第40話 協力者
◇
「一、二、三。一応、リュックは無事みてぇだな」
「盗まれたりもしていない。運が良かったわね」
「ああ」
言ってリュックを担ぎ、一つは提げた。もう一つは母さんが担いだ。
「親父はどこに?」
「ライトの所に向かったはずよ。入口付近にいると思うわ」
歩くと砂漠のような場所が見えた。ライトが戦った形跡だろう。木が倒れたり、焼けて黒くなっている。そこに出て周囲を見渡すと、木の下でライトを休ませている親父の姿があった。
「親父!」
走って近寄った。荷物を下ろし、ライトの様子を伺いながらその場に座った。母さんは遅れてやって来て、俺が置いた荷物の隣に下ろした。
「その様子だと、本体は」
「ああ、倒した。そっちも、問題ないようだな」
「ええ、でも、いつ敵がまた現れるか分からないわ。倒したからと言って、気を抜かないように」
「ああ、分かっている。……少しその事で、話したいんだ。ミカとミラにも後で伝える。」
◇
数分前。
「そうか、知の使徒が言っていたアレは本当だったのか」
「と言うと?」
「君達が打倒ジェルアに向けて動き出したことだ。今や双方の全軍員がそれを聞き入れている」
「朱軍の動きは?」
「最低でも六人は動いているという話だ。中には使命が判明している使徒もいる」
「誰だ」
「一人は
俺達の行き先は決まっている。もし神狩が使徒の手先なら、居場所は割れている。これからは計画的に刺しに来るだろう。
「蒼軍の中から応援は出せるか?」
「朱軍総員二百五十三に対し蒼軍は二百十八。人数不利に陥っている。全面戦争中であるから、少したりとも人員は割けない。申し訳ない」
「そうか……無理な願いをした」
「いいや、こちらからは割けないという話だ。私は、頼りになる使徒を知っている」
「何? 透軍など、とてもじゃないが蒼軍の要望を聞くような質ではないだろう」
「いいや、一人だけいる、蒼軍に加担している透軍が。既にレルカの方に送ったはずだ」
その時、俺は目を見開いていた。
「
「既に出会っていたか? なら話を伺っていると思っていたが……」
「ああ、断った。怪しかったものでな」
溜め息が聞こえた。予想外の事態に呆れているのだろう。
「あの爺さん、詳しい説明もしなかっただろう。誤解させて済まなかった」
「謝らなくていい。そちらの意図に気付けなかったこちらの失策でもある」
「そうだな……」
剣の使徒__アリエンテは思い悩んでいた。助けたい気持ちと、朱軍への守備を両立するのは至難の業だ。俺は断ろうとして声をかけた。
「なあ、やっぱり援助は」
「分かった。ここは軍隊長として、ソライン家の友人として、私が出よう」
「は!? お前何を言っているのか理解しているのか!!」
「指示役は他の使徒に任せる。私自身、もう前線に立てるような腕を持ち合わせていない。しかし、真っ向勝負ならきっと君達の助けになるはずだ」
アリエンテは前線での戦闘により利き手である右腕を失っている。俺がミルドに着いてすぐの時だった。しかし、その剣技は右腕を失った後も衰えを見せることはなく、むしろ更に洗練されつつあった。だが、前線で戦うという立場にはやはり居られないようだった。
「お前がいいのなら、俺は大いに君、アリエンテを歓迎する」
「私もその気だ。大いに歓迎されよう」
◇
「明後日、アリエンテが来る」
「今の話、本当なんだな。アリエンテと会うなんて、何十、下手すりゃ百何十年振りだ?」
「ああ、変わりなく、元気そうだった。老いた様子もない」
「使徒に年とかの概念はないだろ」
「冗談だ」
しかし、アリエンテが直々に来てくれるとは、あまりにも予想外だった。アリエンテ自身、腕を失ってからというもの、自分から戦闘することは、はたとなくなった。彼女もここ十数年は剣を振っていないようだった。だが、心配にも及ばないだろう。かつては蒼軍の軍隊長として、俺達ソライン家を含め、多くの使徒を従え、多くの戦いを勝利へ導いたのだから。
「とは言え、まだアリエンテが来るまで時間がある。その間に襲われて死んだら元も子もない」
「どんな使徒が来ようと、俺が必ず返り討ちにしてやるさ」
「それが、ジェルアの研究者だったとしても?」
「……ああ、今なら勝てる。ライトが俺をそうさせた」
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