第23話 出発の前に

 嬉しい誤算が起こり、それぞれがそれらしい衣装を身に付ける事ができた。服装を変えたソライン家は、名門の貴族であるように見えた。


「ずっと半袖だったから、ちょっと窮屈だね」

「確かにそうだな。避ける時とか、服も気にする事になりそうだ」

「着てすぐそれはないだろう。もう少しいい面も見て欲しい物だな……」

「まあ、一見したらただのいいとこの家族でしょう。これで、ライトの不審者疑惑もなくなるわね」

「服のいい所は……?」


 それからは雑談をして、夕食の時まで過ごした。その間、唯一フェノーが格好いいと言ってくれた。ありがとう、フェノー。


「では皆さん手を合わせて。家を発つ記念と服の完成を祝って!」

『乾杯!!!』


 手作りのコップが打たれて鳴る。その音は絆の印と等しかった。

 ところで……とミラが話を切り出した。


「家を出た後だけど、どういうルートでジェルアに向かう? レルカを越えるにしても、ライトが大変よね」

「いや、そこは大丈夫だ。今まで甘ったれた生活を送っていた訳じゃないからな」

「ならレルカは越えるとして、その後よね」


 壁に掛けてある地図を魔法で持って来て空中に広げた。


「レルカを越えると、もうそんなに高い山はないわ」

「問題はどの道を行くかだよな」

「そうね、お兄ちゃん」


 内心、それに驚いた。ミカに少し睨まれた。


「で、見て分かる通り、レルカを越えた場所には二手に別れるの」


 レルカの後ろには大きな二本線が見えた。それは目前の山を沿うように東西に分かれている。そして紆余曲折、何度も枝分かれした後、ジェルアに合流していた。大まかな流れはどちらかの道を選び、ジェルアに到着。そこからは暴れるって感じか。


「大雑把だけどそんな感じよ。まあ一番重要なのはどの道を選ぶか、なんだけれど」


 これを見て、ミラが指差した。


「三角で印が付けてあると思うんだけど、これは集落の印よ。二つの道を比べると、東側の道の方が集落が少ないの」

「微々たる物だが、確かにそうだな」

「私達ソライン家にとって、人目に触れるのは余り好ましい事ではないわ」

「だから西側が進むべき道としては相応しい、といった所か」


 俺がそう言った時に「でも」とミラが挟む。


「東側の道の中央、ここに丸印があるでしょう?」


 道を少し逸れた場所にそれは見えた。


「これは私達が逃げる時に一時的に使った仮住居よ。ここには食料が沢山保存してある。それに、この付近に住む魔物とは付き合いがあって仲がいいの。だからそこを去る時に交わした約束で、護られているとは思うけど」

「そうか、そう言えばそんな場所があったな。……だったら東側を選ぶのが正解だろうな。安全地帯があるのは大きな利点になる」


 フェノーは東側の道に進む方に賛成のようだ。


「地域の集落に見付からない保証も、現存している保証もないけれど、それに賭ける価値はあるわ。それに、ウェンがジェルアの人間に負ける訳ないだろうしね。きっとその時は助けてくれるわ」

「俺もそう思う。ウェンがジェルアの人間如きにへこたれてる姿なんざ想像も付かねぇ。生きてるよ、アイツは」


 ウェンとは、ソライン家と親睦がある魔物なのだろうか。だとしたら東の道を選ぶのは殆ど確定した物だ。仲間がいればジェルアを堕とせる確率も跳ね上がるだろう。


「そっか、ライトにはウェンの事話してなかったっけ」

「ウェンについては、俺から話させてくれ」


 フェルノが皿のおかずを箸で取りながら言う。


「ウェンは狼怪ロウケって言ってな、人間の姿に化ける事ができる魔族なんだ。逢った時こそ敵対していたが、言葉を交えるに連れ、境遇が似通っていると分かった。そこからは仲間として今日まで過ごしているという訳だ」

「という事で、多数決を取ります!」

 言ってミラが立ち上がった。


「まず、西側の道がいいと思う人!」


 勿論手を上げる人は誰もいない。


「じゃあ、全会一致で東側の道ね」

「ウェンに会いたいってのも、皆あると思う。だって、もう何十年も会ってないから」

「それもそうね、ミカ。私もそう思う。早くあの顔が見たいわね」


 その後の話は、家を出てから考える運びとなり、その日の話し合いは終了した。いよいよ明日、この家を発つ。短い間だったが、この人生の中でもかなり貴重な体験ができたと思う。多分、これはアレン達と過ごした六年よりも思い出に残る物だ。確信が持てた。

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