第24話 安らぎは訪れない
翌日。心地良くベッドで目覚めた。良し、と意気込んであらかじめ纏めておいた荷物を背負い、階段を上ってリビングに向かった。
地下一階に到着し、突き当たりの左の、リビングに通ずるドアを開けようと歩みを進める。ドアノブに手を掛け、おはようと言いながら六人の待つリビングに入った。
「あ、ライトおはよう! 皆準備できてるよ!」
「俺が最後だったか」
昨日座っていた場所に腰掛けた。そこからは部屋全体を見渡せる。よくよく見れば、この家はかなり広いようだった。今俺がいるこのリビングは追いかけっこや隠れん坊と言った遊びができそうな広さだ。一つ壁を跨いだ向こうの部屋はフェルノの自室があった。一度だけ覗いた事があるが、広さはリビングの半分程で、自室にしては少々落ち着いていられない感じだった。だが、その家には今日でさよならを告げる。
「各自、もういつでも出発できる。ライトが指示を出してくれ」
言ったのはフェノーだった。全員がリュックを背負って今か今かと待っている。
「そうか、なら善は急げだ。良し、出発しよう!」
◇
頭上のハッチが開く。人工的な光にまだ旅の気配はない。周りの木皮にはうっすらそれが感じられた。
流石に木の中に六人も入っていると狭苦しい。早く出ようと出口の鉄板を持ち上げて開いた。朝のやけに眩しい太陽光が目に入る。そして風に吹かれて樹木が俺達を送り出すように激しく葉を揺らして唸った。肺に流れ込む新鮮な空気はどこか久しい気がした。
「長く生きて来たけど、こんな刺激的な事は初めてかも。身体が動きたいって騒いでる気がする」
「そうだな、ミカ。俺もこれからが楽しみだ」
「フェルノがそんな事言うのは珍しいわね。まあ、皆楽しみよね。きっとフェノーも」
「ああ、そうだな」
ソライン家の意気込みは最高潮のようだ。俺も楽しみで仕方がない。人生でここまで未来に希望を抱いたのはいつ振りだろうか。多分、初めてだ。希望は抱いているが、安らぎが訪れる訳ではない。
「待て、人の気配がする。流石に気付かれてから時間が経ちすぎたか」
ほぼ同時に俺もそれを察知していた。恐らく、政府関係か、狩人のどちらかだ。
「まだ家出たばっかりなのに……どうするの? お父さん」
「できれば衝突は防ぎたいが、相手は俺達が強敵だと知って掛かって来ているだろう。かなり連携の取れたパーティか、腕の利く狩人数人が近くにいるのは確実だ。慎重に行動しろ」
「了解。じゃあ、威嚇程度の攻撃をして置こうかしら」
リノアが一歩前に出た。
「
八つの魔法陣が出現した。そこから鉄の棘が無数に放たれた。それらは簡単に樹木の幹を貫通し、気配のする方へ飛んで行く。
「……流石に当たらなかったみたい。でも注意を逸らせたわ。今の内に退散するわよ」
「慎重にと言ったが、まあいい。行くぞ!」
慌てるようにして走り出す。旅の始まりがこれとは、幸先が思いやられる。だが、俺達には確かに希望が見えていた。
少し走った所で気配は消えていた。そんな事より、ちょっと違う道を行っただけで坂道が極端に増え、ここはやはりミルド一高い山だと気付かされた。
「さっきは災難だったわね……」
「まあ、ある程度予想通りだったんじゃないかな。昨日の昼間に知られてた訳だし。それにもう撒けた。案外索敵能力は高くないみたいだよ」
「そうね。ここからは、少し安心して行けそう」
そんな話を聞きながら俺は坂道の辛さに悶え、後悔していた。何度かの登山経験はあるが、レルカは何もかもが違う。傾斜は強いし、岩場ではないのに足場の悪さが目立つし、何よりソライン家の進むスピードが速い。どんどん突き放されているようだった。
「ラ、ライト大丈夫? やっぱり迂回するルートが良かったんじゃ?」
「はぁ、はぁ。いや、いい。善は急げと言っただろう。俺に構う事はない。だが、結構キツイなこれ……」
「早いけど、休憩する? 丁度向こうに穴場が見えたし、私もちょっと水分補給と休憩がしたいかも」
「そ、そうか。じゃあ甘えさせて貰うよ……」
(もう少し私達を頼ってくれたっていいんだけどな……)
それから十分休憩したのだった。
◇
テーブルで俺達四人はあの事について話し合っていた。
「あの攻撃は何だったんだ!? 今回は奇跡的に避けられたが、次アレをやられたら死ぬぞ!」
「分からない……あんなのがレルカにいるなんて聞いてない」
「あ、あのさ。噂に聞いた程度なんだけど……」
「どうしたサラ」
「数百年前から生きる伝説みたいな魔物がいるんだって。それがレルカに住んでるって話なの」
「そんなの迷信だろう」
「ウチの婆ちゃんが良く話してくれたの。あの森には、昔から住む“ソライン”って魔物がいるって……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます