第45話 つかまえたよ?
これは自分の視覚、
これが成功しなければ、計画は全て水の泡だ。
勝ち目が完全に消え失せる。
「どうだ。俺の術でお前の腕を再生した。これで悪行からは身を引いてくれないか?」
手を握り何度も感触を確かめながら、鬼女は俺へ向けにやりと笑みを浮かべた。
障気はダメージによって少しずつ薄れているが、それでもまだ輪郭しかはっきり見えない。
「だめだよ。ぼくの目的はね、これだけじゃ果たせないんだ」
「そうか、残念だ」
すっと俺が腕を挙げるのを見て、三人の式神が再び攻撃を再開する。
「あはは。君はいい人だねぇ。お人好し!」
興奮した表情でかまいたちと武者に立ち向かう。
国行に目配せして頷きあう。
鬼女の動きは、素人目の俺達でさえも解るほどに大雑把になってきた。
鬼女の視線は明滅する光に釣られ、目の前で動く二体の式神に集中出来ていない。
受動的注意が自然とそこらでランダムに明滅する原色に釣られてしまうのだ。
赤、青、緑。
これらの非常に目立つ原色と、付いたり消えたりする現象。
脳の構造的に生物の注意ネットワークは、大きく
一つのことに集中するときに活性化される能動的な背側注意ネットワーク。
多数の事象に注意が向くときに活性化する腹側注意ネットワーク。
一方が
これらは俺が理学療法士として働いていた時に得た知識だ。
自閉症の場合には背側注意ネットワークが非常に優位であり、極端に能動的注意が高まっている。
だから周囲に関心がないように見える。
だが、一つの事に対する執着や熱中度は非常に高い傾向があり、時に一分野に天才的な能力を持つことがある。
対して腹側注意ネットワークが非常に優位な例に注意欠陥多動性障害が挙げられる。
一つの事に集中する能動的注意が向きにくい代わりに、周囲の些細な情報に気が付く受動的注意に優れている。
だから能動的に自分の感情や行動を抑えることが苦手となる。
今、俺は国行の召喚した
僅かに残る集中力も今まで失っていて、急に戻った左手の感覚に集中させている。
この作戦の弱点は、なにより俺が相手の動かしたいタイミングに幻術で作り出した左手の動きを同期させられるか。
くどいようだがそこの成功率にかかっている。
相手の動作や思考から予測し幻覚を同期させなければすぐに破綻する作戦だ。
相手が自分の手として認識し、慣れてくれるまでは気が抜けない。
「ぐ……」
既に汗が流れ落ちている。
非常に地味ではあるが、俺の集中力もかなり削られる。
いや、俺だけでは無い。
気が付けば、俺の前に立ち式神を操る三人からも疲労の色が濃くでている。
呪力の未熟な俺達では召喚した式神を操るのには莫大な集中力を要す。
近距離であってもだ。
その昔、十二もの式神を同時に召喚し遠く離れていても自由自在に操っていた鬼才の陰陽師がいたと伝承があるが、事実だとしたらそれはまさしく化け物の類いだ。
一般的に俺達が訓練で辿り着けるのは、一体の式神を召喚しながら自らも自由に動くことが出来る程度だ。
「――どうしたの? 動きが鈍ってきたよ」
陰陽師の呪力が弱まっていくとともに、式の動きも鈍っていく。
元々、式は呪力によって分霊の力を借りている存在だ。
陰陽師の力量によって、同じ式であっても全く能力は違う。
「ほら、捕まえた。このちょこまか動く子さえいなくなっちゃえば、君たちを倒すのなんて簡単だ」
凄まじい速度で鬼女の身体を削り続けていたかまいたちが、ついに鬼女の右手に掴まった。
鬼女はかまいたちの攻撃により所々から出血していた。
血で汚れた身体で、暴れるかまいたちを強く握る。
そのままぐぐっと力を込めると、かまいたちはその身を光の粉とし身を散らしてしまった。
「あっははははは!」
放り捨てるように右手を払った鬼女は、恐ろしい速度で三人の前に跳んできた。
障気越しにも、にたっと笑ったのが解った。
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