第26話 順風満帆とは行かない

 座りにくい岩に再度腰を下ろした。追ってミカがフェルノの右に座る。俺の隣に座っているフェルノが地図を指しながら説明する。


「現在時刻、八時十四分。出発から一時間三十八分だ。総員六名、現在員五名。今いる場所はレルカの一合の半分辺りだな」

「まだまだ時間が掛かりそうだな。大体レルカを越すまでどれくらいの時間を掛ける予定だ?」

「最高でも二週間だ。本当はもっとゆっくり行ってもいいのだが、食糧や追っ手の問題もある。常に行動しておいた方が身の為だからな」

「異論はない。ミカもそれでいいな?」

「うん」


 出発して直ぐに政府の人間に気付かれたのは良くない結果だった。向かっている方向からソライン意図を悟られる可能性がある。それに、政府が指名手配を今度は世界的に出す可能性も否めない。政府の人間だけでなく、今度は一般人も警戒しなければいけないという事だ。


「確か、現在員五名と言ったな。誰が今いないんだ? ……ミラか。何をしているんだ?」


 拓けた小さな平原を見渡してもフェノーとリノアしか見えない。


「ああ、ミラなら少し森に入って食糧を……待て。何だと?」

「ど、どうしたフェルノ」


 フェルノはやけに慌てた様子で目を見開いている。


「ライト、至急ここを発つ。ミラとは後から合流だ。話すのも後だ。いいな?」

「お、おう」


 俺以外は「ドク」で現状把握は済ませているようだった。フェノー達も颯爽と立ち上がって進むべき道に走り出している。


「俺達も親父の後を追うぞ。事態は臨機応変を要する」

「了解だ」


 そこからはずっと走っていた。休憩なんて物は存在せず、永遠に走らされるような気がした。不幸中の幸いか、ここまで五度程度の平坦な道が続き、坂道を全力疾走するかよりは体力を温存しつつ走る事ができていた。未だ何が起きたのか把握できずどうした物かと思っていた頃、横の茂みが揺れ、そこからミラが現れた。


「あ、合流できた! お兄ちゃん。まだ走ってないと駄目だよ!」

「分かっている。朝の奴等よりしつこいな」

「ミラ、怪我してない?」

「してたとしても治してるって」


 まだ余裕そうなミカ達の顔を見ると少し悔しくなったが、逆に負けてたまるかと燃えた。しかしまあ現状把握ができていない俺はこんな事をするしかないのだが。ただ、「朝の奴等」に関連しているのだとすれば、それは俺達を追っているという事だ。政府の者か、狩人。はたまた冒険者か。何にせよ、殺されそうになっているのは理解できた。振り切れたというまで走り続けるしか道はないか。

 走る事に集中しようとした矢先、後ろから物音がした。


「魔物!? いつの間にここに現れた?」


 姿を見せたのはシルバーヘブンに良く似た魔物だった。決定的に違うのは、額に赤色の紋章が見えた。それは何かの組織を意味すると本能的に察知し、群れで動く事もはっきりと理解した。


「予想外の出来事だが、対処できない訳ではない。ライト、頼む!」

「あ、ああ!」


 予想外? つまりこのシルバーヘブン似の魔物から逃げていた訳じゃないのか。しかし、だとするなら今俺を追っている魔物はソライン家の探知からも逃れる精鋭。油断してはいけない。


「凝堅・一閃・甲!」


 走りながら眉間に放った矢は躱された。しかし、頬に少し切り傷が見えた。回避能力はそこまでじゃないのか。なら……


「凝堅・乱雑・丙」


 異空間から適当に放り出された矢はそれぞれ途轍もない破壊力を持つ。初見の敵はこれを脅威だと思う由もない。思った通り、魔物は躱すよりも追う事を優先した。あの矢は少しでも触れれば簡単にその部分が無くなる。

 瞬きをした頃にはもう既に倒れて動かなくなっていた。


「良くやった、ライト」

「これくらいなら造作もない。だが、さっきから俺達は何から逃げているんだ?」


 そう言うとフェルノの走るスピードが上がった。俺もそれに合わせてギアを上げる。しかし向かい風で走りにくい。


「もうすぐ近くまで来ている。アイツが」

「アイツって誰だよ?」

「それをお前に言った時、どれだけ絶望させてしまうか分からない……」


 この世界には七源を司る謂わば神のような存在の人間、源人が世界を旅している。それぞれの名を


火 アルディア

水 ミレイム

風 ガランド

抜 ミィヤ

光 ランスロット

闇 ヴィルヘム

療 フラーリア


 と呼ぶ。奴等は神出鬼没で、いつどこに現れるかは誰にも予測できない。見付けたと思えば次の瞬間には消えていたり、いつまでも付き纏われたりするそうだ。そんな源人だが、実力は神に等しい。そう、源人は神に最も近い力を持った人間である。かつて生きていた魔王でさえ、その存在には怯え、萎縮した。もしその内の二人が戦争を開始した場合、この星は容易く滅ぶと言われている。


「まさか、源人じゃないだろうな?」


 半信半疑で訊いた事だった。


「ライトは察しがいい。どうせ、追っている源人も分かっているんだろう?」

「ああ、見えていなくともハッキリと分かる。……ガランドだ」


 瞬間、吹き飛ばされそうな程の強風が背中に吹き付け、同時に男の声がしたと思うと、空中に誰かが現れた。


「我が名はガランド。世界を見出す貴様等に罰を下す」

「お前もソライン家を敵に回すんだな、

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