第35話 世界終焉生物


「親父!」

「ああ、分かっている。そっちは任せた」


 俺は集落の方へ駆け出した。あの二人ならきっと対処できるはずだ。もしものことがあれば、スキルを使って状況を打破するだろう。


「逃しませんよぉ!!」


 神狩が追ってきた。鬱陶しい。


「練・サーブルショット」


 神狩自体に攻撃力や耐久力はない。鉄塊は神狩の腹部を貫通した。しかし、倒したと思えばまた新しく神狩が出現する。厄介なのは、複製した神狩が独立した意思を持って行動する点だ。俺でも複数の敵を一度に対処するのは容易ではない。

 ここはカツを使うべきか? いや、短期決戦でもないこの状況で使うのは愚策だ。括は体力の消耗が激しい。これから本体との戦闘を控えているのに、今使ってしまっては負けに行くようなものだ。


「本体を探しているようですが、本当にその方向で合っていると思っているんですかねぇ? 私の言葉は嘘かもしれませんし、村長として数十年を過ごした事も嘘かもしれませんよねぇ!」

「貴様がそんな嘘を吐いて何になる? 無意味だ」


 それからは耳を塞ぎ、ひたすら木々の間を駆け抜けた。神狩はこちらの力が絶対に上回っているのを悟ったのか、あれ以上攻撃などを仕掛けることなく去って行った。

 燃え上がる炎が見えた。で塀の上に立った。そこには、赤色で染まった集落と住民の悲鳴があった。そして、集落の中心にある、木製の脆そうな塔の上に人影が見えた。

 それと目が合った。俺は一瞬で神狩だと理解した。……何が嘘だ。


「……やはり、人々が滅ぶのを見るこの支配感は実に堪らない!! 一生このまま幸福に生きたいものですねぇ」

「俺に聞こえるように言ってくれるとは、随分と気前がいいな。神狩」

「私の人生においてこれ以上の幸福はございません。私は今、最も高揚感を覚えているのですよぉ!!」


 悪魔のような声が集落に響いた。いや、悪魔の声が集落に響いた。それは本質的には悪魔と何ら違いはなかった。どちらかと言えば、神狩の方がより悪魔らしいとまで思えた。

 風が強い。吹き付ける熱風は目を刺しているようだった。


「練・サーブルショット!」


 塔は想像以上に脆く、大きな音を立てて崩れた。気付くと、神狩の姿が見当たらない。さっきまで感じていた、少しの魔力も消えている。


「鬼さんこちら、手の鳴る方へ!!」


 背後から声と手拍子がした。いつの間に背後を……


「私の三つ目のスキルを言っていませんでしたよねぇ。そう、三つ目は隠密デクト。姿を隠しつつ、高速の移動が可能という優れモノ。さて、貴方に私を殺せますかねぇ!!」


 神狩はどこからともなくナイフを取り出した。恐らく小型の魔物のスキルを利用したのだろう。小賢しい真似を。


「重・スウェフト」


 その隙に下がった。しかし、目の前にあるのは形の窪んだ塀だけ。


「その程度では、私から逃げる事すらできないですよぉ?」


 また背後を取られた。移動する姿も見えない。どう対処しろと言うんだ。今括で逃げてもすぐに追いつかれる。これは、賭けだが、やるしかないようだ。


「……逃げない? そうですかぁ、諦めたんですねぇ。可哀想に。では、慈悲として苦しくないよう殺しましょうねぇ!!」


 喉にナイフの刺さる音がした。何度も経験しているから、今ではどうでもいいように思えた。


「カハッ__」


 膝の崩れる音がした。相当痛みが来たらしい。


「どうだ、急所に刃物を刺された感想は。ああ、そうか。喉が潰されて声が出ないか。残念に」

「キ、キサ、マ……なぜ、無、傷で、そこに……立ってい、る……」


 神狩は苦しそうにもがいていた。喉に刺さったナイフを取ろうとするが、痛みのせいで躊躇しているようだった。


「まだしてなかったよな、自己紹介__」


 年齢274歳。性別男。昔、国の最重要保護機関によって収容されていた、ソライン家という化け物の根本となる人物。


「俺の名はフェノー・ソライン。スキルのを急所反射エンクト・スピーグルと呼ぶ。またの名を、世界終焉生物『FENO』だ」

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