第42話 図書館の仕掛け

 解散と告げ皆は帰宅させた。

 俺は準備があるから、と一人学校に残る。


 向かう先は図書館。

 この学園の図書館には、不思議な現象が起きる。


 俺はこの図書館に起こる現象の謎を解いた先で、隻腕の鬼女を打倒する大きな力を得られる。

 そんな確信にも似た可能性を見出していた。


 初めて違和感を覚えて謎を解明しようとしたのは、テスト期間中の図書館でのことだ。


 この図書館は毎日、決まった時間――一六時になると五つの燈が部屋を灯す。


 それらの燈を結ぶと、必ず等間隔で結ばれた五芒星が描き出される。

 それぞれ青黒(水)、白(金)、黄(土)、赤(火)、緑(木)の燈を灯す灯籠が突如として出現し、室内を照らしてくれるのだ。


 これらの色は陰陽五行思想における五元素を現す色と一致している。

 どの色彩を灯す籠がどこに現れるかは、日によって完全にランダム。


 この現象は長らく学園生の間で守護の燈として伝えられてきた。


 だが、俺はこの伝承に違和感を感じた。

 陰陽五行思想には水金地火木の五つの要素がある。

 そしてこれらの位置関係にはそれぞれ意味がある。


 五行相克ごぎょうそうこく五行相生ごぎょうそうじょうという相互作用が代表的な例であろう。


 相克に位置すると気の力を収める。相生に位置すると気を高めると言われている。

 無論、闇雲に気が高くても低くても良くない。


 だからこそのランダムな色配置。


 日によって、どこの気が高まりどこの気が収まるか全く違うお楽しみ要素。

 最初はその伝承に納得していた。


 だが、思ってしまったのだ。

 もし灯籠の位置を自由に動かせたらどうなるのだろうか、と。


 そして一つの灯籠を抱えてみると、案外簡単に動かせたのだ。

 そこで俺は一つの仮説と伴に、灯籠を全て動かして五行を正しい位置に置いてみた。


 互いに相生しあう位置関係となって、燈はさらに包み込むような優しさを帯びた。


 だが、そこまで。

 特段大きな変化は生じない。


 ここまではまだ予想通りであった。


 俺の予想では五芒星の中央、あるいは人を意味する木が示す色――黄の灯籠周辺で何かしらの変化が起きるのではないか、という予想だ。


 遊び半分、いや八割方は巫山戯て行ったことだ。


 五芒星中央にいても、少し気力が吸い取られるかなぁぐらいの感覚だった。

 だが黄の灯籠を触ると、空間に違和感を覚えた。


 何か秘密があると確信したのはその時だ。

 しかし特段何も起きること無く、やがて時計の長針が一六時三分を過ぎた辺りで燈の色は優しさを消して普段通りの明るさとなった。


 そこでまた一つの仮説が浮かんだ。

 その日はそのまま家に帰った。


 そして翌日の夕刻一六時。

 俺は再び灯籠の位置を前日と同様、相生に設定し黄の灯籠を触りながらその時を待った。


 一六時三分。

 時計の長針が示すのと同時に俺は、一つの単語を呟いた。


「――黄泉よみ


 瞬間、ぐにゃりと視界が歪み激しく廻る目眩が自分の意識を刈り取った。

 認識する周囲の景色は回転するように目まぐるしく変化していく。


 やがて目眩が収まると、俺は霧がかった長い坂の中腹に立っていた。

 横には清浄な水が湧き出る泉がある。


 予測通り、一六時三分。

 安易な発想だが午後四時三分だから、合い言葉――空間に至るために捧げる言霊は、黄泉。


 ヒントはあったものの、まさかこんな安直な仕掛けで大規模なな術式が発動するとは思っていなかった。

 何が起きたのか最初はよくわからなかったが、一つの可能性に至った。


 これはまさか黄泉比良坂よもつひらさかをイメージした仕掛けではないのか、と。


 死者と生者が住む世界の境界と言われる場所である。

 俺が学んだ限り、この学院は皇国内で最も建築年が古くて、非常に数少ない陰陽科を有する格式高い学園である。


 そんな学園の図書館の蔵書には、古書が一つも無かった。

 もしかしたら古く希少な文献や、通常に公開するには問題がある図書はこの場所に隠されているのではないだろうか?


 見たことの無い新たな知識との出会い、そして――謎めいた場所に辿り着いたことに胸を躍らせた。


 しかし、まずは危機管理こそが大切。

 命あっての物種だ。

 知識を得たところで現世に帰れなければなんの意味も無い。


 来る方法は解った。

 次は帰る方法を知ることである。


 俺が知る神話を模するなら、黄泉から帰るのには意味深に配置されている泉が関与しているだろう。

 泉に入り身の穢れを落とすように全身を濯ぐと、意識は再び流転――。



―――――――――――

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