第18話 魔法を創ろう

「準備万端! 明日にはなんとか出発できそうだね、ライト様!」

「そうだな」

 最後であったミカの準備が整った。そして、俺達は中央テーブルの椅子に隣同士で座っていた。


「今は17時位か? まだ晩飯には時間があるな」


 ミラは今取り込み中で、魔法学を教えて貰えなさそうだし、明日でも明後日でもいいわよ~なんて事も言っていた。暇な時程やる事が見つからないのは、皮肉だとつくづく思う。


「じゃあ、しりとりやる?」

「いや、まだやるべき事を探そう。ソライン家が、俺達が世に出ても何も怪しまれないようにしないと」


「強いて言うなら、この服装かな? ボロボロで、ちょっと黄ばんでるし。外に出るなら、ライト様みたいに綺麗な服の方がいいよね!」


 俺の服装はこの前新調した黒のローブ(俺が元々身に着けていたローブをメルテがわざわざ買い替えてくれた)、母さんの形見のネックレス、そして眼帯。綺麗と言えば、綺麗だろう。


「そうだな。そろそろ替え時が来ている気はしていた。まあ、誰に見られる訳でもねぇし、冬の寒さは魔法でどうとでもなる。衣替えのきっかけが、なかったからな」

 フェルノが手荒いから戻ってミカの左側に座った。俺から見て左に向かって二番目だ。


「服を織る魔法とか、あったらいいんだけどな」

「私が知ってる魔法にはそれはないけど、ね」


「お、それいいな。創ろうぜ、その魔法」

「創っちゃえばいいもんね!」

「やっぱり、魔法って創れるんだな……」



 フェルノ、ミカが席を外し、数分。何かを持って来るらしいが、魔法を創る上で必要な物って、一体何なんだ……?


 そして、フェルノ達はリビングに戻って来た。

 フェルノは大きな紙を両手に抱えて。ミカは筆とインクを持って。


「この紙に魔方陣を描いて、魔法を創るんだ」

 紙を1m四方になるよう調節しながらフェルノは言う。


「良し、こんなもんか」

「お兄ちゃん流石だね!」


 床には、綺麗な正方形の紙が広げられていた。


「じゃあ、早速描いてくよ!」

「待て、俺がやる。ミカは経験が浅い。それに、魔紙も、魔液も貴重な物だ。失敗は許されない」


 魔紙とは、持って来た紙の事か。魔液は、ミカが持っていたインクの事だな。ただの紙やインクじゃないのか。


「そんなぁ。じゃあ、今度は私がやるからね!」

「はいはい。そんじゃ、始めるか」


 フェルノが筆を持ち、インクにそっと浸す。そして、魔紙に大きな円を描き始めた。


「魔法陣は三円構造って言って、外円、内円、心円の三つで構成されてる。今描いてんのは外円だ」

 言って、大きい円の内側に、更に円を二つ描き足した。


「で、心円にはその魔法の本質となる字を刻む。今回は『服』か」

 そうして、心円の中に『服』という字が刻まれた。


「お兄ちゃん字綺麗だね!」

「当たり前だ。……次に内円の内側、心円の外側の部分だが、ここには魔法をより効率良く使う為、そして魔力の対応精度を上げる為に、大まかに魔法についての記載をする」

「具体的には、どんなのを?」

「これは、イメージした通りの服を生み出す魔法だ。だから、魔力が変化するべき形はある程度定まってるだろ? それに、この魔法は速度はそこまで重要じゃない。だから、ここには『繊維』、『精度』と書く」

 綺麗な字でそれらは刻まれた。


 少し考えよう。魔法をより効率良く使う? それが実現できるのなら、『消』のような負担の掛かる魔法は存在しない筈だ。

 だが、七源以外の魔法は人工的に生み出された本来あってはならない禁忌の魔法。

 もしや、七源では対応できない魔法、つまり今回のような服を生み出す魔法は、服を生み出す前にそれを構成する繊維、または原子自体を作らなければならないんじゃないか? 魔法が重複し、それに加えて魔法を撃つスピードを考慮すれば、あれだけ負担が掛かるのも良く分かる話だ。


 つまり、手順が掛かりすぎるから、魔法の負担も大きくなる。『消』の場合、単に物質を消すのではなく、恐らく別の空間にその物質を一方的に送っているか、または凝固を利用して物質を小さくしたかのどちらかだ。

 どちらにせよそれを実現するのにかなりの手数が掛かる。


「で、次だが……ん? ライト、考え事か?」

 フェルノが筆を置いて訊いた。


 俺は考え事をすると直ぐに頬杖を突く癖がある。少し知り合っただけでも、一瞬にして、考え事をしているか見抜かれてしまう。


「いや、禁忌の魔法をもっと改良できたら、と考えていたんだ」

「改良? 私達が頑張って創り上げた魔法陣に、改良? もしかして、ライト様にしか見えないこの魔法陣の欠点があるのかな!?」


「それは、本当か? だとしたら、これまでの魔法学が揺らぐぞ……!」

「い、いや、ただの憶測に過ぎない。妄想話とでも言っておくよ。そんなに期待はしないでくれよな」


 ソライン家が聡明なのは良く分かる。だがそんな人でも、致命的なミスに気付かない事は、普通にある話だ。それが、魔法の知識に乏しい者でも気付けるミスであったとしても。


 そして、フェルノ達に俺の考えを伝えた。そして二人は少しの間考え、ついに結論が出た。


「七源以外の魔法を使う事によって生じる魔法の重複……その所為で負荷が過度に掛かっていたのか」

「多分な。まあ、天誅の可能性だって否めない。何しろ、『消』や『泥』と言った魔法は、強すぎて七源が霞んで見えるからな」


「良し、それを踏まえて『服』の制作に取り組むとしよう。それに、改良する部分も、丁度外円だしな」

「何だかお兄ちゃんいつもに増して生き生きしてるね!」

「それはミカも同じだろ? なんせ、こんなにワクワクする事なんて滅多にないからな!」

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