第40話 友の力
翌日の昼休み。
俺は金平、国行、光世の三人を連れて食堂に来ていた。
「頼む、力を貸して欲しい」
昨日の薄緑が取っていた行動とその理由。
そして鬼女の退治に協力して欲しい旨を三人に伝えた。
三人とも一様に難しい顔をしている。
「……皇家の威信を保つためとはいえ、だ。姫殿下の大切な身体を危険に晒す
「ああ、それに関しては俺も同感だな」
金平が重い口を開き言う。
普段は軽い口調でへらへらしている国行も、今ばかりは真剣な面持ちで同調した。
「でも薄緑様はさ、僕たちが行動を
「間違いないだろうな」
「……僕たちだけで、薄緑様を守れるかな?」
「相手は陰陽寮が手を焼く……少なくとも下手をうつ可能性があるほどの妖魔なんだろ?」
「僕たちも式神と契約したとはいえ、まだ全然使いこなせてないし……」
「それに呪力が未熟だからなぁ……力も充分に引き出せないだろ」
呪力は陰陽師が式を用いる時に使う、エネルギーのようなものらしい。
各々の陰陽師が修練を積めば、ある程度までは成長すると言われている。
もちろん呪力の成長速度や限度値には個人差がある。
この辺りはスポーツ選手などと同様で才能があるかないか、という事らしい。
ちなみに学園の教育方針では、二学期から卒業までに一気に修練を積んで陰陽師としての呪力底上げを行っていくらしい。
つまり、まだ俺達は充分な研修も受けていない未熟者だということ。
「……俺は皇家のために命を捧げる覚悟がある。だが、さっきも言ったように姫殿下御身の安全の確保。これだけは譲れない」
「でもよ、退治に行ってくるから大人しく待っててくれ、なんて言って大人しくして下さるかぁ?」
「姫殿下なら大丈夫だ。……・と、言いたいところだが、な。どうやら姫殿下は臣民を思う、お優しい心が強すぎる。きっと、付いてきてしまうだろう」
「だよなぁ……」
三人とも薄緑の願いを叶えつつも護りたい。そんな強い意思が伝わってくる会話内容であった。
誰一人として、薄緑の行動を嘲笑ったり軽んじたりなどしていない。
正直俺は三人のことを心強く思うと同時に、薄緑に嫉妬していた。
こんなにも愛されているじゃないか。
何が死んでもそう悲しまれない、だよ。
アホか。
薄緑は自分の事を何も解っていない。
心の底からお前の身を案じて、真剣に同じ方向で目標を達成しようと考えてくれる。
喉から手が出る程に欲しても得がたい存在が最低でも四人いるんだ。
すぐ傍にな。
羨ましいよ。
……俺はきらきら輝いて、人を魅せつけるお前が眩しい。
その魅力っていう力はさ、元の世界での俺がどうやっても身に着けられなかったものなんだよ。
「薄緑の身を守る事に関しては、俺が命がけでやろう」
「……安綱。これは根性論でどうこうなる問題じゃない」
「もちろんだ。俺は絶対に何があろうと、薄緑を死なせはしないよ」
強い決意を金平に、みんなに示せたと思う。
「貴様に秘策がある、ということか」
「あるよ」
言い切る俺に金平は鋭い眼差しを向けてくる。
値踏みされるように向けられる視線からは、逃げない。
絶対に視線を逸らさない。真っ向から受け返してやる。
「――わかった。俺は協力しよう。何があっても姫殿下の命はお守りする。絶対にだ」
「俺もいいぜぇ。姫殿下の意思を叶える剣。皇国民なら誰もが燃える状況だな!」
「僕も心配はあるけど、いいよ。安綱を信じる」
「みんな本当にありがとう。よろしく頼む」
「それじゃ決行日時は放課後に屋上で話そう」
皆明るい表情で頷き、その日の昼休みはそこで解散した。
教室に戻ってから、薄緑に放課後時間を貰う約束を取り付けた。
通常通り授業が始まる。
午後の授業を受けているクラスメイト達は、どこかいつもより真剣な表情だった。
試験後、消化試合感がどうしてもある空間での授業態度では無い。
既に妖魔に挑むという緊張感と恐怖があるのだろう。
俺は自分にできることをやるだけだ。
頭の中で自分が成すべき事を一つ一つ考えては修正し、考えては修正し。
戦略を練っている俺の背に、一つの強い意思が籠もった視線が突き刺さっていることなんて全く気が付きもしなかった。
放課後。
既に短縮授業となっているため、日も高いうちに授業は終了だ。
俺は普段下駄箱に向かうのとは違い、屋上を目指し歩いた。
長光と雫には職員室に行ってくるから教室で待っていてくれと伝えてある。
教室から集団で屋上に向かっては周囲に不審がられると思い、俺はわざと一度トイレに寄ってから、個室で話をする内容を改めて
よし、と決意が固まったところで俺は屋上へと向かい、扉を開いた。
屋上には既に俺を除く全員が集まっていた。
のだが――。
「長光……?」
何故かここには呼んでいない長光と雫がいた。
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