第34話 神狩〈二〉
◇
「一抜・死極」
母さんが神狩の胴を両断する、そう見えた。だが、実際に切れたのは周囲の樹木だけで、それらは大きな音を立てながら砂ぼこりを上げた。
「残念、それは私の幻影でしたぁ」
「厄介な野郎だ」
「そうでもしないと生き残れんのですよ、この世は」
神狩はまた悪魔のように笑った。こんな状況でも笑っていられるとは、とんだお調子者だ。
俺はこれから来るミカとミラに『
「
瞬間、神狩は押し潰したように地面に伏した。重とは、対象の半径1mの重力を増加させる魔法だ。
「何ですかこれは。こんなスキル聞いた事が」
「これはスキルじゃねぇ。お前の知らない、禁忌の魔法だ」
「三抜・散々」
神狩は粉々になった。しかし、すぐに神狩の声が聞こえる。早々に決着はつかないようだ。
「幻影を何度攻撃したとしても私は絶対に倒せません」
「チッ、これじゃ埒が明かねぇ」
その間も母さんが絶えず攻撃を仕掛けるが、全くと言っていいほど、効いている様子はなかった。
「そろそろ反撃しましょうかねぇ。本体を攻撃される前に殺しておきたいですし、じっくり見物を楽しみたいですしねぇ」
「何? 本体だと」
「あら、口が滑りましたねぇ」
ここにいるのが本体ではないなら、この戦闘は無意味だ。しかし、今の俺では逃げられないような気がしてならなかった。
「親父!」
「ああ、分かっている。そっちは任せた」
親父は集落の方へ走って行った。神狩は幻影を出現させ、親父を追尾するように向かわせた。どうやら幻影は何体でも出現させられるようだった。
「私は一体では貴方達に勝つことはできないでしょうねぇ。しかし、それが十体となればどうですか!」
瞬く間に神狩の幻影が増えて行く。目の前に立ちはだかるそれは、さっきの威圧感とは比べ物にならないほどだった。
「これが私の一つ目のスキル、
そして、ここからが本領です。そう言った神狩はまだ何か隠しているようだった。
「私の二つ目のスキル……それは、
すると、さっきまで立っていた神狩が一瞬にして姿を変えた。
「私が殺して来た中で一番に強かった魔物が、そこに立ち並ぶ『ブレイズキャニオン』なんですねぇ!! 貴方達も見聞きした事があるでしょう?」
「街を半日で壊滅に追いやると言われている、魔境の奥に住む魔物。お前、正気か」
「ハハハハッ!! 正気も何も、殺し合いをしてんだぁ。狂ってる他にないでしょうねぇ!!」
ブレイズキャニオンはゆっくり行進する。ここまでの距離は40mほど。神狩自身、この状況を楽しんでいる。時間稼ぎは十分にできる。
まず、ブレイズキャニオンとなった後の神狩は、神狩の時のスキルを使えるのか? それともブレイズキャニオンの持つスキルが適応されるのか。それは俺自身神狩と戦闘した経験がないから分からない。
それにしても、なぜ神狩のような魔物がこんな小さな集落を狙う? それも数十年をかけて。残酷な言い方だが、もっと大きな街を狙えたはずだ。意図が分からない。快楽を求めているという望みと相反する。
もしや、誰かの命令? しかし、神狩を従えるような存在など魔王や使令などしかいねぇ……いや、そのまさか、なのか?
「フェルノ、何ボサっとしてるの! 来るわよ!」
母さんの声ではっとした。ブレイズキャニオンは目の前まで迫っていた。その身体の亀裂からは止むことを知らずに、マグマとも、レーザーとも言えるような炎が吹き出している。周囲は濁るような陽炎が立ち込め、歩いた形跡を見ると、土が溶けていた。木は自然発火し、黒い煙を吐いている。
俺は魔物であるため、ある程度の熱には耐性があるが、これは耐えかねる。目に吹き込む熱風に思わず腕を顔の前に回した。
「氷・遥の海依りて統べ、繁栄の印を示せ。エスト!」
ブレイズキャニオンは凍りつく。だが、一瞬にして氷は溶け、動き出した。
「集団のコイツらに氷は無意味よ。放出する熱が高温すぎてすぐに蒸発してしまうわ」
「不用意に近付けやしない。ここはどうするべきだ、母さん」
「フェルノの得意技の出番じゃないの? それなら効果が望めるわ」
「了解。物は試しだ」
こちらが攻撃される前に叩く。母さんにはエストで少しでも足止めをして貰い、俺がその内に最大級の詠唱をする!!
「
魔法陣から龍のような鉄塊が彗星の如く駆けた。ブレイズキャニオンは避ける隙もなくその鉄塊に貫通される。
「今の俺達には、生きる目標があんだよ。それを邪魔すんなら、俺は容赦しねぇ!!」
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