第54話 決着

「――万物ばんぶつ相反そうはんせし宿命しゅくめい。陰に陽。陽に陰。均衡きんこうを崩すは定められし摂理せつりへの冒涜ぼうとく。自然に至るは万有ばんゆうが求む必然ひつぜんほだす邪気は切断される。臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前! 摂理せつり円環えんかんへと還幸かんこうせよ。急急如律令!」


「あ、アアアアアアアアアアアアアアアアアアアア……ッ!!」


 隻腕の鬼女は俺の調伏の言霊を受け、急速に障気を散らす。

 邪気を祓われたからだろうか。


 障気が無くなるころには、隻腕の鬼女の姿は――人間時代の美しい女性の姿に戻っていた。

 そして徐々にその身体を粒子状に砕かれ――やがて、鬼女のいた形跡は何一つとしてなくなった。


 俺はゆっくりと投げた槍(雫)の回収に向かう。


「ふう、終わったな……・」


『ふぅ、ではないわたわけが!!』


「すまん」


『軽いわ!!』


「後でちゃんと謝るし、罰でもなんでも受けるよ。とにかく今はさ、雫の回復エキスをみんなに分け与えて、帰ろうぜ」


『……む、それはそう、じゃな。それにそなたも回復する必要があるし、のう』


 金平。

 国行。

 光世。

 長光。

 薄緑。


 みんなに雫エキスを飲ませると、なんとか歩けるぐらいまで回復した。


 ……これ、搾り取れば凄い値段で売れるんじゃね?


「終わった、のか」


「ああ、悪い金平。結局、薄緑に傷を負わせちまった」


「ん。治ったし、万事、問題ないさー」


「姫殿下はやさしいな」


「でも、姫殿下を悩ませてきた隻腕の鬼女は無事に退治できたからね。僕も、少しは力になれたかな?」


「もちろんだ、みんなありがとう」


 深々と頭を下げ、みんなに御礼をいう。


「義兄さん、そんな御礼なんて――」


『うわぁあああああああああああああああああんっ!』


 長光が微笑みながら何かを言おうとしていたところを、鳴き声が遮った。


「な、なんだよ、おい!!」


「俺の胸元から声が……、――あ」


 懐を視て、声が発信されている物体Xを手にとった瞬間。

 固まった。


「何でも無い。よし帰ろう! 直ぐ帰ろう!! 美味しいご飯にぽかぽかお風呂、あったかい布団が待っている!」


『無視しないでよぉおおおおおおお!!』


「なに、見せて?」


「あ」


 薄緑はゆらりと懐に入り込むと、物体Xを手にとった。

 それは――。


「……これは、胸の凹んだ土偶?」


 式神召喚の儀式用にパラフィンを固めて作った、貧乳長光人形だった。


「まさか、先ほどの鬼女はこの人形に調伏された……のか?」


「みたい、だねぇ?」


『うわーん! また人間の姿に戻れたのは嬉しいけど、こんな胸がへっこんで股間が膨らんでる人形が依り代なんて、嫌だよー!』


「……ん。これは、確かに可哀想。でも、あなたがさらった子とその家族は、もっと可哀想」


『さらったんじゃなくて、どうやったら美しくなれるか、参考にしたり相談にのって貰ってただけだよぉ! 今は幽界ゆうかいにいるから時間の流れも現世うつしよよりよっぽど緩やかだし、何にも苦労や酷いことなんてさせてないよぉ!!』


「あ、そうなん、だ」


 国民を護れて安心したのだろう。

 薄緑は、心から嬉しそうな顔をした。


「ふむ。どうやらこやつ、復讐心よりも己の美への劣等感、妄執もうしつが強すぎて鬼化したのじゃな。美意識が高すぎた者の末路、といったところか」


 いつの間に人間の姿に戻っていたのか。

 自然に雫が注釈を加えている。


『こんな胸の潰れた美しくない人形なんて、酷いよ……』


 しくしく、と変形長光人形からすすり泣く声が聞こえる。

 俺はさっと懐に人形を仕舞い直し。


「いやーよかった、よかった。全て解決だっ! さあ、かえ――」


「――れるとでも、思いましたか? 義兄さん」


「「「ひっ」」」


 地獄から這いずり上がってくるような、低い声音だった。


「説明を求めます」


「すみません。ほ、他に依り代になりそうなものを用意している時間がなくって。一応もってきちゃった。僕、反省、みたいな?」


「そうですか。義兄さん。眼を瞑って歯を食いしばって下さい。――一発で許してあげます」


「……はい」


 ああ、ビンタ一発か。

 痛いだろうな。

 まあ、でも嫌がってた長光人形(無乳)を使っちゃったし、仕方ないよな。

 言う通り目を閉じ歯を食いしばる。


 来るビンタの衝撃に耐えるべくして歯を食いしばって待っていると――。


「ふん!!」


「へぶぅ……っ」


 ――めっちゃいい金的が入った。

 ……そこは、ノーガードです。


「これで全部、許してあげます」


「うわわ!? や、安綱!! また血が!!」


『此方の加護水を股間にかけるのじゃ! 急げっ!!』


 長光さん。

 これ絶対過剰制裁でしょ?……そう突っ込む余力もなく、俺は意識を手放した。




―――――――――――

ここまで読んで下さり、誠にありがとうございます!


楽しかった、続きが気になる! 

という方は☆☆☆やブクマをしていただけると嬉しいです!

ランキング影響&作者のモチベーションの一つになりますのでよろしくお願いします!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る