第41話 包囲


「ミラ、こっちは集め終わったよ。どう、コーチは見つかった?」

「あと数枚あれば足りるんだけど、その数枚が見つからないのよね」


 コーチは背丈の高い木の根に良く植生している。成長が終わっても二枚しか葉を付けないため、一般には高級食材として扱われているそうだ。


「私も一緒に探すよ。ミラは北の方をお願い」

「分かった。見つけたらお父さんの所で待ち合わせね」


 そうして二手に分かれた。手当たり次第高い木を探しては根を注意深く観察する。コーチは一見しただけでは雑草となんら変わらないので、集中して探さなければ見つけるのは困難だ。


「これは薬草、これは毒があって、こっちは食虫植物……骨が折れるなあ」


 その時、私はデジャブのようなものを感じた。ライトに出会った日、その時も一人で採集をしに森へ出ていた。違うとすれば、今は昼間ということだけ。いや、前は追っ手は一人だけだった。今回は十、下手すれば小部隊も考えられる。しかし、魔力を抑えもせず私達を捕えようとしたって、本当にその気があるのか疑わしかった。

 とは言え、確実に私達が標的だ。まだジェルアには差し掛かっていないし、記憶が正しければ国境に設置された関所近くに自衛隊の支部があったはずだ。神狩の一件で国の命令で派遣されたんだろう。仕事が早いなあと感心していたのも束の間、人々の雄叫びが微かに聞こえてきた。ここでコーチを優先しては元も子もない。逃げるが勝ちだ!!


「ミラ! そっちの様子は」

「ええ、既に沢山の人が森に到着してる。早くお父さんの所に行かないと」

「困ったなあ。一難去ってまた一難だよ……」

「お姉ちゃん、会話盗み聞きできる?」

「できる範囲でやってみる」


 私のスキル、『強制聴取スワン・フーホン』は、半径100m以内の会話を盗み聞きできる。100mの会話が全て聞こえるのではなく、無作為に選ばれる会話だけが聞こえる。スキルを再度使えば違う会話にもできる。


「強制聴取!!」


 頭の中に会話が流れ込んで来る。



「この辺りで異常な魔力を感知、直ちに周囲を取り囲め。第二部隊は問題なし。第一部隊、必ず魔物を探し出して殺害しろ! 住宅街に逃げた場合の被害は甚大だ」

「了解!!」

「また、崩壊した集落についても調査部隊が派遣されている。第一部隊は西側の森を中心に捜索しろ!」

「了解!」

「後日、本部から本格的な殺害部隊が組まれ派遣される。だが、そんな事態にならないよう、確実に仕留めるのだ!」

「了解!」



「思ったより大事になってるよ!」


 走りながらミラと合流した。そう遠くは行っていないはずだから、もう少しでお父さんのいる集落の入り口だ。


「百人はいても良さそうな感じ。大国の軍事力は伊達じゃないね」

「逃げ道を塞がれるのが一番厄介だわ。できるだけ急ぎましょう」


 入り口に到着すると、既にライトを背負ったお父さん達が私達を待っていた

。お兄ちゃんから一つ荷物を受け取った所で、一斉に走り出した。


「これ、何回目かな」

「そんな悠長な事言ってられるか! 今度は軍隊が相手なんだ。気引き締めろ!!」

「それで、どうやって逃げるの!!」

「もちろん正面突破に決まってる。手の空いてるミラと母さんで何とかしてくれ! ただし、殺すなよ。絶対にだ」


『了解!』



 大きな揺れと爆音で目が覚めた。何だ、この状況は!

 フェノーが俺を背負い、双方からの魔法をミラとリノアが凌いでいる……もしやミルドの軍隊か!? なんてこった。完全に討伐目標じゃないか!


「ライト、起きたか!!」

「こんな状況で逆に寝てられるか! それにしても、右にも左にも何て人数で殺しにかかっているんだ、ミルドの軍は。こんなの戦争規模だろう」


 双方には数十人の魔導士集団と剣を携えた兵士が見えた。これをたった二人で凌げているミラとリノア。防御結界のようなものを貼っているのか? 魔法はこちらに届いていないようだった。魔法を使わない剣士には冷静に水魔法で寄せ付けないようにしていた。

 当たり前のように軍と対峙しているが、ミルドの異常なまでの行動力は何だ。支部が近いとは言え、一瞬で事態を察して動けるとは……いや、元々家を出た時点で警戒はされていたのだろう。警戒しない方がおかしいか。


「とにかく、今はこの状態でやり過ごすしかない」

「この様子だと敵に阻まれるんじゃないか。数が数だ。待ち伏せというのもあり得る」

「大丈夫だ。フェルノが、それを打破する鍵となる」


『っしゃあ!! 久しぶりに、やるか!!』


◇◇◇◇


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