第41話 追加

「義兄さん、私は怒っています」


「雫、話したのか?」


「此方はなにも話していない」


「じゃあ、なんで――」


「義兄さんが危険な真似をしていることはすぐに解りました。ちらちらと姫殿下――薄緑、さんの方も見ていましたし今日は様子が違いましたから。女の勘を舐めないでください」


 なにそれ、女の勘って怖い。


「……じゃあなんでここにみんなが集まったのか、知っているのか?」


「それはさっき長篠さんを問いただ――教えていただきました」


「国行……」


「す、すまん安綱。絶対教えるべきじゃねぇとは解っていたんだが、言わないと屋上から突き落とされそうな迫力だったから、さ……」


 国行が眼を逸らしながら言う。

 その瞳は小刻みに揺れており、どれだけの恐怖心を植え付けられたか察するものがあった。


 同情しますよ。

 女性ってたまにビックリするほど怖いよね。


「義兄さん、私が囮になります」


「断じて許しません」


「義兄さん……っ!!」


「考えてもみろ長光。囮が増えればその分、護衛する対象も増える。全体の危険性が増すんだ」


「ん。鬼女の狙いは女性。囮は、私だけで充分、だと思う。それに、私は囮役を譲る気はない」


「それは!……そう、かもしれませんが。でも私一人、ただ待っているなんて……・」


 俯いた長光は潸然さんぜんとして涙を浮かべる。


「長光……」

 

 表面張力を超えて涙が頬を伝っていく様子を見て、一同は驚愕した。


 予想外だ。

 長光は気が強くて自他共に厳しい。

 そんな長光の涙には、力がある。


「此方は長光も連れて行くべきじゃと思うぞ」


 どう諭すものかと考えていると雫が口を挟んできた。


「お前は何をいっているんだ?」


「長光の気質を考えてもみよ。絶対にそなた、あるいはここにいる誰かの後をこっそり付けてでも、その場にくるじゃろう?」


 雫の指摘は的を射ていた。


 確かに長光は感情制御が不得手だ。行動が先走る部分がある。

 感情を抑えて行動を抑制するのが不得手なのは、今日この場にいることや涙を溢れさせて懇願している現状からも明らかだ。


「それに、こやつの兄想いは過剰だしのう(ぼそ)」


「雫さんっ!?」


 雫の顔に長光がぐっと近づいた。


「ふふ。なんでもないわ」


「……?」


 隣にいる長光のみに聞こえる声で雫が発した一言に、長光が焦った様相をしている。


 そういう内緒話はさぁ、自分の悪口が言われているんじゃないかとか疑心暗鬼になるから止めて欲しい。


 過去のトラウマ……というと大げさだが。

 嫌な記憶が蘇る。

 看護師、介護士のお姉さん達、超怖い。


「安綱、どうするの?」


「貴様の判断次第だ。俺達は今回、お前の作戦に従うからな」


「そう、だな」


 申し訳なさそうに口を閉じている国行は置いといて、光世と金平は俺に託すといった意思表示をしてくれる。


「わかった。長光の参加を認めようか。――でも今回の作戦、一つだけ参加条件がある。自分で頼んでおいて難だけど、この条件は全員飲んでもらう」


「……条件、なに?」


 小首を傾げながら薄緑が代表して問う。

 みんなも傾注している。


「今回の作戦の指揮と立案は全て俺がする。指示には、絶対に従って貰う」


「……念のため再度確認しておく。貴様は姫殿下を絶対に守る作戦を立てるのだな?」


「もちろん。そこは絶対遵守の条件だろう」


「――ならばいい。今回、俺は姫殿下を御守りするために貴様の指示に従おう」


 一呼吸の間も置かず返す俺に金平は頷いてくれた。

 学期始めの不信感は払拭できたようだ。


 やはり真面目に努力を積み重ねて結果を出してきたことが大きいのだろう。

 何も努力せず、結果を出していなければこうはいかなかったはずだ。


「他のみんなもそれでいいか?」


 全員が頷いてくれた。

 表情は各々違うものの、とりあえずこれで組織としての統率が取れるだろう。


 あとは俺次第だ。


 部下を持ち、何度も目標と計画を立てて仕事はしてきた。

 しかし今まで感じたことのない程の緊張感がある。


 皆の命が、直接俺の指示にかかっている。

 自らの立場の責任というものを強く感じずにはいられない。


 だがこの仕事から得るものは良いストレスだ。

 気分が高揚して、なんとしても成功させようと前向きに取り組める。


 立場が人を変え、人を育てる。


「とりあえず作戦を伝える。決行は明後日の深夜。必要な装備と詳細な作戦は各々の携帯に連絡する。当日までは準備期間として、それまでは先走った行動はしないように。勝利条件は二つ。第一に生還。第二に鬼女の調伏。敗北条件は――大切な人の死だ。いいね?」


 異論は出なかった。


「じゃあ今日は解散で」



―――――――――――

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