第53話 過去の地獄が、今をマシな地獄と思わせる

『そなたは一人ではない!! 股間からなまくら刀しか生えとらんそなただが、今は此方という名刀を持っておるじゃろ!――立て! 此方を使って立ち、あやつを切るのじゃ! たぬのはそなたの股間だけでよい!』


「うるっせぇんだよ、カタナビッチ!! ED馬鹿にすんなよ!?」


 片膝立ちになり、再び崩れそうになったところで――


 ――ザンッ。


 雫の刃先を地面に力強く突き立て、杖とした。

 俺は全身にグッと力を漲らせ――一気に天に向かい爆発させる。


「いいか、よく聞け! 俺はなぁ、ただのEDなんかじゃねぇ!! 全国レベルの! 元気なイーディーンなんだぁぁ!!  いつまでもしょんぼり寝てられっかぁぁぁ!!」


 立ち上がった。

 二本の脚で大地を踏みしめ、天に向かい堂々と直立した。


「義兄さん、あの状態から勃った!!」


「勃った……、安綱が勃った!」


「漢字が妙な変換されてねぇかな!? 普通に立ち上がったでいいんだよな!?」


 なんだか周囲の発言が妙に感じる。

 これは気のせいだ。

 そう思わないと、やってられない。


 俺はよろめきつつも、逃げようと足掻いている鬼女との距離を一歩、また一歩と詰めていった。


「よう、お待たせ」


「なんなんだよ、きみは!? おかしいだろ!」


「悪いな、諦めの悪さとしつこさには定評があるんだ」


 俺達、理学療法士って職業は諦めたら終了だ。

 諦めずに、答えを探し考え行動しチャレンジすることには常日頃から磨きをかけてきた。


 何も今に始まった『おかしい人』ではない。

 前々から、俺はおかしかったんだよ。


「うらぁあああああああああああああッ!!」


「ちっくしょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」


 そして再び剣戟けんげきが再開される。

 お互い血まみれで剣舞のような優雅さなど一切ない。

 泥臭い戦いだ。


 どちらも既に満身創痍まんしんそういだ。

 血に濡れていないところを探す方が難しく、脚裁きも太刀裁きも鈍い。

 お互いに、致命傷は与えられない。


 ――特に、熟練度の低い俺の剣術では。


「クソ! 付け焼き刃の剣術じゃ、決定的な一撃が与えられない……!!」


「ァアアアアアアアアアアアアアッ!!」


 力任せな鬼女の拳を刀で受け止めきれず、後退してしまう。

 間合いが離れた隙に逃げようとしているのか、鬼女は背を向けて動く片脚で跳ねるように逃げ始める。


『決め手もなく、逃亡も許しそうな危機的状況。――じゃが、そなたなら出来る! 自分の力を信じよ!! 追え!!』


 俺にはこの世界に来るにあたって特別に受け継いだ力だの秘められた力だの、そんな大それたものはない。


 ただ、絶え間ない辛辣しんらつな言葉や理不尽に耐え抜いてきた精神力。

 それでも前に進む、努力をしていく『気持ち』だけは引き連れて来てるんだ。


「危機だぁ? アホなこと言うな! こんな状況はなぁ、看護師達に身に覚えのない作り話を広められた時みてぇな、八方塞がりな世間の冷たさに比べれば危機でもなんでもねぇんだよ!!」


『お主はこんな時に何を言っておるんじゃ!?』


「雫! 俺は前の世界で、本気で頑張ったと胸張って言えることが一つある!」


『わかった、その話は後で聞く! 今は奴を追え!!』


「俺の努力の成果を、お前にも共有して欲しくてなぁ!――いくぜ!!」


 俺は、雫を自らの耳の横に構え――助走を開始した。

 そして――。


『は?』


「上司に弄られても折れない我が聖槍せいそう、いーでぃーん元気の投擲とうてきを食らいやがれぇぇ!! ラァああああああああああああッ!!」


『ハァああああああああああああああああああああああああッ!?』


 自称名刀、雨雫を――やり投げの要領でぶん投げた。


 槍(雫)は風を切り裂き、伸びる伸びる!!

 飛距離と速度は充分。

 あとは、命中するかだ!


「いっけぇええええええええええええええッ!!」


 にわか剣術で通用しないなら、長年本気で培ってきた槍投げだ!!

 そもそも昔の合戦の主役だって槍だったんだ!!


『のぉわあああああああああああああああああああああッ!!』


「――ぇ?」


 近づいてくる雫の叫び声に反応し、鬼女がくるっと振り向いた瞬間であった。


 ――ドンッ!!


「か、はぁ……ッ」


 雫の刀身は鬼女の腹部に深々と突き刺さり、刃先は身体の反対側まで突き抜けていた。


『お、おのれ安綱め……、後で覚えておれよ!――今じゃ、調伏せよ安綱ぁ!!』



―――――――――――

ここまで読んで下さり、誠にありがとうございます!


楽しかった、続きが気になる! 

という方は☆☆☆やブクマをしていただけると嬉しいです!

ランキング影響&作者のモチベーションの一つになりますのでよろしくお願いします!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る