブラウスのボタンも次々と外していく谷川さん。
あっという間に下着姿になってしまった谷川さんは、不思議そうな表情で首を傾げながら僕に声を掛けてきた。
「脱がないの? お風呂、入るんでしょ?」
「あれあれ? お風呂って……ひょっとして一緒に?」
「迷惑だったかしら。私も汗を流したくて、ご一緒しようと思ったんだけど……」
女同士だと、これが普通なの……か?
銭湯じゃあるまいし、男同士だったら一緒に風呂になんて入らない。
だけど僕の目の前には、下着だけになってしまった谷川さんの姿。
ブラジャーのカップからは食い込む乳房が飛び出しそうだし、パンティの股間には薄っすらと黒いモノが透けているようにも見える。
そんな大興奮の光景を目撃して、僕は頭の中が真っ白になった。
「め、迷惑なんてとんでもない。むしろこちらこそ、いいのかなーって」
「女同士なんだし、いいに決まってるじゃない。おかしな大崎さんね」
躊躇なく谷川さんは下着姿になったけど、僕を博美だと思ってるんだから当然。
むしろ未だに服を脱がずに、谷川さんの下着姿に興奮してる僕の方が今は怪しい。
これ以上不信感を持たれないように、僕は慌てて服を脱ぎだす。
すると僕をジッと見つめていた谷川さんが、ニンマリと微笑んだ。
「大崎さんって、いつもシンプルで可愛い下着つけてるわよね。私、好きだわ」
ゾクゾクっと、妙な悪寒が背筋に走った。なんだろう、今の……気のせいかな?
博美の家には色気のない綿製品しかなかったから、今着ているのもその内の一枚。こんな下着でも、女同士だとこうやって褒めるのか……。
一方の谷川さんの下着は何度か拝ませてもらったけど、今日も少し大人びた感じのデザイン。色は淡いピンクで、レースやフリルもふんだんにあしらわれている。
「そういう谷川さんの方こそ可愛いって。それにその……とっても色っぽいし」
「ふふふ、ありがとう。これ、一番のお気に入りなの。褒めてもらえて嬉しいわ」
その言葉は本心みたいで、無邪気に笑う谷川さん。
うーん……僕に対する敵対心とか、ただの思い過ごしだったのか?
癒される谷川さんの笑顔を見て、僕の警戒心が緩んでいく。彼女は同性の友人と、普通に交流しているだけなのかもしれない。
そんな谷川さんは背中に両手を回して、あっさりブラジャーのホックを外す……。
――ぷるるん……。
弾み出た谷川さんのおっぱい。よっぽどカップの中が窮屈だったみたいで、肩紐も抜かない内からたわわな乳房が揺れながら、勢い良く飛び出してきた。
両手じゃ覆いきれない、大きなおっぱい。
頂点には薄茶色く突き出した、大人っぽい乳首。
ぬいぐるみだった時に拝んだ光景が、再び至近距離で僕の視界に収まる。
『おおお……谷川さんのおっぱいが目の前に……』
ブラジャーを脱ぎ去ると、前屈みになってパンティに両手を掛ける谷川さん。
重力に引き寄せられて、大きな乳房がさらに大きく垂れ下がる。
しかも軽く体を傾けただけで、たゆんと揺れるその動きに、僕の目は瞬きも忘れるほど釘付けになった。
「もう、大崎さんたら……。そんなに見つめられたら、恥ずかしいじゃない……」
前屈みでふゆらふゆらと乳房を揺らしながら、上目遣いで僕を見上げる谷川さん。両手をパンティに掛けて、プリンとお尻を滑り出させたまま頬を膨らませる。
だけど本気で怒ってるわけじゃない、いたずらな笑顔。体を隠すつもりもなくて、まるで『見たいなら見てもいいのよ』と訴えかけている感じ……。
とはいえ、目が合って気まずくなった僕は、たまらず慌てて背を向けた。
「ご、ごめん!」
今が博美の身体で良かった。男の僕だったら、確実に体の一部が変形していた。
だけど鼻息は荒いし、心臓だってバクバクと高鳴っている。それに全身がカーッと熱いし、お腹の奥の方もなんだかムズムズする。
やっぱりこの興奮は隠しきれない。早く気持ちを鎮めないと……。
「スキあり!」
「ひゃぅっ!」
谷川さんが背後から、僕のパンツを一気にずり下げた。
慌てふためく僕を嘲笑うように、谷川さんはブラジャーのホックも素早く外して、そのまま背後から抱きつきながら肩紐も腕から抜き去ってしまった。
一瞬の早業で僕は全裸に。背中には谷川さんの柔らかいおっぱいが当たる。
「さぁ、大崎さん、早く入りましょう。風邪を引いてしまうわよ」
「う……うん」
風呂場に入っても、主導権を握っているのは完全に谷川さん。
うつむく僕にシャワーを掛けたり、手を取って湯船へと引き込んだり。
僕は谷川さんにされるがまま。気が付いたら僕は谷川さんと向かい合って、二人で膝を突き合わせながら湯船に浸かっていた……。
『谷川さんと一緒にお風呂に入ってるなんて、夢みたいだ……』
入浴剤のお陰でお湯に色が付いているものの、僕は目のやり場に困る。だって僕の目の前で、谷川さんのおっぱいがプカプカと湯船を漂ってるんだもの……。
おっぱいってお風呂で浮くのか!
さらに下を向くと、ユラユラ揺れる水面の奥には薄っすらと黒い影。
入浴剤がなければハッキリ見えたのに……いやいや、見ちゃダメだろ。
「背中洗ってあげるわね。大崎さん、そこに腰掛けて」
「えっ? あっ、うん……」
洗いっことか……女の子同士だと普通なのか……?
そんなことはないだろ……とは思いながらも、絶対に違うとも言い切れない僕は、谷川さんに促されるままに風呂場の椅子に腰掛ける。
やっぱり断った方がいいかな……?
誰かにお風呂で背中を洗ってもらうなんて、親と一緒に入った小学校低学年以来。その気恥ずかしさにうつむけば、今度は博美の裸が目に入って鼻息が荒くなる。
ああ……僕はどうしたらいいんだ!
「ねぇ、大崎さん。こんなに仲良くなれたし、『博美』って呼んでもいいかしら?」
背後でクチュクチュと音を立てる谷川さんは、スポンジを泡立てているのか?
舞い上がっている僕は何も考えられずに、彼女の問い掛けに曖昧に答える。
「う、うん、いいんじゃないかな」
「やった!」
僕の気のない返事に、谷川さんは背後で嬉しそうに声を弾ませた。
その直後、谷川さんは僕の肩をピトっと掴むと、耳元に口を寄せて囁く。
「ふふっ、博美の身体……とっても綺麗よ……」
その艶っぽい声に、僕の全身がゾクゾクっと痺れた。
さらに背中にスポンジが触れると、その心地良さに全身の毛穴がブワーっと開く。
なにこの気持ちいい感触。いったいどんなスポンジを使ってるんだ……。
あれっ? ちょっと待って……谷川さんの両手って僕の肩を掴んでるよね?
じゃぁ今、背中を上下しながら、僕の体を洗っているモノって……。
「あ、あ、あ、ありがとう。で、でも谷川さんの方がもっと綺麗だよ」
声を上ずらせながら、社交辞令的な言葉を返すのが精一杯の僕。
だって、背中を洗ってくれている、心地いいモノの正体に気付いてしまったから。
少し硬めの小さな二つの感触を背中に感じて、僕の心臓が今にも破裂しそうなほどバフンバフンと猛り狂う。
もう興奮で何も考えられなくなっている僕に、谷川さんがさらに迫ってきた。
「ありがとう、博美。博美も谷川さんなんて他人行儀な呼び方じゃなくて、『美和』って呼んでくれると嬉しいんだけど……」
「わ、わ、わ、わかったよ、み、美和さん」
「み・わ。呼び捨てでね」
「は、はいぃっ! み、美和」
「ありがとう、博美……ふふふっ」
肩を掴んでいた美和の両手が、腋を通って僕の胸に伸びてきた。
優しく円を描くように撫で回してくる美和の手のひら。
ゾワゾワした痺れが全身に広がって、頭の中まで心地良さに包まれる。
そして美和の指先が僕の胸の先端に触れた瞬間、全身に電流が走った。
「んひゃぅっん!」
「敏感なのね、博美って。とっても可愛いわよ」
「ちょっ、ちょっと待って、谷……み、美和」
ほんの一瞬だったのに、全身から力が抜けるほど気持ち良かった……。
でもそのお陰で逆に我に返った僕は、すぐさま椅子から立ち上がって、泡を落とすためにシャワーの水栓を捻る。
その行動を見て察したのか、美和が慌てて謝ってきた。
「ごめんなさい! 調子に乗り過ぎちゃって、私……」
「べ、別に怒ってるわけじゃないから気にしないで。ビックリしただけだから……」
その言葉に嘘はない。本音を言えば、このまま美和とお楽しみしたいぐらい。
だけど今は博美の身体。いくら美和が女性でも、好きにさせていいわけがない。
泡を流し終えた僕がお風呂から出ようとすると、背後から美和が抱きついてきた。
「ごめんなさい、博美。でも……私、博美のことが好きなの」
「えっ?」
僕は耳を疑った。でも僕が真意を聞き返すよりも先に、美和が言葉を続ける。
「ねぇ、博美。女の子同士でおかしいと思うかもしれないけれど、私を博美の彼女にしてもらえないかしら。博美のことが好きなの。本気なのよ」
「お、男は嫌いなの?」
「男なんて身勝手で、自分のことしか考えない生き物じゃない? 私に告白してきた男たちもみんな口先ばかりで、中身は空っぽ。失望させられっぱなしよ」
畳みかけるような美和の本気の告白に、僕は言葉を失った。
ここまでハッキリ言われたら、『好きと言ってもライクの意味』なんていう誤解もあり得ない。それは【久山和博】としての僕が、失恋した瞬間だった……。
僕に勉強を教わりたいって言ったのは、博美を誘うための口実だったんだろうし、あの夜の悩ましい声だって博美を頭に思い浮かべていたに違いない。
『やっぱりな……僕なんかを好きになってくれるはずがなかったんだよ……』
失恋はしたけど、冷静に考えればこれはチャンスかもしれない。
これだけ好意を持っている博美の言葉なら、きっと美和の心に響く。
博美の立場を利用するのは心苦しいけど、さりげなく【久山和博】の良いところを売り込んで、美和の興味を引くぞ!
気持ちを固めた僕は、美和に愛の告白をする……。
「あたしも美和のことが大好きだよ。今日からあたしたちは恋人同士だね!」
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