第4話 武者、怒る

 その日は突然やって来たんだ。


 僕が十三歳、大姐が十五歳の時だった。


「フォッフォッフォッ、お久しぶりですね、ジャッキー・リー」


「貴様は…… まだ生きていたのか」


「フォッフォッフォッ、貴女あなたと同じく仙人になりましたのでね。但し、いわゆる邪仙ですがね」


「ブルース・チエーン! 何が目的でここにやって来た!?」


 老師と僕たちが住むこの家に突然やって来た邪仙ブルース・チエーン。


「フォッフォッフォッ、勿論ですが貴女の生命と弟子たちの身柄ですよ。立派な邪仙に私が貴女に代わって修行をつけてあげますよ」


「そんな事をさせるかっ!? メイ、ブトー、逃げろ! この男は私が食い止める!!」


「老師!」「老師、しかし……」


 大姐と僕の言葉に老師はにこりと微笑み言う。


「頼む、逃げてくれ。じゃないと私が本気を出せない。安心しろ、私が負ける事はない」


「フォッフォッフォッ、随分と強気ですねぇ。弟子の前だからと強がらなくても良いのですよ、ジャッキー・リー。貴女が人だった頃と同じように私がちゃんと調教して上げましょう!!」


 言うやいなやブルース・チエーンが老師に襲い掛かる。


「メイ! ブトーを連れて早く逃げろ!!」


 老師の命令に反射的に大姐は従う。僕の手を掴み、必死に走り出した。僕も仕方なく大姐について走る。 


「ブトー、老師は、老師は大丈夫よね?」


「うん、きっと大丈夫ですよ、大姐だーじぇ


 必死に走って武神山の麓までたどり着いた僕たちをあざ笑うブルース・チエーンが待っていた。


「フォッフォッフォッ、遅かったですね、我が弟子たちよ。これは鍛えがいがありそうですね」


「なっ!? 何でお前が先にここに? ハッ、ろ、老師は、老師はどうしたんだ!?」


 大姐がブルースにそう叫ぶと、


「フォッフォッフォッ、あの仙女ならば私の調教に従わなかったので、永遠の苦痛を与えて生かしておりますよ。私が死ぬまであのままですけどね。フォッフォッフォッ」


 そんな返答をしたブルースに対して僕の心の中からマグマが噴き上がったんだ。


「キャッ、えっ? ブ、ブトー?」


 僕の心の中のマグマに反応して怯える大姐に僕は言った。


「大姐、老師の元に戻って下さい。この腐った死体は僕が何とかします」


 僕の言葉に戸惑いながらも大姐は従ってくれた。


「フォッフォッフォッ、まさか一人で残るとはねぇ…… これは邪仙神様によいお土産が出来ましたね」


「お前は絶対に許さない!! 僕の大切な家族を傷つけたお前は、ここでこの世から消え去れ!!」


 面白いジョークを聞いたかのように笑いながらブルースは僕に向かって右手を上げて振った。


「はいはい、コレで私の言う事を聞くでしょう。何せ切り飛ばした片腕をくっつけられるのは、私か、邪仙神様しか居ませんからねぇ」


 僕の片腕を切ったと思っているけど、切れてませんけど?

 僕は奴が切ったと思い込んでいる右腕を揮って奴の急所を叩いた。


「ジャッキー・リー老師直伝、渇掌破かっしょうは!!」


「フォグェッ!! な、何故切れてないのです!! グエッ、グハッ! な、何ですか、この渇きは! ゲフッ! ゴハッー」


 全身から体内を流れる水分を出しながら、干からびてブルースはなくなった。


 僕の体は不壊。決して壊れる事が無いと気がついたのは、記憶が戻り女神との会話を思い出した時だった。


 あの時、僕は風邪なんかの病に負けない体にして欲しかっただけで、こんな体を望んだ訳じゃなかったんだけど、今では本当に有難うございますと女神に伝えたい。 

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