第55話 護衛パートナー

「一昨日は、えきさいてぃんぐ、だった。……ありがとう」


「どういたしまして」


 薄緑は無表情の中に嬉しそうな眼を爛々と輝かせていた。


 隻腕の鬼女を調伏してから二日がたった。

 薄緑は、正式に俺の隣席となっていた。


 既に忘れかけていたのだが、学内での成績が発表されたのが昨日。


 学内での護衛パートナーが正式に決定されたのが、今日。


 俺は昨日は不幸があり欠席した(長光の一撃が予想以上に重かった)。


 さすがにやりすぎた、と罰が悪かったのか。

 昨日は長光まで学校をサボタージュして一日つきっきりで看病してくれた。

 心根は情熱的で真面目な長光らしいよね。


 正直、役得でした。


 「大丈夫ですか?」と聞かれて「大丈夫だよ」と答えたとき。

 そのたびに心から安心する長光さんを見ていると、とても心が癒やされたのです。


 でも、そんな昨日は天使の長光さん。


 今は悪魔。

 すこぶるデビル。


 前の席で光世が青ざめる程の障気……もとい、威圧感を放っております。

 黒板に至るまでの時空が歪んで感じる。

 前の席列は、斜向かいに長光という配置となった。

 なぜこのような席配置に、本日から変わったのか。


 それは護衛パートナーと隣席に座る、というルールのためだ。


 まず長光と登校して直ぐに見に行ったのは、試験結果だ。

 俺が試験に向かって努力していたのを、長光は心配しながら見守ってくれていた。


 だから素晴らしい結果を見たときは心から喜び、祝福してくれた。

 結果は座学一位。

 剣術、体術、陰陽術はともに二位。

 心から祝福していた姿。


 それから一転。

 北谷教諭の口から護衛パートナーが発表されてからはもう、これですわ。


 女心と秋の空。

 一時の仮想通貨の価値変動のように複雑怪奇ですわ。


 しかし俺にとっても、今の状況は予想外だった。


 俺はパートナーの第一希望として長光を指名していた。

 他は、唯一まともに話せると言うことで第二希望に薄緑の名を記し、第三希望以降は特になしとして提出した。


 まともにいけばだ。

 俺は実績という面からみて長光か、あまり親しくない誰かがパートナー、ということになっていたはずなのだ。


 だが俺の隣には、薄緑がパートナーとしている。


 これは隻腕の鬼女調伏の件を薄緑が勝手に公表してしまったことによる影響が強い。

 薄緑が公表した内容では……なんというかその、俺はまるで英雄のように語られていた。


 どんな苦難にも挫けず不利を知略で覆し、傷ついても義侠心ぎきょうしんを胸に立ち上がる勇者。

 実際は下劣な下ネタのオンパレードなのにね。

 本当に事実なんていくらでも歪曲して報道され得るんだなぁ、と逆に関心した。


 ともあれその実績が評価されて、姫殿下の護衛を任せるに値すると評価されたのだろう。

 これは皇国民としては最高級の栄誉だ。


 学内成績は評価されて嬉しいが、実績の一部は捏造だから手放しには喜べない。

 周囲からのやっかみや嫌がらせも今後は向けられるだろう。

 人は権力や名誉を前にすると、躊躇なく容易く他者を傷付ける。


 これは実体験からも知っている。

 いや、理解している。


「明日からの長期休み、楽しめよ。あと浅井……男の浅井はこの後、職員室に来てくれ。時間はそう取らせないが二者面談だ」


 そんな俺を心配したからか北谷教諭が俺を呼び出し、一学期最後のHRを締めくくった。




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